触られた
聞いた話では、このお店の服は、全てアジェットさんの手作りらしい。子供向けから、大人向け。更には、可愛い服に、ちょっとえっちな服も、全てだ。
なんでも、服を作るのが好きらしくて、それを商売としてやっているらしい。好きな事を商売にできるなんて、凄い事だと思う。それを嬉しそうに語るアジェットさんは、ちょっとカッコ良かったです。
「……と、こんなもんでどうかな」
そんなアジェットさんが、ロガフィさんに似合いそうな服を選んで、更衣室の中で着替えさせてくれた。カーテンが開かれて、その姿が露になる。
「……」
まず、目に入ったのはその胸だ。小さ目ながら、それを強調するように寄せられ、胸元が大胆に開いている。胸がちょっと大きく見えるのは、胸の下を通っている、リボンのおかげのようだ。結んで蝶結びされたそれは、上着と繋がっていて、胸を寄せてあげている。下に着てるのは、赤いワンピース型の服かな。ひらひらのスカートは、膝上までの長さがあって、可愛い。黒の上着と合わさり、ちょっとクールめの色合いを見せている。上着は長袖なんだけど、肘から先が裂かれていて、結んだリボンを外すと袖が腕から離れてぶらさがるデザインとなっている。
「最高です!」
ボクと、レンさんと一緒に更衣室の外で待っていたユウリちゃんが、早速ロガフィさんの手をとって、食いつきました。
「……触られた」
ロガフィさんが、アジェットさんのセクハラを、静かに、無表情で訴えかけてきました。でも、サイズの調整とかもあるし、ある程度は仕方がない事なんだよ。ロガフィさんは、そういうのに馴れていないみたいだし、たぶんちょっと大げさに言っているんじゃないかな。
「役得、役得。可愛い女の子を見ると、つい手が出ちゃうんだよねー」
「ええ、分かります。私の時も、けっこう色々な所を触ってもらいましたよね。ごちそうさまでした」
「さっきのユウリ、以上」
「……私以上?」
どうやら、そんな事はないようだ。
もしかして、アジェットさんもユウリちゃん寄りの人なのかもしれない。ボクはその時、思いました。
「気にしない、気にしない。更衣室の中での出来事は、他言無用。それが、この店のルールだから!」
「……」
アジェットさんはそう言うものの、ユウリちゃんは凄く気になっているようだ。一体、ロガフィさんとアジェットさんは、ボク達から見えない場所で、どんな事をしていたのだろう。
……よく見ると、心なしかロガフィさんの耳の先端が、ちょっと赤くなっているような?もしかして、照れてる?表情は無だから断定はできないけど、だとしたら、ますます何があったのか気になる。ロガフィさんが、照れちゃうくらいの事をされたってことだからね。
「す、素敵ですよ、ロガフィさん。とっても似合っています」
「う、うん。ボクも、凄く可愛いと思う」
「……」
ボクとレンさんが褒めると、ロガフィさんはその場で一回転。動きを確かめるように、身体を捻ってみたり、胸の前で拳を作り、ポーズをとってみたりする。
「サイズは、ピッタシね。あたしも、可愛いと思うんだけど、どう?」
「……良い」
どうやら、ロガフィさんも気に入ってくれたようだ。
「決まりですね。では、コレをください。ちなみに、着て帰ります」
「ああ、あのダサ……ごほん。この子が着てた服はどうする?」
今、ダサいって言いかけたね。ギリギリ思いとどまったけど。
ちなみにそのダサい服は、更衣室の中に畳んで置いてあります。
「ジェノスに、返す」
「……ですが、ジェノスさんが着れるサイズではないですし、家にあっても困るような。もう何着か買いますし、もう着る事もないと思います。むしろ、もう着ないでほしいです」
「一応、目立った汚れはないし、生地も悪くないから、引き取らせてもらえるなら、その分割り引かせてもらう事はできるよ。それで、新しい服に生まれ変わらせて、それを誰かが着る事になるだろうさ。あたしとしても、服としても、その方が嬉しいと思うな」
「……」
アジェットさんに、無邪気に笑いながら語り掛けるように言われ、ロガフィさんは静かに頷いた。そうしてくれ、という事かな。
ダサい服だったけど、ロガフィさんにとっては、ジェノスさんに買ってもらった服だから、もしかしたら思い出があったのかもしれない。ジェノスさんが聞いたら、泣いて喜ぶね。
でも、ユウリちゃんの言う通り、もう着る事もないと思う。だから、生まれ変わって誰かに着てもらえれば、それが一番良いよね。




