抜け駆け
家に帰ってくる前に、今朝の出来事をユウリちゃんがボクに教えてくれた。それは、ボクがレンさんにしてしまい、レンさんがボクと恥ずかしがり、目を合わせてくれなかった理由だ。
その理由と言うのは、今朝、ボクは寝ぼけてレンさんの胸に顔を埋め、更にはその胸の先端をあれこれしてしまっていたらしい。
それを聞いて、今度はボクが恥ずかしくなってしまい、レンさんとどう接していいのか分かりません。家に帰ってきてからずっとこんな感じで、お互いに顔を合わせずにいる。
「……貴方たちは、一体何をしているんですか。やっと普通に戻って来たと思ったら、重症化して戻ってくるとか、訳が分かりませんよ」
見かねたイリスが、本を閉じてそう言ってきた。閉じた本を、膝の上に座らせてもらっているロガフィさんに手渡し、ロガフィさんはその本を、腕に抱いて預かる。それから、ロガフィさんが机に手を伸ばして、お茶の入ったコップをイリスに手渡すと、イリスはそれに口を付けて飲んでいる。
なんやかんやと言って、ロガフィさんを上手く使いこなしているイリスが、そこにいた。
ボクからしてみれば、イリスとロガフィさんの方が、何をしているのかと言いたい所です。
「こ、これには、深いわけがあるんですっ」
「わっ。や、やめてくれ。苦しい」
イリスに反論するレンさんの、抱きしめていた赤狼を握る手に力が入ってしまい、赤狼が慌てて訴えた。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いや……」
その訴えに、すぐに手を離すレンさんだけど、赤狼は顔を真っ赤に染めて、恥ずかし気に体をもじもじとさせている。
そう言えば、赤狼も、女の子が好きだと公言していたっけ。特にレンさんが、可憐で好みだとか……。そんな好みの女の子に、胸に抱きしめられたら、そりゃあ恥ずかしいよね。
そんな2人を、ボクとレンさんと置き換えると、今朝の出来事は、赤狼がレンさんに、これ以上の事をされたという事になる。こんな生易しい物ではなく、もっと濃厚に、まるでエロゲのようなハプニングが起きてしまったのだ。その場合、顔が真っ赤になるだけで、済むかな。済まないよね。抱きしめられただけで、もじもじと恥ずかし気にしている赤狼を見ていると、ボクはそう思います。
そう考えると、ボクがレンさんにしてしまった事は、やっぱりボクに責任がある。レンさんは、ボクを愛していると公言してくれていて、ボクはそんなレンさんに、とんでもない事をしてしまった。レンさんが恥ずかしがるのは当然で、ボクのせいで、ぎくしゃくとしてしまっているんだ。
「れ、レンさん!」
「はい……!?」
ボクは、恥ずかしさを吹き飛ばすように、レンさんの名前を呼びながら、、レンさんに迫った。そして、レンさんが逃げられないように、肩を掴んでその顔を真っすぐに見据える。
お互いの顔が急接近して、レンさんの顔が見る見るうちに、真っ赤に染まっていく。ボクもたぶん、真っ赤だ。
「ご、ごめんなさい……。ボクは、寝ぼけてたとはいえ、レンさんに酷いことをして……」
「ひ、酷くなんて、ありません!むしろ、ご褒美であり、私はネモ様に求められているようで、嬉しかったです!た、ただ……こういう事があった後、どう接したらいいのか分からなくて、頭がこんがらがってしまって……だから、謝らないでください!」
「う、うん。でも、レンさんと目が合わせられないのは、嫌だったな……」
ボクが、笑いながら言うと、レンさんがやけに近づいて来る。レンさんは、いつの間にかボクの首に手を回し、逆にボクが逃げられないようになっていた。
逃げられなくて、近づいてくる。その結果、どうなったかというと、ボクの唇と、レンさんの唇が、重なる事になりました。
柔らかな感触が、唇から伝わってきます。ラメダさんとした時とは、まったく違う感触と、味だ。
「ぷはぁ……コレでもう、恥ずかしくないです、よね」
ボクから唇を離したレンさんの瞳は、潤っていて、顔は先程よりも真っ赤。そして、色っぽく舌を出し、ニッコリと笑いかけてくる。
「ふ、ふふ、ふた、二人は、そういうかかか関係なのか!?女性同士だと言うのに、良いのか!?許されるのか!?」
キスをしたボクとレンさんを見て、赤狼が慌てだした。顔は真っ赤で、パニックになり、尻尾と耳の毛が逆立っている。
「許されます。私はネモ様を愛しているので、愛ある限りは、全てが許されるのです。ね、ネモ様。ネモ様?」
「ふひゅう……」
ボクは、頭が沸騰するのを感じて、意識が飛んでいきます。レンさんが支えてくれているおかげで、倒れはしないけど、そんな薄れゆく意識の中で、包丁を持つユウリちゃんが目に入りました。
「また、抜け駆けをして……二度目は、許しませんよ……?」
少しして目が覚めると、何故か皆おとなしく食卓のイスに座っていて、静まり返っていました。アンリちゃんまでもが、何かにおびえて部屋の隅っこで、おとなしく座っている。ぎゅーちゃんは、ぎゅーちゃんの家に籠っています。
ボクが寝ている間に、何があったのか尋ねても、誰も答えてはくれませんでした。




