滅ぶ運命
ブラッド・E・ヘンケルとは、レンさんのお父さんの名前だ。レヴォールさんの言った通り、この町で一番偉い人という事になるのかもしれない。というのも、聖女様とどっちが偉いのか知らないから、分からないんです。
そのレンさんのお父さんは、ついこの間までちょっと女神アスラに操られていて、おかしな行動を取っていた。もしかしたら、おかしかった時に、この人と関係ができて、レヴォールさんはレンさんのお父さんがまともに戻ったことを知らないから、自信満々にそう言っているのかな。
あと、娘のレンさんを目の前にして、お前の父ちゃんにチクってやるって言うのは、ちょっとカッコ悪いです。
「奴隷紋は単純だし、情報も古い。あんたはどのみち、滅ぶ運命なんだよ」
「なに?どういう意味だ」
「ブラッド・E・ヘンケルは、元々ゲットル奴隷商会や、ヘイベスト旅団に対して、否定的な立場でした。ですが、ある日を境に、彼らを肯定し、繋がりがあったのも事実です。その際に、随分と好き放題していたようですね」
レンさんにとっては、思い出したくもないような、日々だったはずだ。
でも、レンさんは堂々と言いながら、レヴォールさんに歩み寄り、迫っていく。
「その通りだ。ヘンケル氏は、我々の味方になった」
「ですが、それは魔族に操られていただけなのです。今は正気に戻り、町のため、人々のために、頑張っています。そんな父上に、あなた方が、私たちを告発すると?バカげた事を言うのは、よしなさい。むしろ、私が父上に、あなた方のあまりにも残虐で、野蛮な行為を告発します!」
まぁ、魔族に操られていたというのは、嘘だけどね。本当は、女神アスラに操られていたけど、それを言うと、アスラ教の人たちが発狂しちゃうので、そういう事になった。
「父親……娘?レンファエル・E・ヘンケル……あ、あり得ない。ヤツは、行方不明になったはずだ」
「あり得ないと思いますか?ですが、事実です。私は生きて戻り、今は再び、父上と共に暮らしています」
「ヘンケル氏は無事、操られる前に戻り、以前同様、子煩悩な人に戻ってる。あんたの言い分なんて、これっぽっちも聞かないだろうね」
「だ、だからどうした!その話が本当だとしても、私には、赤狼がいる!赤狼が、どうなってもいいのか!?赤狼の家族も、死ぬぞ!」
ボク達が、赤狼に情けをかけた事を利用して、今度はそう言ってボク達を脅してくる。ここまで来ると、怒りよりも呆れが勝ってきます。でも、赤狼もどうにかしてやりたいという気持ちは、確かにある。そう言われると、ボクは手が出せなくなってしまいます。
「それなら、大丈夫。あんたはもう、奴隷紋に命令をする事は、できない。分からないのかい?」
「……バカな。赤狼!何故、痛みを感じない!どうして、苦しまない!」
「……?」
赤狼が、しばし沈黙してから、狼狽するレヴォールさんに対して、首を傾げた。ボクも、ちょっとよく分からない。
「あはは!だから、言ったじゃないか。あんたの奴隷紋は、単純すぎるんだよ。上書きするのも簡単だし、解析さえ完了していれば、介入して、奴隷紋の主の効果を封じ込めるのも、簡単だ」
「……いくら解析が完了しているとはいえ、奴隷紋を封じ込めるなんて、至難の業です。一体、何者ですか?」
「ただの、しがない奴隷商館の主だよ」
冷や汗を浮かべて尋ねたレンさんに対して、ラメダさんは、ウィンクをして返しました。
「この……玩具風情が、私を……私の半生をかけて作り上げた奴隷紋を、愚弄するなぁ!ラオムスロウ!」
激怒したレヴォールさんが、ラメダさんに向かって、魔法を発動させた。でも、何も起こらない。ラメダさんは、普段通りのスピードで、呑気にあくびをしている。
魔法を、防いでいる訳ではない。魔法そのものが、発動していないのだ。
「何故……」
「魔法が発動しないのか?私の奴隷が、この空間に張り巡らされていた、あんたの紋章魔法を、今頃壊してる頃だからだよ。あんたは、いつか私を陥れて、何か仕掛けてくると思ってたから、色々と調べはつけてたの。用心は、しておかないとね。さて、まだ抵抗するかい?」
「……」
レヴォールさんは、ラメダさんに笑われて、力なく床に崩れ落ちた。
「ら、ラメダさん……!」
ボクは、カッコ良く登場して、レヴォールさんを打ち負かせたラメダさんに、駆け寄ります。なんだか、はしゃぐ気持ちが大きくて、拳を胸の前で振り回しながら、近づきました。
「さすがは、ネモちゃん。まさか、ここでレヴォールを打ち負かしちゃうなんてね。……これなら、心配してくる必要もなかったかもしれないけど、ちょっとは役にたてたかしら」
「ら、ラメダさんがいなかったら、赤狼を助けることができなかったと思います。ユウリちゃんも、操られてどうしたらいいのか分からなくて、慌てちゃいました。だから、来てくれて、本当にありがとうございます」
「……お礼は、分かってるでしょう?熱い、口づけを、今度はネモちゃんから、お願い」
「ひゃ!?」
ラメダさんが、ボクの耳元で、そう囁きました。ラメダさんの息が当たり、くすぐったいです。いや、それよりも、あまりにも近すぎます。
ボクは、顔を赤く染めて退き、避難。
直後に、レンさんがラメダさんとの合間にはいって、ボクを庇うように立ちはだかりました。
「ネモ様に、手を出すのはよしてください!」
「コレはコレは……ヘンケル氏の、ご息女。レンファエル様。その様子じゃもしかして、あんたもネモちゃんの事が、好きなのかい?」
「愛しています!」
あまりにも堂々とした、レンさんの告白だった。レンさんは、ボクに対する気持ちを、隠そうとはしないからね。聞かれたら、素直に返してしまうから、ボクの方が反応に困ります。
「……ところで、すまんがキャリーの所在を、早く知りたいんだが」
Gランクマスターが、遠慮がちに手をあげて、尋ねてきました。
そ、そうだった。早く、そちらもなんとかしないと。




