赦すつもりはありません
「とりあえず、気持ち悪いので服をちゃんと着てください。話は、それからです」
ユウリちゃんが、ボクを盾にして、Gランクマスターにそう言った。
そう言われたGランクマスターは、ポケットから丸められたシャツを取り出すと、それを音を立て、広げた。明らかに小さなシャツなんだけど、気にする様子もなく袖に手を通し、首を通し、着終わったら、パツパツの筋肉が浮かび上がって、裸とほぼ変わらない姿の完成だ。
ついでに、マスクもちゃんと被りなおして、元のGランクマスターの姿となりました。
どうして、ポケットの中に予備のシャツがしまってあるんだろうとか、細かいところは気にしないでおく。別に、知りたくないし。
「コレで、いいだろう!」
シャツを着終わったGランクマスターは、頭の上で手を組んで、ポーズを披露してきました。
「ゲットル奴隷商会の居場所が、分かりました。今から急いでそこへ向かいます。案内は、ネモお姉さまにお願いします」
「う、うん、任せて」
「では、急ぎましょう!」
ポーズを決めたGランクマスターの事は、完全に無視だ。ボク達は、ユウリちゃんが走り出したのに続き、走り出します。
Gランクマスターも、静かにポーズをとくと、ちょっと寂しそうについてきました。
ヘイベスト旅団は、同じ北区にある。なので、現場までは走れば30分もあれば、辿り着くことができる。途中で、イリスがへばったけど、いつも通りボクが担ぎ、皆のペースに合わせて走る事、30分程。予定通り、その場所に辿り着きました。
「お姉さま。ここですか?」
「う、うん」
ボクが止まったのは、ヘイベスト旅団近くの、日当たりの悪い裏通り。その一角に佇む、大きな建物の前だ。お店は、外から見ただけでは、暗くてやっているのかどうかも分からない。ただ、扉は開け放たれていて、そのお店の前では、ガラの悪い男の人たちが、数人たむろしている。
「……辿り着けたのはいいのですが、もう少し手前で言ってほしかったです」
「そ、そうですね。どうやら、目を付けられてしまったようです」
ユウリちゃんとレンさんが口々に言うと、お店の中から、帽子の男の人たちが出てきた。ラメダさんが言っていた、傭兵の人狼とかっていう人たちだね。
お店の前で止まったボク達に気づいて、警戒して出てきたみたい。あっという間に存在を知られたのは、完全にボクのせいです。
「ご、ごめんなさい」
「……いや、構わんさ。どうせ、私はすぐに突入するつもりだったからな。こんな場所に、キャリーがいるのなら、早く連れ帰らねばならん」
「ぶはっ!」
「っ!?」
ニカリと笑ったGランクマスターが、次の瞬間、帽子の男の人たちに、殴りかかった。その拳で、お店の中に、強制的に戻されていった、帽子の男の人たち。それを追従して、Gランクマスターもお店の中へと消えていく。
そして、お店の中からは、大きな音が響いてきて、Gランクマスターが暴れている様子が伺えます。
「まったく……いきなり突撃して、その間に裏から逃げられたら、どうするんですか……」
ユウリちゃんが、あきれたようにそう言うけど、その表情は驚くほど、冷たい。
「まぁ、私としても、キャリーちゃんを攫うような人たちを、赦すつもりはありませんけどね」
ユウリちゃんの目には、明らかな殺気が籠もっている。転生前のユウリちゃんは、女の人に暴力をふるっていた男の人たちを、殺して回っていたような人だったみたいだから、思い出すところがあるのかもしれない。
別に、ユウリちゃんがそうしたいのなら、全員殺してしまっても、いいと思う。たぶん、この中にいる人たちは、皆悪い人たちで、殺されても文句はないはずだ。
「ゆ、ユウリちゃん!」
だけど、ボクは、ユウリちゃんが狂気に染まる姿は見たくなかった。思い出すのは、初めてユウリちゃんと出会った時。ユウリちゃんを奴隷にしていたおじさんを、ボクがちょっと力を見誤って殺してしまって、数日後に訪れる事になった、その現場。ユウリちゃんは、狂気に染まった表情で、そのおじさんの死体を蹴り飛ばし、いい気味だと笑っていた。
当時は、ユウリちゃんがそうしたいなら、それでいいと思っていたけど、今思うとそれは違う。やめさせるべきだったんだ。また、あの時のような顔になってほしくないと思い、ボクは、ユウリちゃんの手を握り、その名前を呼んだ。




