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女神の逆鱗


『はぁ……』


 イリスティリア様を退かして、再び赤い女の人が画面に映った。ボクは、身を潜め、警戒をする。


『別に、とって食いやしないし、返事もしなくてもいいから、話だけでも聞いて』

「……」


 ボクは、コタツの間からちょっとだけ顔を出して、彼女を見る。


『私の名前は、女神アスラ。イリスの罪を裁く者』


 女神、アスラ様?新たな女神様の登場に、ボクは驚嘆する。

 いや、それよりも、イリスティリア様の罪?女神様が、罪を犯すはずがないではないか。この人は、何を言っているんだろう。


『イリスはこの世界で、贅をつくした生活をしていたわ。それこそ、人間の思いつく全ての贅沢を凝縮したような生活をね』


 イリスティリア様が、豪勢な生活を送っていた事は、知っていた。プライベートビーチで撮った写真や、豪華な食事をSNSに上げたりしていたから。最近では、船で世界一周旅行の途中とかなんとかといっていた気がする。でも、それが何か問題でもあるのだろうか。


『そのお金は、どこから出てきたと思う?答え。FX。イリスは、人の心を操って為替をコントロールし、自分に有利になるように、世界経済を動かした。それは、女神法違反の、重犯罪。と言う訳で、彼女は女神の職を外され、裁かれます』


 め、女神法違反ってなんだろう。

 いや、それよりも、つまりイリスティリア様は、本当に罪を犯したという事なのかな?だとしたら、それはいけない事だし、仕方のない事だよね。裁いて、その罪を悔い改めてもらわないと。


『だから、私はこの元勇者の引きこもりキモヲタに騙されて、やっただけなの!全部、こいつが悪いのです!私に罪はありません!そうですよね!?ね!?』


 イリスティリア様が、物凄い形相で、ボクに訴えてくる。その姿は、かつての美しいイリスティリア様の物ではない。保身に走った、醜悪にて、矮小な、人間以下の畜生の姿である。


「ぼ、ボクは……そんな事、していません……!」

『ゆ……勇者あああぁぁぁ!てめぇ、誰のおかげで食っていけてたと思ってるんだ、このクソ人間!お前みたいな生産性のない人間に、金を渡して楽して暮らして行けるようにしてやったのは、誰だと思っていやがる!恩知らずの、クソニートが!死ね、死んでしまえ!いや、殺す!殺してやる!』


 画面に、更に興奮して、今にも血管が切れてしまいそうな程の、真っ赤な顔になったイリスティリア様が迫った。ボクは、思わずコタツを被って隠れてしまう。あの、優しかったイリスティリア様の変化に、恐怖を感じる。やっぱり、人は怖いよ。彼女は女神様だけど。でも怖い。外に出たくない。ずっと、ここにいたい。


『ごめんなさい、勇者。もう、イリスはいないので、大丈夫』


 優しげな声に、ちょっとだけコタツをめくり、顔を出す。もう、イリスティリア様はいなかった。代わりに、赤い女の人が、再び画面に映っている。


「ひ、ひひひひとちゅ、質問がありましゅ!」


 勇気を振り絞って話してみたのはいいけど、思い切り噛んでしまった。


『聞くわ』

「……ボクは、引きこもりという仕事についていて、それで稼いでいた、はずですよね?」


 先ほどのイリスティリア様の言葉が気になっていた。誰のおかげで、食っていけたとか、なんとか。ボクは、引きこもりとして立派に働いていたはずなので、生活にかかっているお金は、全てボクが稼いでいたはずだ。


『引きこもりは、職業ではありません。そんな生活をしているだけで、お金を稼ぐことは、一切できない。貴方の生活費は、全てイリスがFXで稼いだお金であり、貴方は一銭も稼いではいない。本当に、そんな生活で働いているつもりでいたの?』

「そ、そんな……だって、イリスティリア様が、立派な職業だって……!」

『残念ながら、嘘。引きこもりは、ただの名称で、家から一歩も外に出ずにお金を稼がない人の事を指します』

「ううぅっ!」


 ボクは、女神様に騙された事がショックで、涙を流した。何よりも、引きこもりという物が、職業だと思って働いていたつもりでいた、自分が情けなくて泣く。よく考えれば、そりゃそうだよ。テレビとかでアナウンサーが、引きこもり問題がどうのこうのとか、言ってたもん。今思えばそりゃそうなんだけど、ボクは働く引きこもりだとばかり思い、それとは別なのかと思っていた。どうして気づけなかったんだよ、ボクのアホ。


『さて、勇者。貴方には、選択してもらわないといけない』

「……?」


 ボクは、コタツの布団で涙を拭い、顔を出す。


『一つは、元の世界に戻る。もう一つは、この世界で引き続き、引きこもりではなく、普通に暮らす。どっちがいい?』


 元の世界……嫌だ。もう、あの世界にはいたくない。だって、どこへいっても、勇者様勇者様ともてはやしてくるんだもん。大勢に囲まれるボクの気持ちにもなってほしい。

 もう一つは……この世界で、普通に暮らす……。無理だ。漫画やアニメの続きは気になるから、ここにいたい気持ちは強い。でも、外に出るのは無理。絶対に、無理。普通に暮らすなんて、論外。


「……このまま、暮らしたいです」

『残念だけど、それはダメ。選んで、勇者』

「う、うぅ……少し、考えさせ──」

『今すぐ、決めて。こちらもイリスが開けた穴をうめるためにやる事がたくさんで、忙しいの。……どうせ大したことはしてなかったけど。でも暇な貴方とは違って忙しいのは確か。早く決めて』

「……う、うるさい!人を、訳の分からない内に勇者とか言って持ち上げて、魔王を倒すための旅に出させた挙句に、魔王はあんな雑魚!ご褒美をくれると言うから願い事を言っただけなのに、元の世界に戻れとか、普通に暮らせとか!無理に決まってるじゃん、この──」


 危ない。酷い暴言を言うところだった。直前で言葉を引っ込めて、ボク自身もコタツに引っ込む。


『この、何?』

「なんでもありません……」

『いいから、言って。私は、女神アスラ。貴方ごときに言葉に、いちいち感情を持ち出さない』


 そ、そうなのかな?それじゃあ、別にいいよね?


「ろ……露出狂の行き遅れ風ファッション眼鏡おばさん!」


 言っちゃった!でも、言えと言われたんだから、いいんだよね?怒らないよね?ボクは、恐る恐るコタツの布団をめくり、様子を伺ってみた。すると、そこには変わらぬ顔でいる、赤い女の人。やっぱり、大丈夫だったみたい。そうだよね。ボクごときが言った悪口で、女神様がいちいち怒ったりするはずがない。


『貴方の言いたいことは、よく分かった』


 突如として、家全体がガタガタと揺れ始めた。パソコンのモニタが、家具が倒れる程の、大きな地震だ。


「ひいいぃ!」


 ボクはコタツに潜り、必死に頭を守り、その身を守る。

 ようやく、地震が収まると、部屋は酷い有様となっていた。家具は倒れ、本は散乱し、壁にはひびが入っている。そんな状況の中で、赤い女の人が映っているモニタは、何事もなかったかのように、そこに立っていた。


『予定変更。お前の行き先は、この世界に決定した』


 そうして見せられたのは、同じく何故か立ったままになっていた、別のモニタ。そこに映るのは、触手に絡めとられている、裸の女の子。先ほどまでボクがやっていた、エロゲだ。タイトルは、モンスタフラッシュ──ファンタジー系の、シミュレーションRPGのエロゲで、今年のエロゲ大賞にも選ばれた、超大作エロゲである。

 え?その世界に、ボクが行くの?それって、女の人に、えっちな事をし放題って事だよね……?想像して、鼻血が出そうになる。


『勘違いしているようだけど、お前は犯られる方だ。そもそも、お前のような童貞コミュ障クソガキが、この世界を堪能できるとも思えない。この世界で、せいぜいその歪んだ性格とコミュ障を治し、全うな人間として生まれ変わるが良い』


 なんだか、酷い言われようだ。でも、大体合ってる。そして、犯られるほうとは、どういう意味だろう。なんだか、とてつもなく嫌な予感がするんだけども。

 すると、ボクの身体が光に包まれていく。あの日、この世界に訪れた時と、同じ感覚だ。

 ボクは、この世界から消えた。色々な、思い出を残して……。主に、アニメグッズや、同人誌やエロゲを残して。




 ボクが目を覚ましたのは、女の人の悲鳴を聞いたから。ゆっくりと目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟の中だった。


「イヤァ!助けて、誰か!助けてえぇぇ!」

「グフフフフ」


 悲鳴を上げる女性が、巨大な緑色のモンスターに襲われている。その服は、あっと言う間に剥がされて、胸が露になり、ボクは息を呑んだ。

 いや、そんな眺めている状況じゃない。緑色のモンスターは、オーク。モンスタフラッシュ内で、女性を犯す、けしからんモンスターだ。

 思わず身を乗り出すけど……あ、あれ?動けない。よく見ると、ボクの両手両足は、鉄の鎖に繋がれていて、動けないようになっている。更に、その周りにも女性が数名いて、ボクと同じく拘束されている。


「……」


 でも、こんな拘束くらい、簡単に外すことができる。少し力をいれれば、ほら、この通り、ボクを拘束していた鎖は砕け散り、ボクは自由の身となった。

 更に、女性に襲い掛かっていたオークに対して、そのどてっ腹に蹴りを一撃。オークは内臓ごと吹っ飛び、二つに分かれてその場で死んだ。


「あ、ありがとう……ございます」


 オークに襲われようとしていた女性に、お礼を言われる。でも彼女の胸が露になっているし、加えてそんな、顔を真っ直ぐに見られると恥ずかしい。ボクは、顔を腕で隠すようにして、立ち去った。

 適当に駆け出したけど、この洞窟、出口が全く見えてこない。思わず全速力で走ってしまったから、相当な距離を走ってきたはずで、元の場所がどこなのかも分からない状況。


「はぁ……」


 ため息をついて、顔を伏せる。よく見れば、裸足じゃないか。それにしても、キレイな足だ。まるで、女性の物のよう。


「……ん?」


 そこで、ようやく違和感に気づいた。ボク、こんなに髪の毛長かったっけ?腰に触る髪の毛を触り、そんな疑問が浮かび上がる。その上、なんか胸が膨らんでいる?触れてみると、僅かだが、柔らかな感触があり、確かなふくらみを感じられた。しかも、元々身体のラインは女っぽかったボクだが、更に女っぽくなっている気がする。きわめつけは……ゴクリ。ボクは、息を呑み、そして、自らの股間に手を触れた。


「イヤアアアアアァァァァァ!ボクの、主砲がなくなってるうううぅぅぅぅ!」


 甲高いソプラノボイスが、洞窟の中に響き渡りました。


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