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小さく


 ボクはすぐに起き上がり、無傷なんだけど、ロガフィさんがそんなボクに駆け寄って来た。その顔は、とても悲しそうな表情だ。今にも泣きだしてしまいそうな程悲し気で、その身体は震えている。


「ごめんなさい……」


 震える手を差し出してきて、ボクの身体を支えてくれたロガフィさんなんだけど、ボクは本当に無傷で、どこも痛くも痒くもない。

 そりゃあ、もしかしたらボク以外だったらタダでは済まなかったかもしれないけど、ボクだったから。だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。


「へ、平気だよ。ボクは、頑丈だから」

「……」


 謝って来たロガフィさんに、そう言ったんだけど、凄く落ち込んじゃってる。そんな顔をされると、ボクの方が悪い事をしてしまったようで、ボクまで悲しくなっちゃうよ。


「何を二人して、悲し気な顔をしてるんですか」

「お姉さま!」

「ネモ様!」


 そこへ、お店の中から飛び出して来た皆が、ボクとロガフィさんを囲いました。ユウリちゃんとレンさんは、特にボクの身体を心配して、痣になってないかチェックするとか言ってくるけど、それが目的じゃない事は明らかだ。だから、スルーしておきます。


「ロガフィ。貴女がその力を行使しようとしないのは、もしかして力のコントロールが上手くいかないからですか?」

「……」


 イリスの問いかけに、ロガフィさんは小さく頷いた。

 確かに、先ほどボクを突き飛ばしたロガフィさんは、感情が昂った事がトリガーとなっていた気がする。決してロガフィさんの本意ではない事は、その後の本人の行動でよく分かります。


「昔、傷つけてしまった。私は、構ってほしかっただけなのに、お兄ちゃんを軽く突き飛ばしたら、お兄ちゃんは大けがを負ってしまった。他にも、物を壊したり、動物を殺してしまったり……私は、傍にいる者をいつも傷つけてしまう。だから、力を使う事を止めた」

「だから、なんなんですか、この平和主義の魔ぉ……いえ……」


 イリスが、魔王と言いかけて、周りの目に気づいて止めた。今は、聖女様の魔法もないから、周りに言葉が筒抜けだ。それを考えて、話さないといけない。というか、目立って嫌だな、ここ。騎士の人たち以外にも、通行人の目が痛いです。

 よく見たら、ディゼルトは店内からこちらの様子を伺っていて、目立たない所にいてずるいです。


「力の行使が、怖い、か。なるほど。コレでは確かに、安全のようだな。ラクランシュ殿の人を見る目は、確かのようだ」


 メイヤさんが、そんなディゼルトの頭を撫でながら、お店の出入り口に立って、そんな事を言っています。メイヤさんも、ユウリちゃんと同じ世界からの転生者なので、亜人種に対して特に偏見は持っていない。ディゼルトは、そんなメイヤさんの行動を、戸惑いながらも受け入れています。


「し、失礼します」

「……」


 とりあえず、また逃げられたら面倒だ。なので、ボクは一言断ってから、ロガフィさんの手を握っておくことにした。これでもう、逃げられません。


「……私はまた、傷つけてしまった。皆、私が怖くないの?」

「怖い?あれくらいで?貴女は、世界を知らなすぎです。この世には、もっと怖い物がたくさんあるんですよ」


 イリスがロガフィさんをあざ笑うように言うと、ロガフィさんはゆっくりと、ユウリちゃんの方を向きました。


「な、何で私を見るんですか?」

「あははは!」


 まぁ、そうだね。ユウリちゃんは、色々な意味で怖い。ロガフィさんは、よく分かってるなぁ。

 イリスはそれを見て、大笑いです。ユウリちゃんがそんなイリスを睨みつけると、すぐに笑うのをやめました。


「そういう訳です。ロガフィさんは、怖くないですよ。私たちの大切なお友達で、そんなお友達が死地へ行こうとするのを、みすみす見逃す訳にはいきません。だから、とりあえず一緒にお店に戻って、皆でどうすべきか考えましょう」

「そ、それがいいね!そうしよう!」


 ユウリちゃんの提案に、ボクは激しく首を縦にふって、同意します。いつまでもこんな所にいて、注目され続けるのは嫌だから。だったら、店内で一部の人たちに注目された方がましという物だ。


「考え、る?」

「そうですよ。あの男を……ジェノスさんを、ロガフィさんは助けたいんでしょう?」

「……」


 ユウリちゃんが尋ねると、ロガフィさんは力強く頷いた。


「だったら、私たちもロガフィさんに協力します。だから、一人で追いかけようなんて、考えないでください。もしそんな事をしたら、私たちは凄く怒ります。怒って、追いかけて叱って、仲直りするまで傍にいますからね」


 ユウリちゃんがそう言って、ロガフィさんの手を、ボクの手と重ねて握った。


「そうですね。ユウリさんの、言う通りです。私たちはもう、お友達なんですから、だからもっと、頼ってください」


 レンさんも、そう言ってロガフィさんの手に、手を重ねてくる。


「……」


 空いている、ロガフィさんのもう一方の手を、黙って握ったのはイリスだ。照れているのか、あらぬ方向を見て、顔を赤くしているのが印象的だ。

 ロガフィさんと一番仲がいいのは、たぶんイリスだからね。なんたって、仲良しのちゅーをするくらいの仲だから。


「……ありがとう」


 そんなボク達に、ロガフィさんは小さく、お礼を言った。そして更に、本当に小さく、笑ってくれました。


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