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9割方は嘘


 ユウリちゃんにお腹を殴られた、やせ型の男の人は、たぶん何が起きたのかも分からないまま、地面に倒れ込みました。


「キャリーちゃん!」

「……ユウリ、お姉ちゃん?」


 それから、キャリーちゃんを抱きしめて、その身柄を確保しました。キャリーちゃんは、突然現れたユウリちゃんに、驚きを隠せず、最初はボーっとしていた。でも、やがてユウリちゃんを抱き返すと、その目から涙が溢れ出した。


「ユウリ、お姉ちゃん……!」

「もう、大丈夫ですよ。ちゃんとお家に帰れるので、安心してください……」

「うん……!」


 キャリーちゃんの姿を見て、安心したのはユウリちゃんだけではない。ボクも、心の底から安心して、なんだか体中の力が抜けました。

 そうしていると、ふと、もう一人の筋肉の男の人と、目が合いました。呆然と、キャリーちゃんを抱きしめているユウリちゃんを見てから、ボクへと目を向けてきます。


「……」


 赤狼が、その人に襲い掛かろうとするけど、ボクはそんな赤狼の手を掴んで、止めさせた。


「待って。あの人は、たぶん違うと思う」

「それで、貴方は一体なんですか?どうして、キャリーちゃんと一緒に?」

「ひぃ!」


 ユウリちゃんが、キャリーちゃんを抱きしめたまま、その筋肉の男の人を睨みつけます。今にも殴り掛かりそうというか、殺してしまいそうな程の、殺気を放っている。

 ちょっと前にも、ユウリちゃんの強さを目の当たりにしている筋肉の男の人は、それに思いきり怖がり、足が震えている。ボクに助けを求めるような目を向けているから、仕方ないので止めてあげようと思ったけど、ボクが止める必要はなかった。


「待って、ユウリお姉ちゃん。お兄ちゃん達は、私を助けてくれたの!」

「た、助けた……?」


 ユウリちゃんに、そう言って止めたのは、キャリーちゃんだ。

 なんだか、Gランクマスターを変質者と勘違いし、襲い掛かった時を思い出す。その時も、キャリーちゃんに止められて、勘違いが発覚していた。


「ど、どういう事?キャリーちゃん」


 ボクも、そんなキャリーちゃんの方へと近寄ると、膝を曲げ、目線を合わせて聞いてみた。


「変な男の人に、どこかに連れていかれそうになって、それをこのお兄ちゃん達が助けてくれたの」

「……」


 ユウリちゃんが、本当か、と、筋肉の男の人を睨みつけると、筋肉の男の人はこくこくと縦に首を振って応えた。


「詳しく、教えてください」

「お、オレ達が、いつも通りこの辺をぶらついてたら、その子が助けを求めてたんだよ。男に担がれて、浚われようとしているようだった。で、オレ達が話しかけたら、オレ達に殴り掛かってきやがったんだ。だから、返り討ちにしてやって、その子を助けてやったんだよ」

「で、助けた代わりに、この女の子に何をしようとしたんですか……?」

「な、何もしねぇよ!こんな小さな女の子に変な気は起こさないし、それにオレ達は、もうそういうのはしない!信じてくれ!」

「……」


 必死にそう弁明する筋肉の男の人だけど、ユウリちゃんは、絶対に信じていない。目が、凄く怪しんでいるから。

 それもこれも、これまでのこの人たちの行いのせいでもある。ボク達は、2度もこの人たちに狙われているからね。2度とも、返り討ちにしたけど。


「ゆ、ユウリちゃん。おかげでキャリーちゃんが助かったし、もういいよ」

「……ユウリお姉ちゃん。お兄ちゃん達は、本当に良い人だよ?私を助けてくれて、泣き出しちゃった私を、慰めてくれたの。大丈夫。お家に帰れるよ、って。それに、お腹が減ってた私に、コレも買ってくきてくれたの」


 キャリーちゃんが手に持っているのは、食べかけのお肉の串焼きだ。その匂いのせいで、赤狼の鼻がきかなくなっちゃったけど、キャリーちゃんが匂いの出所だったんだね。

 わざわざ、こんな物をキャリーちゃんのために買ってきてくれて、そこは素直に評価したい所だ。


「……分かりました。キャリーちゃんがそう言うなら、もういいです」

「も、もういいですって……相方が倒れて気絶してるんだが!?」

「気絶で済んで、良かったですね」


 ユウリちゃんが怖い事を言うと、筋肉の男の人は黙りました。下手をすれば、殺されていたというのは、あり得る話だと思う。


「で、でも、本当にありがとうございました……。きゃ、キャリーちゃんを助けてくれて……本当に……」

「……」


 ボクが、筋肉の男の人に向かい、勇気を振り絞ってお礼を言うと、筋肉の男の人が、黙り込んでしまった。顔が赤くなって、その目が、なんかちょっと気持ち悪い。


「……この男、お前を襲う気だぞ!」


 赤狼が、突然そんな事を言って、ボクを筋肉の男の人から庇うように立ちふさがりました。


「ち、違う!オレ達は、あんた達に助けられて、改心しようと思ったんだ……。礼を言われることが、こんなに気持ちいい事だなんて、知らなかった。これからも、こんな風に、人にお礼を言われるように、頑張る。気絶しているコイツも、あんたたちに助けられて、怪我をして入院しているもう一人の相方も、気持ちは同じだ」

「そ、そうですか……」


 それは、凄く良い事だと思う。だから、ボクは自然と笑って、そう答えた。


「……はっ。どうだか。改心したとかいう男の九割方は、嘘ですからね。信じられませんよ」


 なのに、ユウリちゃんは吐き捨てるようにそう言って、台無しです。


「──ですから、残りの一割になれるように、せいぜい頑張ればいいと思います。それから、そちらの人が起きたら、一応私が謝罪していたと、お伝えください」

「わ、分かった。頑張るし、ちゃんと伝える」


 ユウリちゃんはやっぱり、優しいな。ボクは、そんなユウリちゃんが大好きです。


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