本題
その目に気づき、部屋の隅に置かれている、別のイスへと目を向けた赤狼。すぐに駆け寄って、そのイスを運んで持ってきた。
「何をしている。そんな安物のイス、お客様に座らせては失礼だろう。相変わらず、鈍くて察しの悪いヤツだ」
「も、申し訳ございません」
謝る赤狼だけど、ボク達にも、レヴォールさんの意図が、よく分からない。そのイスでいいじゃん、と思うんだけどね。
「……」
レヴォールさんは、静かに赤狼を指さしてから、床を指さした。ボクには、意味が分からない。でも、赤狼には通じたようだ。
赤狼は、イスを元の場所に戻してから、Gランクマスターの前で床に手を突き、四つん這いの体勢になった。
「な、何を……」
「どうぞ、お座りください。少しでも座り心地が悪ければ、申しつけくださいね。ただちに、罰を決行したうえで、矯正させますので」
笑顔でそういうレヴォールさんと、目の前で四つん這いになった赤狼を見て、Gランクマスターは戸惑っている。
ボク達も、そんな行動に出た赤狼が信じられないし、それを笑顔でさせるレヴォールさんの事も、信じられない。
ふと、隣に座っているレンさんが、ボクの手を握って来た。どうやら、そんな2人の行動を見て、怖くなってしまったようだ。安心させるように、ボクはその手を握り返しました。
「……よせ。私は、ここで良い」
「そうですか。残念です」
そもそも、Gランクマスターのような体格の男の人が、華奢な赤狼に乗っかっても、バランスが悪くて座りにくいよ。逆の方が、しっくり来るくらいだ。
「ひっ、ぎゃ、あああぁぁぁぁぁ!」
突然、赤狼が叫び声をあげて、床をのたうち回り始めた。
「ど、どうした!?」
Gランクマスターが、心配して声を掛けるけど、赤狼は悶えるだけで、答えることができない。
ボクは、その時気づいたことがある。ボクが、ユウリちゃんの奴隷紋に対して命令をした時と、同じような流れの魔力を感じ取った。恐らくは、その魔力はレヴォールさんから、赤狼に対して贈られている。
「ご心配なさらず、Gランクマスター。愚図な奴隷に、お仕置きをしているだけですので。この奴隷にはただいま、極上の痛みを与えています。命令違反をした奴隷や、粗相をした奴隷に対して、最上級の痛みを、身体に傷をつける事もなく、与えることができます。やりすぎると、すぐに頭の中身がショートしてしまいますので、それだけ注意です」
「あ……が……」
やがて、痛みが治まったのか、赤狼は涎を垂らしながら、静かに体を震わせておとなしくなった。
「……おい。早く立て。お客様の前で、みっともないだろう」
「は、はい……ごめんなさい……」
赤狼は、レヴォールさんの命令に素早く反応し、震える体に鞭打って立ち上がった。また、罰を食らいたくない一心だと思う。
「まったく、見苦しい所をお見せして、申し訳ない。戦闘では赤狼などと名付けられて恐れられているのに、戦闘以外は使い物にならなくて、困るんですよねっ!」
「あぐっ!」
レヴォールさんは、そう言いながら赤狼に近づくと、突然赤狼の頭に、拳骨を食らわせた。ふらふらだった赤狼は、それによって膝をつき、倒れてしまった。
「ただ、頑丈なので、玩具にはイイ。どうですか、みなさんも?思いきり殴っても、壊れないので安心してお使いください」
やっぱりこの人は、ダメだ。人を、玩具のように扱い、楽しんでいる。
レンさんの、ボクの手を握る力が、強まっている。奴隷商館が苦手だと言っていたレンさんに、ラメダさんの奴隷商館よりも、刺激的な物を見せてしまった。
「私たちは、貴方の奴隷で遊びに来た訳ではありませんし、奴隷を虐める趣味もありません。さっさと本題に入ってください」
凛とした声でそう言ったのは、ユウリちゃんだ。
「ほう……」
そのユウリちゃんを見て、レヴォールさんが不気味に笑い、赤狼から離れて、ボク達と対面するソファに、どかりと腰をかけた。脚を組み、ボク達に足の裏を見せる格好で、だ。先ほどまでは紳士的に接していたのに、急に偉そうな態度に変わりました。
「これは失礼した。では、本題に入ります。貴方の妻である、レイラ・ガレア。アレを、買い取りたい」
「?」
Gランクマスターを見てそう言ったレヴォールさんに、ユウリちゃんは首を傾げた。妻?何を言っているんだろう、ていう感じだ。
ユウリちゃんは、Gランクマスターの正体が、野菜屋さんの店主だって知らないからね。




