赤狼
お店の中に入ると、そこは酷い状況になっていた。床に転がる、無数の男の人たち。ある人は、壁に上半身だけ突っ込んで、下半身だけぶら下がっていたりする。
他にも、一応骨董屋さんの名目を保つためか、お店の商品と思しきものが、散乱しています。もろいものは壊れ、破片が散らばっていて危ないです。
「ぬぉらぁ!攫った女の子の居場所をはけぇ!」
そんな惨状を生み出したのは、マスクを装着した、猛る大男。Gランクマスターだ。襲い掛かる敵を、そのたくましい腕で、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの、立ち振る舞いを見せている。
「お、お前の探してる女の子は──」
「おらあぁぁ!」
「がはっ!」
「女の子の場所に案内す──」
「どらぁ!」
「ぶはっ!」
帽子の男の人たちが、何かを言おうとしている。でも、それを言い終わる前に、暴走するGランクマスターが殴り掛かり、話をとめてしまっているように見える。
「女の子はどこだああぁぁぁ!」
「言おうとしてるだろ、少しは話をきけ!」
ついに、帽子の男の人たちが、キレました。
一人が怒って、短剣を取り出したのを皮切りに、一斉に武器を抜く。それまでは、暴走するGランクマスターを止めようとしていたようで、話を聞かないGランクマスターのせいで、彼らを本気にさせてしまったようだ。
彼らの攻撃の対象は、お店の中に入って来たボク達も、入っているようだ。Gランクマスターを囲む、剣を構えた帽子集団に加え、倒れていた人たちも起き上がると、剣を構えてボク達に剣先を向けてくる。ちなみに倒れていた人たちは、帽子が飛んで行ってしまっていて、顔が露になっています。
「……」
「む」
場の、雰囲気が変わった。本気になった彼らは、静かにGランクマスターを囲み、音も気配も消して、その存在を認識しずらくなった。
それに気づき、Gランクマスターも冷静になり、しっかりと体勢を整えて構える。
「──双方、待て」
突如として、Gランクマスターの背後に現れた、帽子の人物。その声は、男の人とも、女の人とも取れて、顔も帽子によって隠れているので、性別が分からない。
「い、いつの間に……?」
「どうやら、タダ者ではなさそうですね」
レンさんが驚きの声をあげ、ユウリちゃんが、周りの帽子の人たちそっちのけで、その現れた人物を警戒している。
戦う意思はないようで、武器も構えずに立っているだけだけど、周りの誰にも気づかれずにGランクマスターの背後に回るとか、相当な実力者だと伺える。というわけで、ステータス画面を開いてみます。
名前:ディゼルト(赤狼)
Lv :70
職業:傭兵
種族:亜人
この人が、赤狼……帽子の人たちの、リーダーなんだ。それにふさわしいくらい、レベルが高い。それから気になるのは、種族だ。亜人って、なんだろう。
不思議に思っていると、Gランクマスターが、背後に回っていた赤狼に、殴り掛かった。
「……」
そんなGランクマスターに、目を向ける事もなく、身体を横にずらして、Gランクマスターの拳を避けた赤狼。そして、顔の横を通り過ぎたGランクマスターの腕を掴むと、次の瞬間、Gランクマスターの巨体が浮かび上がり、大きな音をたてて、背中から床に落下した。その衝撃で、床は破壊。大穴があいて、Gランクマスターは背中を、床に嵌めこまれてしまいました。
「ぬううぅ!?」
Gランクマスターは、何がおきたかわからないといった様子で、目を白黒させている。
「ご主人様が、貴方と話がしたいと言っている。おとなしく、ついてこい。……そこに、貴方の探し人もいる」
「きゃ、キャリーが……!?」
それを聞いたGランクマスターは、穴から体を引き抜き、再び赤狼に殴り掛かったけど、同じように投げ飛ばされて、床に嵌めこまれました。
「次、かかってきたら、殺す」
「……」
Gランクマスターは、そう言った赤狼の言葉に、耳を貸さない。再び穴から飛び出して、赤狼に殴り掛かろうとします。それに対して、赤狼は、本気だ。ため息を吐き、腰につけていた短剣を手にして構え、Gランクマスターに斬りかかろうとしている。
「っ!?」
「ぬぅ!?」
仕方がないので、ボクはそんな2人の間に、割り入りました。片手でGランクマスターの拳を抑え、もう片方の手で、赤狼の短剣を指先で掴み取って、止めに入ります。
「Gランクマスターさん、少し落ち着いてください!」
「だが、早くキャリーを──ぬごっ!?」
せっかく、レンさんが落ち着くように言ってくれているのに、そんなレンさんのいう事も、聞こうともしない。
ボクは、受け止めているGランクマスターの拳を、ちょっと強めに握りしめました。痛みに、苦悶の表情を浮かべるGランクマスターは、膝をつき、おとなしくなりました。




