空気を読んで
ラメダさんの部屋を後にしたボク達は、急いでお店を出て、外で待っているイリス達と合流します。
「お待たせしました。ゲットル奴隷商会の居場所、分かりましたよ」
「わぁ……」
お店の前のベンチに座り、3人はそこにいた。ボクは、そんな3人のベンチの座り方を見て、声を漏らしました。
だって、3人で重なってるんだもん。1番下は、1番体の大きなレンさんで、その膝の上に、ロガフィさん。そのロガフィさんの上に、イリスが乗っている。その光景を見て、道行く人たちが微笑んで通り過ぎていっています。
「遅いですよ、まったく……」
1番上のイリスが、やってきたボクとユウリちゃんを見て、文句を言ってきました。その手には、何かが刺さっていたと思われる串が握られていて、イリスの口がもごもごと動いて何かを噛んでいる。
辺りを見渡すと、屋台があって、そこでお肉の串焼きが売っていて、良い匂いがしてきます。
イリスには、お金を持たせていないので、レンさんにたかったんだね。
「イリス?レンさんに、お金を払わせましたね?」
そんなイリスを見て、ユウリちゃんが睨みつけます。
ヤバイと思ったのか、今更になって串を隠すイリスだけど、遅すぎます。それから、急いで口の中の物を飲み込んでから、言い訳を開始した。
「ち、違くて……こ、コレは、ね。皆で食べたいと話して、食べることになったんです。ね」
「……イリスが、言った」
「しかも、一人で全部食べちゃいましたね」
「空気を読んで、合わせなさい!」
正直な、ロガフィさんとレンさんに怒る、不正直なイリス。
「貴女はもう少し我慢というものを覚えるのと、二人を見習って正直になりなさい」
「ま、まぁまぁユウリちゃん。待ってもらってたんだし、今はいいよ。それよりも、早く行こう」
「……お姉さま」
「ほ、ほら。ネモがそう言ってるし、良いじゃないですか、て──いははは!」
イリスが余計な事を言った物だから、ユウリちゃんがイリスの頬を摘まみ、横に引っ張った。強めに引っ張ってるので、イリスの顔が平たくなって、変な顔になります。
「お姉さまが言うなら、見逃してあげます。という訳で、早く立ってください。キャリーちゃんの身に何かされる前に行かないといけないんですから、のんびりしていられませんよ」
「みにょがすにゃら、はにゃせぇ……!」
「ぷっ」
ユウリちゃんにそのまま頬を引っ張られ、強制的に立ち上がらされたイリスが抗議するのを見て、ボクは思わず笑ってしまった。
膝にイリスを乗せていたロガフィさんは、名残惜しそうだけど、引っ張り合いになったら、イリスの頬が取れちゃうからね。あっけなく解放して、続いてロガフィさんも、レンさんの膝から立ち上がりました。
「と、ところで、どうして三人で重なってたの……?」
「ロガフィさんが、イリスを抱いて座るのを見て……仲間はずれが嫌だったので、冗談交じりで上に乗るようにロガフィさんに言ったら、こうなりました」
答えたのは、最後に立ち上がった、レンさんでした。
「と、ところで、Gランクマスターさんは、どうしたんですか?」
「あ」
そういえば、忘れていました。確か、奴隷の女の子たちに囲まれて、どこかへ連れられて行ったきりだったね。お楽しみがどうのいってたけど、何をしてるのかな……。
「ぬおぅらぁ!」
「ひゃう!?」
噂をすれば、お店の中から、勢いよく飛び出してきた、Gランクマスター。上半身裸になっていて、マスクもめくれて、顔が少し見えてしまいそう。
「随分と、楽しんでいたようですね?」
「オレは何もしていない!それより、何か分かったか!?」
からかうように言ったユウリちゃんに対して、Gランクマスターは必死な様子で答えて、迫る。
それに対して、ユウリちゃんは素早い動きでボクの背後に隠れました。上半身裸のおじさんに迫られれれば、そうなるよね。ボクは元男だし、別に見慣れてはいるけど……いや、男だった時、ボクはもっと小さくて、筋肉もついてなかったから、全く見慣れてない身体なんだけどね……。だから、正直言うと、ボクもちょっと直視していられない。
ところで、一人称がGランクマスターじゃなくて、野菜屋のおじさんに、戻っちゃってるよ。Gランクマスターは、オレじゃなくて、私だからね。




