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おかえり


「赤狼さん」


 レヴォールさんが、素直に話してくれるとは思えない。なので、ボク達の視線は、自然と尻尾と耳の生えた、亜人種の女の子に向くことになった。


「……すまないが、私は知らない。私は、ご主人様にここにいると言えばいいと言われていただけなので……嘘をついていたんだ。本当に、すまない」


 赤狼は、申し訳なさそうに、言いました。勝手に期待した、こちらが悪いのに……耳と尻尾が、力なく項垂れて、元気がなくなってしまう。


「だ、大丈夫ですよ。まだ、知っている人は、ここにいます。……教えてください。攫った女の子は、どこですか?」


 レンさんが、壁に寄りかかって座り込んでいる、レヴォールさんの肩に手を置いて、尋ねた。無理やり顔を上げさせられる形となったレヴォールさんの顔は、相変わらずぐちゃぐちゃだ。レンさんのそんな行動にすら、抵抗する体力はないし、それだけで痛いのか、その際にちょっと苦し気な声をあげました。


「……ふはっ。バカめ……教えるものか……それよりも、もっといい事を教えてやろう。攫った娘を預けているのは、私の奴隷の中でも、随一の変態だ。メスとみると、発情し、押さえのきかなくなる、容赦のない男でな……メスを犯しながら、痛みと苦しみを与え、殺すのが好きな、どうしようもない奴隷だ。どうしようもないが、奴隷紋によって、勝手な行動はできず、普段はそんな感情は、抑えられている。だが、今はどうだ。私の奴隷紋は、ラメダによって打ち消され、命令が届かなくなっている。つまり……ヤツの抑えが、きかなくなっているはずだ。結果、どうなるかなぁ?」

「キャリー……!」

「Gランクマスターさん!どこへいくのですか!」


 部屋を飛び出そうとしたGランクマスターを、レンさんが止めた。太い腕を引っ張って、必死に止めようとするけど、Gランクマスターの力に、勝てる訳もなくて、引きずられて行ってしまう。


「キャリーを助けるのだ!早くしないと、キャリーの身が危ない……!」

「ら、ラメダさん!ちょっとだけ、レヴォールさんの奴隷紋を、解除するのを止めてください!」


 ボクの訴えに、ラメダさんは首を横に振って答える。


「ダメだよ。今この男の奴隷紋を解放させたら、この男はきっと、ネモちゃん達にとって、最悪の事態になるように仕向けてくるはずだ。例えば、そこの赤狼に、レンファエル嬢を殺すように命じたり、赤狼の家族に、殺しあうように命令したり、その、助けたい娘を襲うように命令したりね」

「じゃ、じゃあ、どうすれば……!」

「この先は、考えてなかったわ。だから、あとは自分たちでなんとかするんだね」


 ラメダさんが、無責任にもそう言って、頭を掻いて、そっぽ向いてしまいました。途中までは、あんなに完璧だったのに、ここに来てコレです。

 正直に言えば……お礼の、き、キスの事も、ちょっとは前向きに考えていたんだけど、後ろ向きになりました。


「ぬおおぉぉぉ!キャリいいぃぃぃぃ!」


 Gランクマスターは、レンさんの制止も聞かず、扉をぶち破って、叫びながら飛び出して行ってしまいました。腕を押さえて止めようとしていたレンさんは、努力もむなしく、振り落とされる形となり、床に倒れます。


「だ、大丈夫、レンさん!?」

「は、はい。ありがとうございます」


 そんなレンさんに駆け寄ったボクは、素早く抱き起して、怪我がない事を確認。もし怪我をしていたら、追いかけて罰を与えないといけない所でした。

 でも、一体どうすればいいのだろう。このままでは、キャリーちゃんの身が危ないのは事実で、じっとなんてしていられない。


「……お姉さま」

「ユウリちゃん!」

「ユウリさん!」


 それまで、床で横になっていたユウリちゃんが意識を取り戻して、ボクの名前を呼んでいる。ボクが駆け寄ると、自力で立ち上がろうとして、ふらついたので、抱き寄せて支えます。そこへ、レンさんも駆け寄って、一緒にユウリちゃんの体を支えてくれます。


「お姉さま、ごめんなさい……私は、あんな事を、お姉さまに……!」

「ユウリちゃん……」


 ユウリちゃんは、震えながら、涙を流す。どうやら、元のユウリちゃんのようで安心するけど、その心は、深く傷ついてしまったようだ。

 ボクは、そんなユウリちゃんを、胸に強く抱きしめる。ユウリちゃんは、それに応えるように、ボクに抱き着いて、胸に顔を擦り付けます。レンさんも、そんなユウリちゃんを後ろから抱きしめて、慰めようとしています。


「ぐ、ぐへへ」


 胸の中から、そんな、ユウリちゃんの下卑た笑い声が聞こえてきました。


「ひゃ!?」

「ひゃふ!?」


 そして、ボクとレンさんが、同時に声をあげます。というのも、ユウリちゃんの手が、レンさんとボクのお尻を触れてきたからです。

 レンさんは、それを受けて慌ててユウリちゃんから離れます。ボクも、胸に抱きしめていたユウリちゃんを引きはがし、距離を取りました。


「ぐへへ。ごちそうさまです」


 引き離したユウリちゃんの目は赤くなっていて、確かに泣いていたようだけど、ボクとレンさんの抱擁によって、元気を取り戻したようだ。でも、まだちょっと無理をしたような、元気のない笑いで、セクハラ行為に対して怒る気にはなれない。


「……おかえり、ユウリちゃん」


 だからボクは、そう言って、元に戻ったユウリちゃんを、歓迎する事にしました。


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