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死んだ目をした魔法少女


「はぁ~」


 シャワーで身体を洗い流してから、浴槽に張られたお湯に浸かる。昨日はシャワーだけだったけど、今日はお湯が張ってあったので、浸かることにした。多分、イリスがお湯を張ったのかな。温かいお湯が身体にしみこんで、気持ちいい。でも、ちょっとぬるいかな。お風呂の蓋がないからだろうか。あの蓋って、実は凄い機能なんだなーと、ぼんやり考える。

 それにしても、こうやって素っ裸になる度に、ボクは女の子だと思い知らされる。未だに、その……あそこがない事が、凄く違和感。洗うのに、凄く気を使う。それと、髪の毛を洗うのが大変だ。長いので、洗っても洗っても、終わらない。


「ぶくぶく」


 お湯に、口だけ沈めて、泡を吐きながらこう思う。

 目の前の水面に浮かぶのは、ボクの長い黒髪。ボク自身は、ロングヘアの女の子の方が好きだけど、自分が長いのって、大変だな。いっそのこと、切ろうかな。


「ゆうしゃ~」

「ひゃ!?」


 突然、カーテンの向こうから声がした。その声に驚いて、ボクは身体を浴槽に隠して、身構える。


「なんなの、あいつ~」


 カーテンを開いて姿を現したのは、半泣きのイリスだった。

 その服装は、とても可愛らしい物に変わっていた。イリスが着ているのは、上から下までが連結した、ワンピースタイプの服だ。白を基調としながら、スカートはふんわりと広がっていて、黒と白のレースがふんだんに縫い付けられている。アクセントで、赤いリボンが、胸元や、スカートの後ろに付けられている。それは例えるなら、魔法少女。金髪エルフ魔法少女……悪くない。


「に、似合ってるよ、イリス」

「貴方に褒められても、嬉しくない!それよりあいつ、ただ着替えさせるだけならまだしも、いちいち変な所を触ってきて、鼻息を荒くしながら気持ちの悪い事を言ってくるんですよ!?頭のネジが吹っ飛んでるんじゃないですか!?」


 気持ちは、分かります。ボクも、色々されたので。

 なので、遠い目をして笑って誤魔化した。


「何をしてるの、イリス?まだ、お着替えの途中でしょ?」

「ひっ!」


 イリスの背後から、気配もなく現れたユウリちゃんが、イリスの襟を掴み取った。そして、イリスはそのまま引き摺られて、連れ去られていく。ボクはそれを、手を合わせて見送った。




 お風呂を上がって、改めてイリスの服装を見る事になった。先程の服装に、ピンク色のマントが増えていて、更に魔法少女に近づいている。可愛いと思うんだけど、イリスの目は死んでいた。


「どうですか、お姉さま!金髪エルフ魔法少女です!」


 あ、やっぱり魔法少女がテーマだったんだ。

 でも、嫌だよ。こんな、夢も希望もない、死んだ目をした魔法少女。


「く、屈辱です……こんな、服装……。私は、もっとセクシーなドレスが良いのに……胸元が、大胆に開いたヤツです……背中も開いて、足にはスリットが大きく入っていて……見る者を魅了する服装がいいです……」


 想像してみるけど、今のイリスがそんな服を着たって、似合うはずがない。胸はないし、背も小さくて子供みたいなのに、そもそも着れないよね。無理に着ようとすれば、だぼだぼの目も当てられない姿になると思う。


「ぷっ」


 思わず、笑ってしまった。


「ああん?勇者、貴方今、笑いましたね!?笑いましたよね!?私を奴隷にしたからって、調子に乗るな!私は、いつか絶対に……貴方を……ええと……なんでもありません……」


 ボクに食いつこうとしたイリスだけど、見る見る内に勢いがなくなっていって、やがて目を伏せた。原因はたぶん、その隣でニコニコとしている、ユウリちゃんだ。笑ってはいるけど、圧が凄い。それを感じ取って、イリスは黙り込んだ。

 二人の間には、すっかり主従関係が出来上がってしまっているようだ。


「それぞれ、似合う服装と言う物があります。貴女に似合うのは、こういう服装です。我侭を言うなら、素っ裸で過ごせばいいんです」

「う……わ、分かりました。これで、いいです」

「よろしい」


 ニコリと笑うユウリちゃんは、満足げだ。なんだかんだ、仲が良さそうで安心したよ。


「それじゃあ、私もお風呂をいただきますね。お姉さまの、出汁……ぐへへ」

「……」

「……」


 いただきますって、別の意味に聞こえるんだけど、気のせいかな。まさかと思うけど、本当に飲んだりはしないよね?信じていいよね?

 ボクとイリスは、ドン引きした顔でユウリちゃんを見るけど、ユウリちゃんはお構いなし。


「そうだ。お風呂から上がったらご飯を作りますけど、ちょっと材料が少ないので、イリスにお買い物をお願いします」

「どうして私が!?」

「家の掃除、ほとんど手伝ってくれなかったじゃないですか。それくらい、してください」

「私、女神ですよ!?そんな下っ端がするような雑用、受けるわけないでしょう、自分でやってください!」

「嫌なら、ご飯抜きです」

「そんな!?」


 絶望するイリスに、ユウリちゃんが紙を手渡した。そこに書いてあるのは、買出しリスト。そんなに種類はないみたいだけど、ちょっと可愛そうかな。


「ボクも、一緒に行くよ」

「お姉さまは、いいですよ。ゆっくりと、休んでいてください」

「そういうなら、コレは勇者にお任せします。勇者よ、お気をつけていってきなさい。忘れないでください。私が、貴方と共にある事を」


 イリスのいう事は、全てスルーした。

 ボクは、お風呂上りに寝巻きのワンピースに着替えてしまっていたので、元の服に着替えた。お風呂上りのキレイな身体に、今日一日中着ていた服を着るのは、少し抵抗があるけど、仕方ない。


「じゃあ、行って来るけど、鍵は閉めておくから安心してね」

「本当に行くんですか?お姉さまと二人きりなんて、羨ましい……」

「すぐに帰ってくるけど、ゆっくりしててね」


 ユウリちゃんに背を向けると、玄関先まで見送ると言いだすので、ボクはそれを制した。ただ買い物に出掛けるだけで、大げさだよ。


「いってきまーす」


 家を出る際に、家の中にそう挨拶。すると、ユウリちゃんが廊下の奥から顔だけ出して、笑顔で手を振ってきてくれた。


「いってらっしゃい」


 たったこれだけの事だけど、ボクは凄く幸せな気持ちになりました。

 家を出て、木でできた魔法の鍵を取り出すと、それを扉の鍵穴に差し込む。すると、扉に一瞬、赤い紋章が表れて、消えた。それで、施錠は完了。これも、魔法の一種だ。ちゃんと施錠されている事を確認して、ボクは歩き出す。


「はぁ……だる」


 一緒に歩く金髪エルフの魔法少女は、家を出て早々、そんな事を呟いた。


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