楽しい遊び
意外にも、レベルの高いレヴォールさんに、ボクは驚かされました。トップであると同時に、実力もトップとか、ちょっとカッコイイかも。
でも、性格は全然カッコ良くはない。この人は、このまま野放しにしてたら、いけない人だ。
「Gランクマスター。そちらの相手は、任せます」
「……いいだろう。さっさとケリを付けて、その男からキャリーの居場所を聞き出す。それまでは、殺すな」
ユウリちゃんの指示を、Gランクマスターは受け入れ、それまで眼中になかった赤狼を、睨みつける。
それにしても、よく言うよ。あのパンチの威力は、絶対に生かす気のない強さだったもん。
「さて。お前たちは、私の遊び相手をしてくれるということで、良いようだな」
「はい。あちらに手は出させませんので、覚悟してください」
レンさんは、手に持った紋章の描かれた紙を手に、そう言うけど……レベル50のGランクマスターでは、レベル70の赤狼に勝つのは、ちょっと難しいかもしれない。
事実、Gランクマスターのパワーもスピードも、赤狼には通用していない。さっさとこの人を倒して、助けてあげないと。
「出すつもりは、ないさ。相手にしてくれる玩具が、三体もいるんだからなぁ」
不気味に笑うレヴォールさんに、ボクは鳥肌がたつのを感じた。
「お姉さま。まずは、私が行きます」
「う、うん。でも、気を付けて、ね」
ユウリちゃんは、ボクの許可を得て剣を抜くと、その剣先をレヴォールさんに向けて、構える。そして、床を蹴り、地面を低く、這うように、一気に間合いを詰めて、足元からレヴォールさんの喉元を狙って、剣を突き出した。
「ラオムスロウ」
再び、レヴォールさんの、対象の動きを鈍くする魔法が、発動した。それにより、ユウリちゃんの動きが遅くなるけど、すぐにレンさんが紋章の描かれた紙をユウリちゃんに向かって投げつける。
「フローカット!」
レンさんの魔法が発動し、ユウリちゃんに、スピードが戻った。
そして、いきなり動き出して、レヴォールさんの喉元に迫るけど、レヴォールさんはそれを、あっけなく、背中を逸らして回避。元々、動きを遅くする必要も、なかったんだと思う。その動きには、かなりの余裕があった。
ユウリちゃんの攻撃をかわしたレヴォールさんは、ユウリちゃんの背後へと回り込んだ。そして、その無防備になった背中に向けて、拳を突き出そうとしている。
「まずは、一匹」
「させません!グ──」
レンさんが、紋章の描かれた紙を投げて、魔法を発動させようとした時だった。その動きが、緩やかになる。更には、背後に回り込んだレヴォールさんに対応しようとした、ユウリちゃんの動きも、緩やかになり、それもできなくなってしまった。
「ふはっ。いくら魔力を遮る魔法が使えるとしても、その動き自体をノロくしてしまえば、意味がない。ここに入って来た時点で、お前たちの負けは決定してるんだよ!悔しいか?悔しいよな?安心しろ。奴隷になれば、全てどうでもよくなる。とりあえず、何発か殴って遊んでおこうか。私を愚弄した、罰だ」
ユウリちゃんと、レンさんに向かって挑発をするレヴォールさんだけど、ボクの事を忘れてません?嬉しそうに、ユウリちゃんの周りを回って語り、剣を突き出したポーズから、ゆったりとした動きで振り返ろうとしているユウリちゃんの正面に止まると、その頬に向かい、レヴォールさんが拳を突き出した。
当然だけど、その拳がユウリちゃんに当たることはない。次の瞬間、レヴォールさんは顔面を殴られて吹き飛ばされ、壁に激突。
「がっ、はっ!」
血を吐いて、床に倒れこみました。
「ご主人様!」
「貴様の相手は、私だと言われたはずだ!」
駆け寄ろうとした赤狼に、Gランクマスターがすかさず殴り掛かる。でも、赤狼のスピードについていけないGランクマスターが、それを阻害することはかなわなかった。というか、ボク達がこうして戦っている間にも、かなりの手傷を負わされたGランクマスターは、傷だらけの血まみれだ。どうして、そんなに元気なのか、聞きたいです。
「お、玩具風情が……この私に……!」
赤狼に肩を貸されて起き上がったレヴォールさんが、ボクを睨みつけてくる。さすがは、レベル75。ちょっと軽めに殴っただけでは、意識があるようだ。
けど、ボクが殴った頬は赤く腫れあがり、凄く痛そうで、必死な様子が伺える。無理しないで、寝ていればいいのに。
「お姉さま、すみません」
「ネモ様……!」
ユウリちゃんとレンさんが、元の速さに戻って、安心する。
「ふ、二人とも、カッコ良かったよ」
「……ご主人様。この空間で、ご主人様に傷を負わせるとは、あの者は普通ではありません。ここは、撤退を──」
せっかく、肩を支えてくれていた赤狼を、レヴォールさんが平手打ちをして、突き飛ばした。
こんなの、優しくしてくれた人に対する、態度じゃない。いくら赤狼が敵とはいえ、その行動には嫌悪感を感じざるをえない。
「黙ってろ。それに、まだいい手がある。楽しい遊びは、まだこれからだ」
ニヤリと不気味に笑うレヴォールさんの目は、レヴォールさんを殴ったボクではなく、ユウリちゃんに向いていた。その視線に、ボクはなんだか嫌な予感がして、ボクはユウリちゃんを、その視線から守るように、抱き寄せました。




