恥ずかしい
突然現れた聖女様もボク達に混ざり、注目度が更に上がりました。ギルドマスターに、聖女様に、亜人種の女の子に、一部で話題になっている、漆黒の調教……加えて、周りのみんなは知らないけど、元魔王と、元女神もいます。ある意味、凄い面子だね。
近くの人たちは、何も言っていないのにそんなボク達から離れていき、ボク達を囲ってキレイに空席ができています。
聖女様の護衛の騎士たちは、外に待たせているようで、ギルドの外に姿を見る事ができる。
「あ、すみません。私、ホットコーヒーをお願いします。ブラックで」
「は、はいー」
ウェイトレスさんに、メイヤさんの隣に座った聖女様が、手を挙げて注文をしました。意外にも、注文しなれているようで、注文を受けたウェイトレスさんも驚いている。
「お久しぶりです、ラクランシュ様。父上の件は、お世話になりました」
「レンファエル様も、お元気そうでございますね。それもこれも、ネモさんのおかげでしょうか。愛の力、というヤツですね」
「はい~」
聖女様が、レンさんを茶化すように言うと、レンさんは顔を赤くして、肯定。こんな公衆の面前でそういわれると、ボクまで恥ずかしくなってきます。
それに対抗するように、ボクの隣に座っているユウリちゃんが、ボクとの距離を詰め、腕にくっ付いてきました。
「ずるいです!私も!」
反対側に座っているレンさんも、それに対抗してくっ付いてきました。ご飯中なのに、とても食べにくい。といっても、ほとんど食べ終わってるから別にいいんだけどね。それに、お腹いっぱいになった後で、2人の少女の胸の感触を腕で感じられるとか、なんて贅沢なんだろう。
「レンファエルって、貴族のヘンケルさんの娘だよな……あの女の子が、好きなのか」
「ああ、美少女同士だ。たまんねぇな」
「でも、漆黒の調教師とも、できてるみたいだぞ」
「私は断然、レンファエル様を応援するわ」
でも、周囲がボク達を見て、そんな話をしているのを聞くと、やっぱり恥ずかしい。好き勝手に話す人たちの会話は、憶測とかも混じっていて、反論したいけどそんな勇気はボクにはない。
「す、すごい。ネモさんは、レンさんとユウリさんと、三角関係というヤツなんだな。女性同士だというのに、周囲の目は気にしない……なんてすばらしいんだ。私は三人を見ているだけで、いくらでもご飯が進みそうだぞ」
興奮した様子のディゼルトが、ボク達を凝視しながら、お肉をかきこんでいます。そこに、先ほどまでの遠慮がちの様子はない。良い食べっぷりに、思わずみとれちゃいます。
「あ、あまり、見ないでくれ……恥ずかしい」
しばらく見ていたら、ディゼルトが顔を赤くして、目を背けました。そして、ご飯を食べる手を、止めてしまいます。
「ご、ごめんね。美味しそうに食べるから、つい見ちゃって……」
「い、いや。我儘をいって、すまない。別に、見てほしくないという訳ではないのだ。そ、そんなに熱い視線を送られると、照れてしまうと言うか……」
「う、うん。気持ちは、分かるな」
ボクも、あんまりじっと見られると、恥ずかしくて穴の中に入りたくなっちゃうから。最近はそれでも、だいぶ普通に外に出れるようになったけど、昔はもう、本当に酷かったからね。注目を浴びたりすると、気持ち悪くなって、吐いちゃうくらいだ。
もしかしたら、ディゼルトとは気が合うのかもしれません。
「コーヒー、お待たせしましたー」
「ありがとうございます」
そこへ、注文のコーヒーをウェイトレストさんが運んできてくれて、それを早速、聖女様が口に運びます。ブラックで飲むとか、さすがは大人だ。飲み方も、とても優雅で気品があって、見とれちゃいます。
「……確かに、注目されると、ちょっと照れてしまいますね」
「ご、ごめんなさいっ」
ボクは、ディゼルトに引き続き、聖女様も見つめてしまっていた。聖女様は、困ったように笑いながらそう言ってきて、すぐに目を逸らしたけど時すでに遅しです。
「普段は、人に見つめられてもなんとも思いませんが、ネモさんのような可愛らしい方に見つめられると、気になってしまうようです。さすがは、レンファエル様が好きになった女性ですね。私もその気持ちが、理解できてしまいます」
「だ、ダメですよ、ラクランシュ様!ネモ様は、私の物です!」
「どさくさに紛れて、何を言ってるんですかレンさん!?お姉さまは、私のです!」
ボクは、誰の物でもない。でも、ボクを取り合って、可愛い女の子が言い争いをするとか、悪い気分ではありません。2人には仲良くしてもらいたいけど、でも凄く嬉しく感じてしまいます。
そんなボク達を見て、ディゼルトが再び、ご飯をかきこんでいます。今度は見つめずに、すぐに目を逸らしました。
「いや、ネモは確かに可愛いが、至高はイリスだ。イリスこそ、世界一可愛い。イリスを、食べたい。愛したい。飼いたい。結婚したい」
「公衆の面前で、気持ち悪い事を堂々と言わないでください、変態!」
「ふ。イリスになら、どんなに罵詈雑言を浴びせられようと、それは私にとってのご褒美となる。さぁ、もっと私に酷い事を言うがいい!」
「……」
イリスが、メイヤさんを見て、ひきつった表情を浮かべます。ボクも、引いてます。
大勢の、ギルド所属の冒険者を前にしても、メイヤさんはやっぱり、メイヤさんだ。凄いけど、褒める気にはなれません。
「変態は、もう放っておきます。それで、聖女。何か、私たちに用ですか」
「……はい」
メイヤさんが、イリスに放っておく宣言をされて、笑っている。イリスはそれを無視して、聖女様にそう問いかけます。すると、聖女様は、深刻そうな顔をして、静かに頷きました。
なんだか、凄く言いにくそうです。




