表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/492

ギルドマスター


 声の主は、建物の中から、颯爽と歩いて登場した。

 その人は、ド派手な金髪を、オールバックに纏め上げて、耳には金のピアス。両腕に、宝石の散りばめられた腕輪を付けている。更には、首からは大きな輝く宝石の、ネックレスをつけた、いかにもお金持ちそうな男の人だった。年は、若いかな?おじさんと言うよりは、お兄さんという感じ。その背中に羽織ったマントも、凄く高そうです。そして、その腰元には一本の剣を携えている。一目見て分かるけど、それは伝説級の武器のようだ。勇者とか、偉い騎士様とか、そういう人が持つヤツ。ボクの目には、そういう武器を見分ける力があるらしくて、凄い武器と、凄くない武器の違いが、すぐに分かるんだ。凄いでしょ。

 ボクはそれを踏まえて、すかさず金髪オールバックのお兄さんのステータス画面を開く。


 名前:レイ・ヘイベスト

 Lv :85

 職業:ギルドマスター

 種族:人間


 れ、レベル85……さすがは、ギルドマスターさん。凄いレベルだよ。そして、それに見合うだけの武器という訳だ。


「オレは、このギルドのマスター。レイ・ヘイベスト。君の名前を、教えてくれないか」

「……」


 ボクは、首を横に振った。


「……まぁいい。君、こんな事をして、タダですむと思ってるのか。何人か、死んじゃってるよ?オレの、大切なギルドメンバーを殺したんだよ?死ぬよりも、辛い目にあう準備は、できてるよね?」

「ボクはただ、浚われた知り合いを、取り戻しに来ただけです……!ユウリちゃんを、返してください!」

「悪いけど、君は勘違いをしている。ここに、そんな浚われた女の子なんて、いないよ。そうだよな?」


 レイさんの言葉に応えるように、フラフラとした足取りで、建物から女の人が姿を現した。頭にネコミミの生えた、女の人。それを見て、人間ではない事は分かる。年齢は、20歳くらいだろうか。ボロボロな奴隷服を身に纏い、その首には、重厚な首輪が付けられている。彼女の全身は、あざや擦り傷だらけで、ボロボロ。その顔には、生気が全くない。


「……はい。ここには、浚われた女の子はいません。いるのは、正規のルートで処理をされた、奴隷です」

「だってさ。ちなみにコレ、飽きたしこの後ぶっ壊すんだ。君にはオレのギルドで暴れた責任を取って、オレの奴隷になってもらう。んで、コレの代わりは、君で決定。そっちのエルフは、部下にでも回してやるよ」


 レイさんは、楽しそうにそう言いながら、ネコミミの女の人の頬を、殴り飛ばした。女の人は、思わずその場に倒れこみ、そのお腹をレイさんが蹴り飛ばす。


「あぐっ!」


 苦しげな声をあげる女の人に、レイさんは加減なんてしない。更には、女の人の顔面を踏みつけて、ぐりぐりとする。

 痛そうだけど、奴隷さんなら仕方ない。正規のルートの奴隷さんという事は、そうされるだけの、理由がある訳だから、ボクが関わる事じゃないよね。


「最近の玩具は、脆くて困るんだけど、君は強そうだから、ちょっと丈夫そう?なるべく長く、楽しませてくれよ」

「……はぁ。バカですね」


 口を開いたのは、イリスだ。ボクの服を掴んで、後ろに隠れていたけど、離してボクの前へ出る。


「弱者を、暴力で支配して従わせるのは、クズの所業。それを甘んじて受け入れて、助かるチャンスを棒に振るのは、愚か者の所業。私から見れば、どちらも大して変わらない。どちらも、大嫌い」

「クズで、けっこう、だ!この世は、強者が弱者を支配する世界。強者は、好きな女を奴隷にして、弄ぶ権利があるんだよ。オレは、ただ欲望のままに、支配するだけ。誰も、オレには逆らえない!オレは、強いからだ!この女みたいに、村から浚って、それを止めようとした奴を殺したって、誰もオレを咎められない!オレが、強いからだっ!」


 ん?待って。今、気になる事を言った。


「今、浚ってきた、と言いましたね。その、女の事を」


 ボクが聞きたかった事を、イリスが聞いた。


「おっと。口が滑ったな。まぁいいか。そうだよ。コレは、たまたま立ち寄った村で、目に付いたから連れて来たんだよ。と言っても、同意させたがな。でも、飽きた。もういらない」

「聞きましたね?あれ、無理矢理浚われてきたみたいですよ」

「……」


 ボクは、その瞬間、地面を蹴った。地面が削れて、砂埃を立てる。その時には既に、ボクはレイさんの目の前にいる。

 そして、振りかざしたボクの拳が、レイさんの顔面を襲う。だけど、さすがはレベル85。そんな一撃を、レイさんは頭を下げて、避けて見せた。結果的に、ボクの拳はレイさんをかすっただけで、空を切る事になる。辺りは強風に襲われて、建物の窓ガラスは破れ、地響きまでもが起きるけど、ハズレはハズレ。


「……いや、驚いたな。凄まじい一撃だ。でも、当たらなければ意味はない。そして、今の全力の一撃は、そんなに連打できる物じゃない。違うか?」


 ボクから距離を取ったレイさんが、そう言ってくるけど、別に全然本気じゃないし、連打もできる。


「別に──ぶふっー!?」


 本気じゃないよ、と伝えようとしたけど、ボクはレイさんの姿を見て、噴き出してしまった。


「ぶわっはっはははははは!ひ、ひはははははははは!ぶふぉ、おえ、あははははははは!」


 ボクよりも、遥かに下品に、大笑いをするイリス。涙まで流して、大笑い。その気持ちは、よく分かる。

 大笑いをするボク達に、レイさんは自分の頭におきている異変に、気がついた。自分の頭を、手で触り、そこを確かめる。


「は……」


 レイさんの頭は、ボクの拳がかすったことによって、酷い事になっていた。オールバックに決めていた髪の毛が吹き飛んでしまい、てっぺんを中心として、円を描くように、大きな肌色の大地が出来上がっている。まるで、隕石でもぶつかったかのよう。しかしながら、頑張った毛根が、いくつかある。1,2,3,4……5本かな。5本の髪の毛が、肌色の大地に根付き、威風堂々と、風に凪いでいる。更に、前髪が少し無事で、目に垂れ下がっているのが面白さに拍車をかけている。


「は、ああああぁぁあぁぁぁぁぁ!?」

「……ぷっ」


 それまで、生気がなく、レイさんになされるがままになっていた、奴隷の女の人までもが、その姿を見て笑った。更には、ボクが顔面を殴っておとなしくさせた、このギルドの人たちまでもが、噴き出した。それくらい、インパクトのある絵面でした。


「よ、よくも……よくも、やってくれたなぁ?殺す、ぜってえぇぇぇに殺す!」


 血走った目をしたレイさんが、剣を抜いた。殺気の篭もったその目は、本気だ。それで、空気は変わった。レイさんが放ったすさまじい殺気に、笑いどころではなくなる。


「ぎゃははははははは!」


 ただ、イリスだけは笑い続けた。しかも、思い切り。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ