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すまない


 立ち上がったボクは、レヴォールさんを睨みつける。その瞬間、ボクの足元の床にヒビが入って、割れてしまった。そのヒビはとどまる事を知らず、いくつものヒビを形成し、石がぶつかってヒビの入ったガラスのように、広がっていく。


「な、なんだ、お前。傷は、どうした」


 レヴォールさんは、ユウリちゃんに刺されたはずのボクが、無傷で立ち上がったのが信じられないようだ。


「……先ほど、ユウリさんが警告をしましたよね。貴方と似たような事をして、その人たちはある人の怒りをかってしまい、死んだ、と。今の貴方はまさに、その人たちと同じ道を歩もうとしているのです」

「だ、黙れ!油断しなければ、この私にはもう、触れる事はできないんだよ!ラオムスロウ!」


 レヴォールさんが、ボクとレンさんに、魔法をかけてきた。それによって、レンさんは動きが遅くなってしまう。ボクに加えて、レンさんにもその魔法をかけたのは、ボクにかけた魔法を解除されないようにするためだ。


「おい、何をボケっとしている!アイツらを、殺せ!」

「し、しかし、奴隷にするのでは……?」

「もうそんなの、どうでもいいんだよ!早く殺せ!」

「……」


 赤狼が命令を受けて、2本の短剣を手に、ボクに向かって突進してくる。


「……すまない」


 その赤狼とすれ違う際に、誰にも聞こえない程の、小さな声で、赤狼はそう呟いた。赤狼は、つい今までボクがいた場所に突っ込んでいくけど、ボクはその横を通り過ぎて、とっくにレヴォールさんの眼前にいる。


「っ!?」


 ボクのスピードに全くついていけていなかったレヴォールさんは、声を出す暇さえ与えられず、顔面にボクのパンチを食らい、吹き飛んでいきました。拳からは、骨が砕けた感触が伝わって来た。間違いなく、顔の骨は折れている。更には、壁にぶつかった際の衝撃も、先ほどの比ではない。石の壁を砕き、めり込んだ体勢でとどまる程だ。


「な……ご主人様!お、お前、どうして、ご主人様の魔法がきいていない!」


 ようやく、起きた事態に気づいた赤狼が、振り返って慌ててそう尋ねてきた。

 ボクには、基本的に状態異常系の魔法は効かない。完全耐性があるからね。そもそも、こんな魔法で動きを遅くされた所で、この人たちじゃボクについてくる事は、到底かなわいと思う。

 赤狼に、そう答える事もなく、ボクはレヴォールさんから解放されたユウリちゃんの肩に手を置いて、その目を見る。目には、光が宿っていない。ボクを見ているのに、焦点が合わない状態だ。恐らくは、レヴォールさんが奴隷紋により、ユウリちゃんの心を閉じ込めてしまっているんだと思う。

 ボクは、そのユウリちゃんを、抱きしめた。


「ごめんね、ユウリちゃん。ボクが、もっと早くケリを付けていれば、こんな事にはならなかったのに……」


 こうなってしまった以上、ユウリちゃんを助けるために、しなければいけない事がある。ボクは、ユウリちゃんの肩越しに、レヴォールさんを睨みつける。

 形の崩れた顔面から血を流し、歯も衝撃で抜けてしまっているようだけど、まだ生きている。


「Gランクマスター」

「お、おお。なんだ」


 呆然と見守っていた、血まみれのGランクマスターにボクが声を掛けると、Gランクマスターがちょっと慌てた様子で返事をした。


「ユウリちゃんを、見張っててください」

「……私はいいが、良いのか?」


 前に、ユウリちゃんに触れようとして、冷たい目で睨まれたのが、トラウマなようだ。でも、今は緊急事態だし、ユウリちゃんに意識があるのかどうかも分からないので、抵抗はしないと思う。なのでここは、Gランクマスターに任せるのが、妥当だと思う。もしも、ユウリちゃんが変な事をしそうになったら、Gランクマスターなら止められるだろうからね。


「お願いします」


 ボクは、ユウリちゃんをGランクマスターに渡し、Gランクマスターは、そんなユウリちゃんの肩に手を乗せて、押さえた。

 それからボクは、レヴォールさんに歩み寄る。ユウリちゃんに手を出した事は、赦せない。ボクは、沸き上がる怒りを抑えられそうにありません。


「待て!それ以上、ご主人様に近寄るな!さもなくば、この女が死ぬぞ!」


 振り返ると、赤狼がレンさんを、羽交い絞めに拘束していた。喉元に短剣を突き付けられていて、危ない。


「よしなさい。もう、勝負はつきました。これ以上は、貴方までネモ様によって、傷つけられる事になってしまいます」

「黙れ……!」

「ぐっ……」


 人質に取られても、落ち着いた様子を見せているレンさんだったけど、逆上した赤狼が、レンさんの首を強めに締めて、レンさんが苦し気な声を上げた。それを見て、また怒りがこみあげてくるボクだけど、レンさんが手と目で、ボクに大丈夫だと訴えている。

 ボクは、それを信じて、赤狼ではなく、レヴォールさんの方を見た。


「待て……待て!この女が、どうなってもいいというのか!?」


 無視をして、レヴォールさんの方へ、一歩、また一歩と近づいていく。


「殺すぞ。この女を、殺すぞ!それ以上は……待て……待ってくれ……頼むから、待って!やめてくれ!」


 言う事を聞かないボクに、慌てた赤狼が、レンさんを解放した。それどころか、武器をも捨てて、ボクの行き先。レヴォールさんの前に立ちはだかって来る。


「頼むから、ご主人様は殺さないでくれ!」


 必死な様子で訴えてくる、赤狼。ボクはそれを、冷めた目で見ていた。


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