表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/492

頭が取れる


「は、話が違うぞ、ジーク!なんなんだよ、あの化物は!」

「うるせぇ!」

「ほぐっ!?」


 ボクは、逃げ出した二名の内の片方の頭に、空から降ってきて着地。そのおじさんは地面に顔から突っ込んで、石畳の地面にヒビを入れた。

 それを、すぐ隣で目の当たりにした、集団のリーダーと思われる男を睨むと、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

 それを見て、思い出す。この人は、ウルティマイト鉱石を売りに行ったとき、ボク達の前で駄々をこねていた、お兄さんだ。だから、ボクをゲロの女の子と呼んだのか。


「ま、待て……待て待て……!お、オレに手を出したら、お前の奴隷は、殺されるぞ!いいのか!?」

「ユウリちゃんは、どこ?」

「……ヘイベスト旅団の、本部に連れて行くように指示をした。そこに、いる」


 ボクは、すぐにマップを開いて、ヘイベスト旅団の本部を探した。中々見つからずにイライラするけど、どうにかそれを見つけて、すぐに駆け出そうとする。


「あーあ。やっちゃいましたね、勇者」


 優雅に歩いてきた、イリスがそう言った。

 先ほど、この人たちに囲まれた所に置いてきたけど、追いかけてきたみたい。ちなみに、その場で残りの人達は全員始末してきた。と言っても、多分生きてはいる。ちょっと殴ったりしただけだからね。

 ところで、イリスは優雅そうに見えるけど、額には汗をかいていて、息切れを必死に誤魔化している。走ってきた事は、明白だ。いちいち、かっこつけなくてもいいのに。


「……イリス。知ってたの?この人たちの、事を」

「私は、女神。人の悪意や、憎しみには敏感なんです。なので、この薄汚い人間達が、あの家の周りを嗅ぎまわっている事に、気づいていました。そしてこの世界は、人の悪意と欲望を、助長し、発展させ、具現化させる。貴方の傍にいれば、勇者の加護によって守られますが、悪意に囲まれた者が加護を離れれば、待つのは陵辱と、死。そういう世界」


 そう。ここは、エロゲの世界。ボクは、このゲームを徹底的にやり込んだ。だからこそ、どういう世界なのか理解していたはずなのに、油断をした。

 ボクの、せいだ。


「大丈夫ですよ、勇者。貴方には、私がついています」


 イリスが突然、ボクの身体を、抱きしめてきた。その抱擁は、温かく、心地の良い。まるで、お母さんに抱きしめられているよう。と言っても、本物に抱きしめられた事がないので、分からないけど。でも、お母さんに抱きしめられるって、こういう感じなのかな、と思う。


「あの人間は、諦めましょう。これからは、私が貴方を導くので、あの人間は必要ありません。勇者が、勇者だった世界の時のように、私の言う事を聞いて、二人で生きていきましょう?」

「イリス……イリスティリア様……」


 ボクも、そんなイリスティリア様を、膝立ちになって、身長を合わせて抱きしめる。こうやっていると、安心する。勇者の時、雷が響く空の下で、怯えるボクを、優しげな声で励ましてくれた。その声は、声だけだったけど、確かにボクを抱きしめていてくれた。その時の感触が、今ここにある。


「よしよし。可愛い勇者。これからは、たっぷりと甘えてください」


 イリスティリア様に、頭を撫でられる。気持ちよくて、凄く嬉しい。

 そんなボク達のすぐ傍に、紙袋から落ちた野菜が落ちている。それは、形は悪いけど、ボクが初めて人と話して購入した、野菜類。その野菜は、ユウリちゃんが調理に使うために、買った。優しくて、ちょっと変態だけど、可憐で、ボクに初めての手料理を食べさせてくれた、ユウリちゃん。そんなユウリちゃんを、諦めるなんて事、ある訳がない。

 ボクは、イリスから手を離した。


「勇者?どうしたのです?もっと、甘えて良いですよ?」

「……ダメだよ、イリス。ボクは、ユウリちゃんを助ける」

「……」

「もう、イリスの言う事だけを聞いて、動いていた時のボクには、戻りたくない。ボクは、ボクの意思でユウリちゃんを助けに行くんだ」

「……あ、そう。では、好きにすればいいじゃないですか。でも、私の言う事を聞かないなら、貴方はもう、勇者ではありません。忌々しい……本当に忌々しい!」


 イラだった様子のイリスは、先ほどボクが頭の上に着地して、地面に顔を埋めている男の人のお尻を、蹴り上げた。

 少し、無駄に時間を使ってしまった。こうしている間も、ユウリちゃんの身が危険にさらされているというのに、何をやっているんだ、ボクは。

 辺りが少し、騒がしくなってきた。騒ぎをききつけて、野次馬が集まってきたみたい。ボクは、フードを深く被りなおす。

 それからとりあえず、腰を抜かしたままの男の人の顔面を、殴り飛ばした。


「へぐ!?」


 その勢いで壁に顔をぶつけ、一撃で気絶する。これは、ただの当て付け。ちょっとイライラしてるんだ、ボク。

 地面に落としてしまった野菜を、紙袋にいれなおしてから、未だにもう一人の男の人の尻を、げしげしと蹴っているイリスの頭を、片手で掴み取る。


「ふぇ?」


 そのまま、地面を蹴って、飛び上がった。向かうのは、ヘイベスト旅団の本部。


「ほぎゃああぁぁぁぁ!頭が取れるううううぅぅぅ!」


 騒ぐイリスにお構いなしに、ボクは空を駆けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ