深呼吸
「んなっ!?」
赤狼の突然の行動に、応対して出てきたおじさんが、驚きの声をあげている。
赤狼は、飛び上がったと思ったら、窓をやぶって3階から建物へと侵入していきました。破れたガラスの破片が降ってきて危ないので、とりあえずおじさんの顔面を殴り、ユウリちゃんを抱いたまま建物の中へと避難します。
殴られたおじさんは、気を失って倒れこみ、ボク達はまんまと侵入に成功。
「お姉さま。もう、平気です。私もここからは、自分の足でついていきます」
「うん……でも、無理はしないでね」
ボクは、ユウリちゃんに言われた通り、腕からユウリちゃんを下ろしました。
建物の中は、普通の家……だけど、掃除がされていないのか、ちょっと埃っぽくて、汚い。オマケに1階の窓は全て、雨戸が閉じられていて、昼間なのに凄く暗い。
「キャリーちゃん!いるんですか!?いるのなら、返事をしてください!」
ユウリちゃんが、大きな声で、中に呼びかける。でも、返事はない。返事ができない状況なのか、返事をさせてもらえないのか、それともここにはいないのか……早く、確かめないと。
ユウリちゃんが駆けだして、部屋をひとつひとつ見て回りながら、この階には他に誰もいないのを確認すると、階段を駆け上がって2階へと移る。長細い家なので、そのせいなのか階段が非常に狭い。人一人がやっと通れるくらいの狭さなので、一列になって上ります。
2階も、同じように探して回ろうとした時だった。ある部屋の扉の横に、息を潜んで隠れていた人物が、手に持ったハンマーを、入って来たユウリちゃんの頭に向かって振り下ろしてきました。
「へ?」
ボクは、それを片手で受け止めて、握りつぶします。それから、ユウリちゃんが襲ってきた人に対して、回し蹴り。お腹を蹴られ、壁に挟まれた形となったその人は、胃液を吐き出して気を失い、床に倒れこみました。凄く、痛そう……。
「待ち伏せですか……危なかったです。ありがとうございます、お姉さま」
「ど、どういたしまして」
それから、2階も見終わったボク達だけど、キャリーちゃんはいない。となると、赤狼がいるはずの、3階が頼りの綱だ。そう思い、また狭い階段を上ろうとしたボク達だけど、その必要はなくなった。
階段を上ろうとしたボク達の目の前に、階段から転がり落ちてくる男の人がいて、ボクはユウリちゃんを庇って警戒します。
「うう……」
その人は、顔面がボロボロで、既に誰かに殴られた後だった。
「ここには、いない。しかし、いたのは確かのようだ」
続いて階段を下りてきたのは、赤狼だ。下りてきた赤狼は、ボロボロの男の人の胸倉を掴んで立たせ、壁に押し付けます。
「言え」
「た、確かに、女の子は、いた……だが、ちょっと前に、レヴォールさんの奴隷の男が、女の子を持ってどっかにいっちまったんだ……!」
「もしかして、奴隷紋の効果がなくなった事に気づいて……それは、どれくらい前の事ですか!」
「さ、三十分くらい……」
となると、間違いない。奴隷紋の効果がなくなった事に気づいた奴隷は、キャリーちゃんを連れて、どこかへ逃げ出してしまったのだ。
一人で逃げてくれるのなら、どうでもいい。でも、どうしてよりにもよって、キャリーちゃんを連れて行っちゃうのさ。
「その奴隷は、どこへ行ったのか、分かりますか?」
「レヴォールさんの所じゃ、ないのか……?というか、赤狼……こんな事をして、タダで済むと思ってるのか?お前きっと、今夜は酷い目に合わされる事に──ほぐっ!?」
ユウリちゃんが、その人の言葉を途中で遮るように、お腹にパンチを食らわせていました。それによって気を失ったその人から、赤狼が胸倉を離すと、壁に寄りかかるように座って倒れました。
「不快な話は、聞きたくありません」
そう吐き捨てたユウリちゃんは、とても不機嫌そうだ。
「それより、こうなると、どこに行ったのか見当が……」
逃げ出した奴隷が、どこに隠れるのかなんて、誰にも分った事ではない。それに、30分も前に飛び出していったとなると、捜索範囲は広大になる。ボク達3人だけでは、とてもじゃないけどすぐに見つける事は出来なくなってしまった。
「それなら、問題はない」
打つ手がなくなり、絶望しかけたボクとユウリちゃんに、赤狼がそう言った。
そう言った赤狼が、手に持った物を差し出して来た物。それは、小さな女の子用の服だった。たしか、キャリーちゃんが上着として羽織っていた物だった気がする。
赤狼は、そんなキャリーちゃんの服を顔に押し付けて、深呼吸をし始めました。
「スーハースーハー」
突然の赤狼の行動に、ボクは引きました。幼女の服に、顔を押し付けて、匂いを嗅ぐ変態……。それがメイヤさんなら、別に驚きもしない行動だけど、それをしてるのは赤狼だ。赤狼もどうやら、メイヤさんみたいな幼女大好きタイプの変態さんらしい。ちょっと、残念です。




