耳と尻尾
結局ユウリちゃんとは、邪魔に入ったGランクマスターにより、キスはできませんでした。凄く残念だけど、ユウリちゃんとは今後もずっと、一緒にいるんだ。だから、そんな機会は、いつでもやってくる。
そう言い聞かせて、我慢する事にしました。もう、そんな雰囲気じゃないからね。
「んふふー」
でも、その後のユウリちゃんはご機嫌となり、ボクから全く離れてくれません。腕にくっついたまま、幸せそうな笑顔を浮かべて、胸をくっつけてきます。
ユウリちゃんの、小ぶりながら確かな胸の膨らみを感じつつ、現在ボクはリビングでイスに座り、前にイリスにオススメされた本を読んでいます。でも、全く集中できません。ユウリちゃんの良い匂いと、胸の感触と、そして肌がこすれる感触が、たまりません。オマケにちょっと視線を下ろしたら、ボクの腕にくっついて潰れ、谷間になっている胸が、見えちゃっています。
こんなに可愛いユウリちゃんに、ボクは一生一緒にいてと告白して、オッケーをもらい、キスまでしそうになったんだよね。今思えば、ボクは凄い事をしてしまったんじゃないだろうか。思い出して、顔が熱くなってきます。
「私とロガフィさんがお風呂に入っている間に、一体何があったんですか……?」
お風呂からあがってきたレンさんが、そんなユウリちゃんの様子に、違和感を感じて尋ねてきました。その目は、どこか深い闇に染まっているようで、ちょっと怖いです。
「……仲良し」
ロガフィさんが、呟くようにそう言いました。
その服装は、皆と同じ、白のワンピース姿です。白髪のロガフィさんに、色が凄くマッチしていて、可愛い。
これで、全員お揃いの、白のワンピース姿となったんだけど、見渡す限り美少女のワンピース姿で、眼福です。ちなみにいつの間にか、アンリちゃんもワンピース姿でした。
「え……ちょ、ちょっと待ってくれ。ロガフィ……さんは、魔族だったのか!?」
ロガフィさんは、お風呂に入る前までつけていた、帽子を外している。なので、その帽子の下にあった角が、丸見えとなっています。ロガフィさんの正体を知らなかったディゼルトが、それを見て驚きの声をあげました。
「ロガフィで、良い」
言いにくそうだったディゼルトに対して、ロガフィさんが、さんはいらないと言った。
ボクも、ディゼルトの言いなれていない感じが気になったので、それがいいと思います。
「しかも、元魔王さんだって。凄いよね。そうは見えないけどっ」
空中をふわふわと浮かんでいるアンリちゃんが、更にそんなディゼルトに言いました。
「ま……!?」
重ねて、ディゼルトが驚愕しています。
アンリちゃんを怖がるのも忘れてしまうくらい、驚いている。あ、でもアンリちゃんが距離を詰めたら、怖がってしゃがみこんじゃった。
そんなディゼルトの肩を抱き、アンリちゃんから庇うようにしたのは、ロガフィさんだった。アンリちゃんはアンリちゃんで、今は別に、ディゼルトを驚かせる意識はなかったようで、すぐに退散して距離を取ってくれている。
「あ、ありがとう。どうしても、幽霊というものには馴れなくてな」
「……耳」
「耳?」
「耳を、触らせてほしい」
ロガフィさんが、唐突に、ディゼルトにそんなお願いをしました。ロガフィさんの視線は、ディゼルトの、ぴこぴこと動いている、犬耳に向いています。
ネコミミ帽子をいつも被っているから、もしかしたらロガフィさんは、動物が好きなのかもしれない。
「構わないが……しかし、何もないぞ?」
「……いい」
許可を得たロガフィさんが、そっと、優しく、ディゼルトの耳に触れました。
「ん……」
「……」
ロガフィさんは、黙って、ディゼルトの耳をこねまわします。指の先端で、弾く様に触ったり、撫でたり、掴んで親指でこすったり……。
「んっ、あっ……だ、ダメ、だ……」
段々と、ディゼルトの声が、色っぽい物へと変わっていく。色っぽくなっていくのに呼応して、力が抜けたように、床へ倒れかかっていくけど、ロガフィさんがそれを片手で支えて、触り続けます。
「……尻尾も」
「だ、ダメだ!尻尾は、ひゃうんっ!?ひっ、尻尾は、びん、かん……だからっ」
ロガフィさんは、止まらない。嫌がるディゼルトに構わず、尻尾にまで手を伸ばして、尻尾を掴むと、指先で刺激したり、上下に動かしたりと、やりたい放題だ。
「はむ」
「ひゃああぁぁ!?」
あげくの果てには、ディゼルトの耳に、甘噛みしました。ディゼルトは甲高い悲鳴を上げて、身体を震わせます。その顔は、興奮したように真っ赤に染まっていて、その……なんというか、凄くえっちです。
レンさんなんて、直視できないようで、顔を赤く染めて手で隠してるからね。
「ネモ。鼻の穴が広がっていますよ。ユウリも」
ボク達の様子を、ボク達の正面でイスに座って本を読んでいたイリスが、呆れたようにそう指摘してきました。自分の顔は分からないので、ユウリちゃんの顔を伺うと、鼻の穴を広げて、興奮して息を荒げています。ボクも、こんな顔してたんだと思うと、呆れられるのも当然だね。
「貴女も、いつまでやってるんですか。やめなさい、そこまでです」
本を閉じたイリスが、ロガフィさんをディゼルトから引きはがしました。というより、イリスにおとなしく従って、ロガフィさんから自主的に離れただけだけどね。
でも、イリスが止めなければ、ロガフィさんはまだまだ触っていたと思います。
「満足」
「そうですか……」
ようやく解放されたディゼルトは、床に倒れこんでいます。顔を赤く染め、息を荒くして、服が乱れている。涙目になり、自分の身体を抱いているその格好は、魔王に敗北した騎士のようでした。




