とっておきます
ボクも、ディゼルトの耳や尻尾を、触りたいという欲求を抑えつつ、夜も更けてきて眠る時間です。とりあえずはボクがいつも寝ている寝室に、皆で集まって、そこで問題になったのは、どう寝るか、だ。どう寝るかとは、誰と誰が一緒に寝るとか、そういう事です。
ロガフィさんはイリスと寝たいと言うし、レンさんは、今日もボクと一緒に寝たいと主張。ユウリちゃんもボクから離れるつもりはないし、イリスもボクと寝たいと言ってくれている。
ベッドや布団は、隣の部屋に人数分ちゃんとあるのに、誰と誰が一緒に寝るのかの、争いが勃発しました。
「私は、ずーっとネモ様から離れて寝てたんです。今日も、当然ネモ様と一緒に眠る権利があるはずです!」
「抜け駆けして、キスしたからもういいじゃないですかっ。レンさんは、隣の部屋で寝てください。お姉さまは、私と寝るんですから。なんでしたら、二人きりでと言うのも、いいですね。誰も部屋には入れず、二人で朝までくんずほぐれずですよ」
「そうは、させません。私も、ネモの隣で寝ます」
「……イリスと、寝る」
「ぜ、絶対に誰かと一緒に寝ないといけないのか?私は、同じ部屋で眠ると考えるだけで、心臓の鼓動が速まってしまうのだが……。なんだったら、私は廊下で、雑魚寝させてもらおうと思う」
「ダメです」
ディゼルトの申し出だけは、ディゼルト以外の満場一致で、却下されてしまいました。
その後も、それぞれ自分の意見を言うだけで、全くまとまらない。言い争いに疲れたイリスが、うとうととうたた寝を始めています。ボクも、眠くなってきて、欠伸が止まりません。
「今日は、いつも通り寝よう。ボクと、ユウリちゃんと、イリスの三人で」
「そんなぁ!」
レンさんが、涙目になってしまい、心が痛みます。でも、このまま言い争っていたら、朝になっちゃうよ。だから、心を鬼にさせてもらいます。
「残念……」
ロガフィさんは、しょんぼりとしながらも、レンさんの頭を撫でて、慰めてくれます。
「れ、レンさんとは、また今度」
「……はい。約束です」
ボクがそう言うと、レンさんは泣き止んでくれました。
「わ、私はやはり、廊下で良い。て、手を離してくれロガフィ」
「……」
ロガフィさんは、レンさんとディゼルトの手を引いて、隣の部屋へと向かっていきます。その様子は、なんだかちょっとはしゃいでいるように見えるのは、気のせいかな。無表情だから、分からないけど、そうなら嬉しいな。
「ちなみに寝室以外の場所で眠ると、もれなくアンリ君の幽霊姿が目撃できます」
「ひぃ!?」
去っていくディゼルト達に、ユウリちゃんが投げかけた言葉により、ディゼルトが抵抗をやめて、ロガフィさんに抱き着きました。そのまま、3人は部屋から去っていき、静かになります。
後に残ったのは、こくこくと居眠りをしているイリスと、ボクと、ユウリちゃんの、いつもの3人だけ。とりあえず、ボクはイリスをベッドに横にならせて、布団をかけて眠らせます。
「ユウリちゃん。ボク達も寝よう」
「はいっ!」
ボクは、イリスの隣に横になり、ユウリちゃんは喜々としてボクの隣に横になって、仲良くいつものスタイルで眠りにつきます。ユウリちゃんは、ボクの身体にひっついて、密着してきます。イリスも、甘えるようにボクの腕に抱き着いて眠り始め、規則正しい寝息をたてている。
「……お姉さま」
「なに?ユウリちゃん」
天窓から見える星空を眺めながら、話しかけてきたユウリちゃんに、声を絞って答えます。
「ずっと、一緒です」
ユウリちゃんがそう言った直後に、ボクの頬に柔らかな感触がありました。隣を見ると、ユウリちゃんが恥ずかし気に頬を赤く染めて、笑っています。どうやら、ユウリちゃんが頬に、キスをしてくれたようだ。
ど、どうしよう。凄く嬉しい。自然と笑顔になってしまい、元に戻りません。
「本当は、お姉さまの唇が欲しいんですけど、それはまた今度の楽しみに、とっておきます」
「……うん」
今、そんな事をしたら、恐らくボクは、眠れなくなってしまうだろう。だから、ここはユウリちゃんの言う通り、今度の楽しみにとっておきます。ボク達には、この先まだまだ一緒の時間があるんだから、タイミングはいくらでもあるはずだ。
だから、おでことおでこをくっつけあい、笑い合って、お互いにそっと、目を閉じます。
「おやすみ、ユウリちゃん」
「おやすみなさい、お姉さま」
両手に、イリスとユウリちゃん。2人のぬくもりを感じながら、ボクは眠りにつきました。




