着ません
ロガフィさんが指さしたのは、服が無造作に置かれて、山になっている所だった。
「うううぅ……」
そこから、呻き声が聞こえてきます。よく見たら、服が盛り上がったり、下がったりして、脈動しているようにも見える。見方によっては、服のお化けのようにも見えるけど、たぶん違う。誰かが、服にうもれて呻き声をあげているのだ。
「も、もしかして……アジェットさん!?」
「うぅ……ユウリちゃーん?」
ユウリちゃんが呼びかけると、ユウリちゃんの名前が呼ばれた。すぐに駆け付けたユウリちゃんが、服の山を描き分けて掘り進むと、そこにいたのは、一人の女の人でした。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとう……」
掘り出された女性は、ユウリちゃんに寄って引っ張り出され、ヨロヨロと立ち上がった。
立ち上がると、背はけっこう高い。レンさんよりも高いので、普通の男の人くらいの背の高さかな。
「どうぞ、お手を」
「あー、ありがとう、レンちゃん……」
そんな女性に、手を貸したのはレンさんだ。体を支えて、寄り添ってあげた。
「ふぅ、助かったよ。二人は、命の恩人さんだねぇ」
にへらと笑う女の人の顔には、そばかすがあって、それがチャームポイントに見える。目は大きく、鼻は丸い。茶色の髪の毛は2つにわけた三つ編みにしていて、長さはそれほど長くない。全体的に見れば、地味っぽい女の人で、だけどその地味さからか、どこか安心感を感じさせられる。
「えっと、眼鏡は、と……」
「どうぞ」
ユウリちゃんが拾ってくれた、赤ぶちの丸眼鏡を付けて、地味さが更に増しました。
服装は、デニム生地のオールインワンで、足から胸の辺りまでを包みこみ、肩に紐をかけて固定するという、作業着のような恰好だ。その下には白色のTシャツを着ていて、薄っすらと汗で透けているおかげで、黒の下着が存在をアピールしています。ちなみにそのシャツや下着が包み込む胸は、けっこう大きい。柔らかそうで、ちょっと動くたびにたぷたぷと揺れています。
「……」
ユウリちゃんは、当たり前のように、そんな透けている下着を凝視している。もう、恥も外聞もありません。
「はぁー、涼しい生き返るわー」
更には、オールインワンの上着を肩からずらし、腰元まで脱ぐと、シャツをめくってパタパタし始める女の人。おへそは勿論、下着までもがチラチラと見えてしまう。凄く大胆な行動に、ボクまでもが思わず凝視してしまいました。
「どうして、服の下敷きに……?」
「んー、足を引っかけて、ハンガーラックと一緒に倒れちゃった。あとはもう、連鎖して次から次へと降ってくるわで、死んだかと思ったわ」
笑いながら言うけど、笑う所なのかな。
「ん?こちらの可愛らしいお客さんは、初めてだね」
女の人の視線が、ボクへと向いた。それから近寄ってきて、腰を折って顔を覗き込んでくる。そんな体勢をされたおかげで、胸の谷間がこんにちはをしています。
「は、はひっ」
「ふーん。うちの店の服じゃん。よく似合ってて、我ながら可愛いわー」
なるべく、胸を見ないよう、ボクは必死に声をひりだして答えました。ちょっと噛んじゃったけどね。
そんな事を気にする様子もなく、ボクの全体を見終わった女の人は、またにへらと笑って嬉しそうに言いました。なんて、無邪気に笑う人なんだろう。大人の人でも、こんな風に笑う事ってできるんだな。
「この子が、ユウリちゃんの言ってたご主人様だね」
「はい。私の愛する、お姉さまです」
「ね、ネモ、です……」
「あたしは、アジェット。この店の、店主だよ。それで、そっちのエロい子は?」
「……」
アジェットさんに、エロい子と呼ばれたのは、ロガフィさんだ。無言で、ユウリちゃんの方に目を向けて、その服を着せた人を見つめている。
「ロガフィさんです。私のお友達で、今日はこの子の服を買いに来ました」
ユウリちゃんが、ロガフィさんの手を取り、そう言った。
「こりゃまた、可愛い子だ。それにしても、あたしがネタで作ったエロい服を着こなして、やるじゃないか。それが着れるなら、あんたに着れない服はないよ」
別に、ロガフィさんが進んで着た訳ではない。元凶は、その隣にいるユウリちゃんです。
というか、ネタでそんな服作らないでください。こんな服作ったって、買う人なんていないでしょう。
「そういえば、この前あった、もっと紐みたいな感じの服は、売れちゃったんですか?」
「あー、うん。売れちゃったね。あと、透けてるヤツも売れちゃったよ。買うかどうか迷ってたみたいだけど、残念だったね」
「そうですかー……。お姉さまに着て欲しかったのに……」
「き、着ません」
そんな事を呟くユウリちゃんに、ボクは強く否定しておいた。
それにしても、聞いただけで凄そうな服だけど、売れてるんだね。ボクの感覚がおかしいのかな。




