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当たり


「こういう、一方的な恋愛感情を抱いた歪んだ感情の持ち主は、最初はきっと、対象をなるべく近くで観察しようとするはずです」

「ふむふむ?」


 アンリちゃんが、疑問符を浮かべながら、ユウリちゃんの推理に相槌を打ちます。歪んだ感情の持ち主とは、恐らくアンリちゃんの事を言っている。アンリちゃんと、レヴォールさん……確かに、形は全然違うけど、一方的な恋愛感情によって、その人の近くにいようとする所は、似たような物かもしれない。


「レイラさんを観察するため、恐らくはレイラさんの家の近くの、レイラさんの事を観察しやすい場所を確保し、はぁはぁしながらレイラさんを見守っていたんじゃないでしょうか。アンリ君みたいに」

「ぼ、ボクは、はぁはぁしてないよ!ちょっと鼻息を荒くして、一晩中枕元に立って、ずーっと観察してただけだよ!」


 アンリちゃん。それは、同じ事だよ。あと、何度でも言うよ。怖すぎる。幽霊じゃなかったら、即通報です。


「もしかして、キャリーちゃんはそこにいるじゃないかと思います。まさか、家から程近い場所にいるとは思いませんし、何より、この場でアンリ君に遭遇したのは、偶然とは思えません」

「うん。ユウリちゃんがそう思うのなら、ボクもそう思う」

「行きましょう、お姉さま!」

「うん!」


 ボクは、腕にしがみついている赤狼を、ユウリちゃんと同じように、反対側に抱えると、廃屋を飛び出しました。アンリちゃんを怖がって動かないので、そうした方が早いと思ったから。


「ありがとう、アンリちゃん!」

「え?うん……どういたしまして」


 最後に、アンリちゃんにお礼を言っておきました。一応、ユウリちゃんがそう思いついたのは、アンリちゃんのおかげだからね。

 ボクは二人を両手に抱えたまま、地を蹴って、ジャンプ。ここへ来た時と同じように、建物から建物へと飛び移り、空を駆けるようにして、目的地へと向かいます。赤狼について来た時よりも、更に早い。ボク達は、あっという間に目的地へと降り立ちました。


「へ?」


 降り立ったら、目の前のおじさんが、変な物を見る目で見てきました。昼間なので、空から降って来たボク達はけっこう目立ってしまい、周囲の視線が痛いです。そんな視線から逃れるように、身体を縮こまらせて俯くけど、効果はありません。


「お姉さま。我慢です。気にせずに、行きましょう」

「う、うん……」


 ボクは、ユウリちゃんに励まされ、深呼吸をして気持ちを落ち着かせます。ここで、逃げだす訳にもいかないからね。


「も、もう大丈夫だ。降ろしてくれ」


 すると、赤狼がちょっと恥ずかしそうにそう言ってきて、ボクは腕から赤狼を下ろします。ここまでは何も言ってこなかったけど、さすがに大衆の前で抱えて運ばれるのは、恥ずかしかったみたいだ。


「赤狼。この辺りに、アジトはありますか?」

「私の知る限りでは、思い当たる節はない」

「分かりました。では、隣の家を訪ねてみましょう」


 ユウリちゃんが、そう言って指さしたのは、レンガの家の隣に立っている、木造の家だった。レンガの家は、Gランクマスターのお家だ。2階建てのキレイなお家で、ちょっと可愛い。一方で、隣の木の家は3階建てで、細長い形をしている。レンガの家とは、あまり距離を置かずに建っていて、見た目からは、人が住んでいるかどうかは、分からない。でも、気配はする。


「さ、さすがに近すぎるような……」

「私なら、そうします。だって、好きになった人は、できるだけ近くで見守っていたいですから。例え、一方的な感情だとしても、です。そう思いません?」


 当たり前のように、言ってくるユウリちゃん。ちょっと忘れていたけど、ユウリちゃんも中々ヤバめの人だから、通じる物があるのかもしれない。

 でも、もし当たってたら嫌だな。隣の家で、レヴォールさんがはぁはぁしながらレイラさんを見守っていたとか、アンリちゃんが枕元に立ってくるのより、怖いかもしれない。


「おい。誰かいるか」


 ふと気が付くと、赤狼がもう、その木の家の扉を叩いていました。ちょっとだけ乱暴めに叩いて、中にいる人が、確実に気が付くくらいの音を出します。

 少しすると、中から足音が聞こえてきて、扉にかけられた、魔法の施錠が中から解かれました。


「どちらさん?」


 扉を開いたのは、男の人でした。無精ひげを生やした上、髪の毛がボサボサの男の人です。

 その男の人が、赤狼を見た瞬間、ニヤリと笑いました。それから、その赤狼の後ろにいるボク達を見て、全身を嘗め回すように見てきます。

 この感じから察すると、どうやら……。


「驚いた……が、当たりだ」


 赤狼が、そう呟いて、飛び上がりました。


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