キレイな手
「お姉さま?」
ユウリちゃんには、おだやかに、笑って過ごしてもらいたいと思う。この、キレイな手を汚したりする必要は、ない。
「ユウリちゃんには、この、キレイな手のままで、いて欲しいと思う……。だから、その……怖い顔は、しないで……」
「え。私、そんな怖い顔してましたか?」
「ええ、少し」
「してましたね」
「……」
ユウリちゃんの問いに、レンさんが頷いて答え、ボクが腕に抱いているイリスも同意して、ロガフィさんも黙って頷いて答えた。
「ええー……」
ユウリちゃんは、納得いかない様子で、自分の顔を挟んでもみもみするけど、自覚がなかった事に驚きだ。あんな怖い顔を無意識でするとか、凄いよ。
「おい、お前ら。中で暴れてる大男の、連れだな?」
骨董屋さんの前に集まっていたボク達を、周囲にいたゴロツキ達が、囲んできた。彼らは懐からナイフや、中には剣を取り出した者もいる。やっぱり、普通のゴロツキではない。彼らは、ゲットル奴隷商会の入り口を見張る、警備員的な存在だったようだ。
その割には、Gランクマスターをあっさりと中に通しちゃったけどね。
「へへ。どいつもこいつも、美人揃いじゃねぇか」
「ああ、たまんねぇな」
お決まりのような台詞を吐かれるけど、褒められるのは悪い気分じゃない。みんな、凄い美人さんなのは事実だからね。でも、その視線は気持ち悪い。まとわりつくように全身を見られるのは、やっぱり落ち着きません。
「私たちは、この中にいる、ゲットル奴隷商会に用があって来たんです。貴方たちのような三下を相手にしている暇はないので、どうぞ、失せてくださいませんか」
「生意気な娘だが、その目が苦痛に染まった時の顔が、たまらねぇんだよな」
ユウリちゃんに対して、げらげらと笑う、ゴロツキたち。
その数秒後には、彼らは地面に転がり、鼻血を出し、顔を腫らし、気絶していました。全滅です。
それをしたのは、ボクとユウリちゃんと、ロガフィさんの3人だ。一斉に動き、一瞬で、制圧をした。
やっぱり、ロガフィさんの実力は、相当なものだ。その動きの隙の無さは、ユウリちゃんよりも遥かに熟練の動きを見せ、そして素早い。レベルが???表記の人は、やっぱり規格外の強さという事で、間違いはなさそう。さすがは、元魔王です。
「早く、Gランクマスターを追いかけたい所なんですが、その前に、もし隙を突かれて逃げられたら、厄介です。外に、見張りをたてておきましょう」
ユウリちゃんはそう提案して、ロガフィさんに目を向ける。ロガフィさんなら、実力も申し分ない。外は、安心して任せられそうだ。今の動きを見て、そう判断したんだと思う。
「ロガフィさんと、イリスは、外で待機をお願いできますか?」
「何故私も!?」
「どう考えても、一緒に中に入ってきても足手まといです。残っても、ロガフィさんの足手まといだとは思いますが、もしかしたら暇になるかもしれません。その時は、ロガフィさんに弄ばれてあげてください」
「お断りですよ!どうして私が魔王と二人きりで待たなければいけないんですか!」
「……」
イリスが頑なに拒否をして、ロガフィさんが、なんだか元気なく項垂れてしまった。大好きなイリスに、そこまで拒否されたら、ショックも受けるよね。可哀そうに。
「イリスさん!」
「……」
レンさんが、そんなロガフィさんの頭を撫でながら、非難するような目を向ける。特に、ユウリちゃんの目が怖い。
「わ、私が悪いんですか、これ?ち、違うと思うんですが……わ、分かった。一緒に、待ってればいいんでしょう……?」
レンさんと、ユウリちゃんの視線に耐え切れなくなったのか、それとも、ショックを受けた様子のロガフィさんを見て心が痛んだのか、イリスがそう言いました。それを聞いたロガフィさんは顔をあげ、いつもの様子に戻る。といっても、無表情だけど。
「では、外はよろしくお願いします」
「……」
ロガフィさんは、ユウリちゃんに力強く頷きました。
ボクは、そんなロガフィさんに、手に持っているイリスを差し出します。ロガフィさんは、それを大切そうに抱きしめて、受け取りました。そして、挨拶代わりに、イリスに頬ずりをして、気持ちよさそうに目を細める。
イリスはされるがままで、無抵抗。下手に抵抗して、またロガフィさんを傷つけたら、ユウリちゃんが黙っていないだろうからね。
「早く、済ましてきなさいよ……」
イリスは、ボクを忌々し気に睨みつけながら、そう言ってきました。ボクが悪い訳じゃないんだけどなぁ。
「う、うん。なるべく早く、戻るね」
余計な事は言わず、ボクはイリスに、頷いて答えました。




