罰
キャリーちゃんは、浚われた後、先程ボク達が襲撃した、キャリーちゃんの家の隣の家に、監禁されていたらしい。そこでは変な事はされずに済んだけど、ご飯を食べさせてもらえず、しかもいきなり、男の人に担がれて移動している所を、やせ型の男の人と、筋肉の男の人に、止められた、と話してくれた。
何はともあれ、無事で何よりだ。その後、キャリーちゃんをレイラさんの下に連れていき、2人とも家へと帰っていった。その際に、メイヤさんの配慮で、キャロットファミリーの冒険者が護衛についてくれたので、心強い。キャリーちゃんに対して、メイヤさんが気持ち悪い事を言っていたけど、そこは省きます。
そして、ゲットル奴隷商会のレヴォールさんは、ヘイベスト旅団のギルドマスターと同じく、逮捕されて監獄へと連れていかれました。これによって、レヴォールさんが所有していた、全ての奴隷の所有権はなくなり、解放される事となりました。もちろん、赤狼と、その家族も。でも、良い事ばかりではない。キャリーちゃんを浚おうとしていた男の人をはじめとして、レヴォールさんが所有していた奴隷の中には、元々犯罪者が裁判の結果として、奴隷になったりしている者が多いようで、そういう人達はレヴォールさんの奴隷紋が効力を失ったことにより、自由の身となってしまったらしい。キャリーちゃんをどこかへ連れて行こうとした男の人は、身柄を確保されたけど、他の人はそんな感じになってしまった。捕まえて、再び奴隷にしないといけないみたいだけど……それに関しては、他の誰かが頑張る事なので、誰かに頑張ってもらおうと思います。
一方で、赤狼がリーダーを務めていた、傭兵の人狼は、姿を消してしまった。人狼は、実力のある赤狼をリーダーとして認め、赤狼に従ってきた。でも、レヴォールさんが監獄送りになり、赤狼も、人狼のメンバーとしている意味がなくなった今、彼らがこの町に残り、レヴォールさんと共倒れになる理由もない。という事で、姿を消してしまった彼らは、きっと他の所でまた、傭兵として暗躍する事になるんだと思います。メンバーとは、それなりに仲が良かったという赤狼は、置いて行かれてちょっとだけ寂しげだったけど、それで良いんだと割り切っていました。
「さて。そこで、赤狼さんに対する処分が、父上から言い渡されています」
赤狼は、いくらレヴォールさんに奴隷にされていたから仕方ないとはいえ、色々な悪い事をしてきてしまっている。だから、コレではい、お終いなんて事には、できないそうだ。
レンさんが、そう言いながらイスに座る赤狼の前に立ちはだかっている。その様子は、さながら犯罪者に刑を言い渡す、裁判官のようだ。
「……分かっている。どのような罰も、受けよう。それくらいの覚悟、あの男の奴隷になった瞬間から、もう出来ている」
覚悟はできているとは言え、赤狼の耳が、元気なく萎んでいるのが、赤狼の心境を表しています。
赤狼は、帽子を脱ぎ捨てて、マントも脱ぎ捨てた格好だ。赤狼の服は、袖のないデザインの服で、マントの下は、ちょっとだけ露出が多い。おへそが見えているし、スカートだしね。女の子らしく、可愛くて似合っているけど、クールな赤狼にぴったしの服装だ。ただ、ちょっと気になったのは、あちこちに切り傷の痕が見える事かな。その傷は、いったいどうしたんだろう。後で、さりげなく聞いてみよう。
「赤狼さんには、罰として私の家で雇われて、お抱えの傭兵として護衛についてもらいます。他にも二人、同じようにお抱えで護衛についてもらっている冒険者がいるのですが、今は所用で出かけておりまして。二人が戻ったら、一緒に私を守ってください。以上です」
「……以上?」
「はい。お願いしても、良いでしょうか」
「……」
赤狼は、呆然としている。
そもそも、ボクの家でそんなに重い判決が、伝えられる訳がないです。周りを見てみてよ。イリスはロガフィさんに抱えられながら本を読んでいるし、ユウリちゃんは夕飯の支度をしている。ボクは、ぎゅーちゃんを頭に乗せて遊んで、アンリちゃんはアンリちゃんを怖がって目を合わせようとしない赤狼の周囲を、あえて飛び回って遊んでいる。
こんな雰囲気で、重い判決を下す人って、この世にいないと思います。
「当然、その前にご家族に会いにいかれても構いませんし、雇われてからも、事前に言っていただければ、お休みをとって会いにいっていただいて構いません。雇用という形となるので、もちろんお給料も出ます」
「い、いや、待ってくれ……私は、罰が下されるのではないのか?それでは、罰にならない。私のした事は、赦される事ではないはずだ」
赤狼の話では、人を殺めたりもしてきたという。そこが一番、赦される話ではないけど、それは赤狼の意思ではない。赤狼は、とても優しい人だ。それは、話していて分かるし、そんな事をさせた、レヴォールさんが悪い。
「赤狼さん。私の父は、操られて意思とは反する事をしてしまう苦しみを、知っています。父も、操られていた時は、娘を生贄に捧げたり、犯罪者と組んで町の治安を一気に悪くしたりして、人々の反感を買ってしまいました。ですが、目が覚めた父を、誰も責めようとはしませんでした。皆、操られていたのなら仕方ないと、納得し、父はその声に応えるように、今は頑張っています」
「しかし……私は、貴方の父親とは違う。人望もない、ただの汚れた亜人種のメスだ。断罪されこそすれど、恩をかけられる理由が、ないのでは……」
「そもそも貴女は、汚れてなどいません。自分を卑下するのは、ここまでです。貴女には家族の下に戻る権利がありますし、先程私が言ったことが、貴女に与えられた罰であり、全てです。もちろん、受け入れなくても構いません。ご家族の下に戻り、ゆっくりと暮らすのも、いいかもしれませんね」
「……いや、是非、受けさせてくれ。私は、貴女の護衛となろう」
赤狼は、涙を流して、そう誓った。レンさんは笑顔でそれを受け入れ、赤狼を抱き寄せて、その頭を撫でて慰める。
赤狼は、ようやくレヴォールさんの奴隷という、地獄から抜け出せた。これからは、レンさんの下で、護衛として活躍してくれるだろう。
ふと、赤狼を抱きしめているレンさんと、目が合った。ボクは、素早くその目を背け、そのあまりの勢いに、頭の上に乗っていたぎゅーちゃんが、飛んでいって壁にぶつかってしまいました。
「あ……ご、ごめんね、ぎゅーちゃん!」
心配したけど、ぎゅーちゃんはすぐに起き上がって、戻ってきました。特に怪我はないようで、安心です。
ボクが、レンさんと目を合わせたがらないのには、理由がある。その理由とは、ユウリちゃんから聞いた、ボクが今朝、レンさんに寝ぼけてしてしまった事にある。




