お風呂
レンさんは、ボクに対しては、ユウリちゃんのようにおかしな事をしてくる可能性がある。というか、ユウリちゃんがそれは許さないだろう。先ほどボクとキスをした事を、ユウリちゃんは凄く怒ってるからね。
一方でイリスは、べたべたとくっついてくるロガフィさんとお風呂に入るのは、嫌だと言っている。ロガフィさんはちょっと寂しそうだったけど、そういう訳でボクとイリスのペアがお風呂に入る事になりました。
「まったく、どうして私が貴方とお風呂に入らないといけないんですか。ユウリの突拍子のないアイディアにも、困ったものですね」
「そ、そうだね」
ボクは、素っ裸の状態で、同じく素っ裸のイリスの背中を、洗ってあげています。イリスは金色の髪の毛を肩にかけ、身体の前側にたらして、背中を洗いやすいようにしてくれています。
イリスの背中、小さいな。でも、肌が白くて凄くキレイ。色気はないけど。
これが、レンさんとか、ロガフィさんとか、ましてやユウリちゃんの背中だったら、ボクはどうなっていたのだろう。もしかしたら、倒れちゃうかもしれない。そう考えたら、イリスで良かったなと思います。
「それで、この私の裸体をみた感想は、どうですか……?」
「え?か、感想?」
「そうですよ。この高貴たる女神の私の裸体を見て、なんとも思わない訳ないですよね?素直に、思ったことを述べていいのですよ」
そういうイリスは、前を向いたままだけど、尖った耳の先端が赤くなっているように見える。それが、お風呂場の暑い温度のせいなのかどうかは分からない。
「え、えと……凄く、キレイだよ」
「ふふん。そうでしょう」
ボクの返答に、イリスは満足げだ。
「それにしても、貴方はある意味で、運が良いですね。もし女になっていなければ、この私の裸体を拝む事は勿論許しませんし、触れる事なんて論外です。自分の幸運を噛み締めつつ、私に感謝しながら洗うがいいです」
「はいはい」
軽く返事をして返すけど、でも、運がいいというのは、本当だ。女の子になってなければ、ユウリちゃんとも仲良くなれていなかったかもしれないから。
それに、イリスの言う通り、イリスと一緒にお風呂に入れるというのも、ちょっと嬉しい。女の子同士ならではのイベントに、正直ボクは興奮しています。例えイリスのような幼女が相手でも、イリスの正体は、あの豊穣の女神イリスティリア様そのものだ。そう考えると、興奮せざるを得ません。
「はい、それじゃあ次。前もお願いしますね」
「へ?」
背中を洗い終わると、イリスが振り返り、ボクの方を向いてきました。柔らかそうな肌と、キレイな肌。背中とは違い、ぷにぷにとした肉付きで、胸も少しだけ膨らんでいる。
対面したイリスの顔は、恥ずかし気に赤く染まっていました。でも、それを誤魔化すように、偉そうにふんぞり返っています。
「見とれる気持ちも分かりますが、早く洗ってください」
「う……うん」
イリスが手を差し出して来たので、ボクはまず、その手を受け取って、手から洗い始めます。
「ん……あっ……」
たまに、ちょっと色っぽい声を漏らすイリスに、ボクは心臓がばくばくです。脇の下は敏感なのか、そんな声がちょっと大きくなります。なので、慎重に、優しく撫でるように洗ってあげて、腕は洗い終わりました。
次に差し掛かろうとしたけど、そんなボクの手を、イリスが掴んで止めてきます。
「や、やっぱり、前は自分で洗いますね……」
「そ、そうだね。それがいいと、思う……」
自分から洗うように言ってきたのにと思うけど、ボクもこれ以上は止めた方がいいと思う。色々な意味で、色々と危ないです。
それから、それぞれ自分の身体をキレイに洗ってから、お湯に浸かります。頭にタオルを巻き、中に髪の毛をしまってからボクが先に湯船に入って、そこに同じようにタオルを巻いたイリスが、自然と重なるように座ってきました。足の間にイリスが座り、ボクの胸に背中を預けてきます。
「はぁ~」
「はふ~」
2人でお湯に浸かり、気持ちよさげに息を漏らしました。
ボクが女の子になってから、こういうスキンシップは割とよくする。でも、今は互いに裸で、いつもとは状況が違う。イリスの体温が直に伝わってくるし、それに肌の感触がすべすべで、凄く気持ち良い。
イリスは、なんとも思わないのかな。ボクも一応は元男だった訳だし、そんな男だった頃のボクも知っているのに、抵抗ってないのかな。
気にはなるけど……でも、まぁいいか。ボクは、イリスの頭に顔を埋めながら、細かい事を考えるのは止めました。
「……ユウリと、何かあったのですか?」
「え?」
突然イリスにそう言われたけど、ボクにはなんの事か分からない。ユウリちゃんとは、確かに剣で刺されたり色々あったけど、もう全部解決している。ユウリちゃんも、普段通りだし、イリスに何かあったのかと言われるような事ではないと思う。
「いえ……気になる事がないのなら、別にいいんですけどね。ですが、貴方が気づいていないだけ、という可能性もあります。でも、もし私の言葉が少しでも気になるようでしたら、気にかけてあげなさい。ユウリはあれで、傷つきやすく、脆い人間ですから」
「……うん。ありがとう、イリス」
ボクが気づいていないだけ、という可能性は大いにある。イリスがそう感じたのが、その証拠だ。
大切な事を教えてくれたイリスに感謝しつつ、ボクは頭の中で、数を数え始めます。お風呂は、百秒と昔から決めてるから。




