見てただけ
「ラメダ様ー、安心してください。私ですよー」
返事も待たずに、扉を開いた、奴隷の店員さん。相変わらず、間抜けした声で、なんだかこちらまで力が抜けてしまいます。
「な、ナレリア……」
ラメダさんは、何故だか応接用のソファの前に置かれた、机の下に隠れていました。そして、音の正体がノックだと気づくと、怯えながら机の下から這い出てきます。その服装は、スーツ姿なんだけど、乱れてボタンが胸元まで外されていて、谷間は勿論、下着まで見えてしまっている。
ラメダさんらしい、と言えば、ラメダさんらしいセクシーな格好なんだけど、その様子がちょっとおかしい。何かに怯えて、目の下にはクマも出始めているようで、眠れていないようだ。
「ナレリアさん?」
「あ、はいー。私、ナレリアと申します。そちらは、ネモ様と、ユウリさんですよねー。いつも、ラメダ様が楽しそうに、お二人の事を話題にするので、知ってますー」
奴隷の店員さん。改め、ナレリアさんが、ボク達の名前を呼んだ。
ボクは様で、ユウリちゃんは、さんなんだね。その辺は、ユウリちゃんの奴隷という立場上、そうしないといけない決まりでもあるのかな。
「はい。それにしても、ラメダさんが私たちの事を?どんな話なのか、興味がありますね、お姉さま」
「う、うん……」
ラメダさんはボクの事を奴隷にしたがってる様子だったから、あんまり良い事でもない気がするんだけど、ユウリちゃんは嬉しそう。
「そんな事よりも!ナレリア!どこにいってたのよ!」
机から出てきたラメダさんが、必死な様子で、ナレリアさんに縋りついてきました。
「あー、はいはい、ごめんなさいー。でも、お仕事があるんですから、仕方ないじゃないですかー」
そんなラメダさんを抱きしめ、優しくあやす、ナレリアさん。頭をなでなでされて、ラメダさんは安心したように、目を細めている。
子供みたいなんだけど、その乱れた服と、妖艶な体は、大人の色気を放っています。セクシーすぎて、目のやり場に困るので、ちゃんと着てほしいです。
「ラメダさん、一体どうしたんですか?いえ、可愛くていいとは思うんですけど、キャラが変わりすぎて、私ちょっと戸惑っています。襲ってもいいですか?」
「だ、ダメだよ」
「みゅー」
ボクは、ユウリちゃんを抱き寄せて、止めました。すると、ユウリちゃんは嬉しそうに呻ってきて、自ら身体を密着させてきます。
「えーとですねー。コレには、深い訳がありましてー」
「幽霊よ!幽霊が、二日前から出るようになって、私の枕元にたって、私をじーっと見てくるの!」
「もー、幽霊なんて、いる訳ないじゃないですかー。ねー?」
「……」
「……」
ナレリアさんが、ボクとユウリちゃんに同意を求めてくるけど、何も言えませんでした。
何故なら、心当たりがあるからです。先日、ラメダさんが家に来た時、ラメダさんに一目ぼれしたというアンリちゃんが、一晩中枕元に立ってたと言ってたから、たぶんそのせいだ。
言われてみれば、今も気配があるんだよね。アンリちゃんの。
「アンリちゃん」
「……?」
ボクが、天井に向かって声を掛け、ナレリアさんが首を傾げてきました。ナレリアさんとラメダさんが、同じように天井を見るけど、何もないからね。
でも、そこにいるんです。
「なは。見つかったか」
「ひいいいぃぃぃ!」
「いたたたたたたた」
おとなしく、姿を見せたアンリちゃん。天井から逆さまの状態で、ひょっこりと顔を出し、それから体全体を出して、反転。床にふわりと着地した。
突然姿を見せた、半透明の、可愛い幽霊を見て、絶叫したのはラメダさんだ。半狂乱になってナレリアさんに縋りつき、もう抱き締めていると言うより、締めている。締められいるナレリアさんは、痛そうに悶えています。
「もう!ダメじゃないですか、ラメダさんを怖がらせて!」
「そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ……。姿もちゃんと隠してたし、ただ見てただけだからねっ」
「ねっ、じゃないよ……」
アンリちゃんは、幽霊とはいえ、気配が若干あるので、敏感な人なら察知できてしまう。ラメダさんも、たぶん敏感が故に、アンリちゃんの存在に気づいていたんだと思う。そんな訳の分からない気配に、1日中付きまとわれたら怖がるのも当然と言えば当然だ。というか、怖がってるなら止めてあげようよ。
「あの、ラメダさん?ナレリアさんが、気を失いそうなので、離してあげてください」
「むむ、無理無理!神様どうかお助けください。いい子にします。悪い事はしません。好き嫌いもせず、他人に優しく生きていくことを誓うので、どうか、どうか……!」
「……」
更に、ナレリアさんを締め付ける手が、強くなりました。これ以上は、ナレリアさんの骨がポッキリと行ってしまいそうなので、仕方がありません。
ボクは、ラメダさんの背後から、ラメダさんの手を掴むと、力づくでナレリアさんから引きはがしました。解放されたナレリアさんは、ユウリちゃんが抱きしめて確保して、支えます。
「わっ」
そんな、ナレリアさんの代わりと言わんばかりに、ラメダさんがボクの胸に抱き着いてきて、締めあげてきます。もの凄い力だけど、ボクは別に痛くも苦しくもないので、とりあえずはコレでいっか。




