にゃぁ
ユウリちゃん達は、カーテンで仕切られた、更衣室の中で着替えをしているようだ。中から、きゃーきゃー騒ぐ声が聞こえて、楽しそう。
「うぅー……」
「んぇ?」
更衣室の前で、皆が出てくるのを待っている時だった。小さな、呻き声が聞こえた気がして、振り返る。でも、そこには誰もいない。見渡す限り服だらけで、人の姿は勿論、そんな呻き声を出すものも見当たらない。
「あ、アンリちゃん……?」
アンリちゃんが、悪戯でもしてるのかと思って声を掛けたけど、返事はない。凄く、不気味です。
「出来ました!」
ボクが、周囲を警戒していると、更衣室のカーテンが開け放たれたので、そちらに目が向く。目に入ったのは、黒く輝く、革の服に身を包んだ、ロガフィさんでした。体に張り付くような服で、わずかに膨らんだ胸の頂点と、股間は隠せているものの、その面積は異様に少ない。おへそは丸出しだし、少しずれただけで、む、胸の頂が見えちゃいます。それに、くるりと一回転すると、背中は丸出しで、しかもお尻はTだし、セクシーすぎる。更に、手にはレザーグローブと、足にはレザーブーツを装備して、それがまた、怪しい色気を放っているんです。
「か、可愛い……!はぁはぁ。お、お尻舐めたいです……いえ、全身くまなく舐めたいですっ!」
「落ち着いてください、ユウリさん」
「……」
ロガフィさんが、興奮した様子のユウリちゃんをよそに、ボクの方を見ている。そして、手をグーにしたまま、ボクを手招きするような仕草を見せてきた。まるで、猫の仕草を真似するようなポーズをして来て、それがまた可愛い。
そうするように仕組んだのは、明らかにユウリちゃんだ。ロガフィさんが頭に被った、ネコミミの帽子にあやかって、そうするように仕組んだんだね。それを見て、ユウリちゃんが床に転がり、ロガフィさんに向かってお腹を見せて、服従の意を見せている。
「はぁはぁ。ロガフィさん、次は私と一緒に、じゃれあいましょう!私も猫になるので、ロガフィさんも猫に……いいえ、タチに!」
「ユウリさん、落ち着いて」
レンさんが、呆れながらも、再度落ち着くように声を掛けるけど効果はない。
「ろ、ロガフィさん。嫌なら、断ってもいいんだよ……?」
「……にゃぁ?」
ボクがそう声を掛けたけど、鳴きながら、首を傾げられました。か、可愛い。
「ぐはっ!」
床に転がっているユウリちゃんが、まるで殴られたかのような声をあげ、悶え出します。正直に言えば、気持ちは分かる。でも、ユウリちゃんの反応がちょっと気持ち悪すぎて、ボクは冷静でいざるをえない。
「ゆ、ユウリちゃん」
ボクは、床で悶えるユウリちゃんの、首裏の服を引っ張り、親猫にくわえられる子猫のように持ち上げて、立たせました。それから、叱りつけるように頭に手を乗せて、髪をちょっとだけぐちゃぐちゃにさせます。
「ちゃんと、選んであげて。これ、ユウリちゃんの趣味でしょう?」
「はい……ごめんなさい……。ちなみに、お姉さま用に別サイズで同じ服があるんですが、それを着てロガフィさんと並んでもらうことは、可能でしょうか」
ボクが、ロガフィさんの着ている服を……?レンさんが、そのボク用の服を手に、目を輝かせてこっちを見ている。
「むむむ、無理だよ!ロガフィさん、そんな恰好してると風邪ひいちゃうから、早く着替えて!ユウリちゃん、次はちゃんと選んでね!レンさんも……ゆ、ユウリちゃんを見張って……ちゃんとした服を選んであげてください……」
「は、はい。ごめんなさい、ネモ様……」
まだ、レンさんはどこかよそよそしい。それにつられて、ボクもレンさんに向けて放った言葉を、少し濁してしまった。
「……」
そんな様子を見ていたロガフィさんが、いきなりボクの手を掴んできた。
「え?」
そして、反対側の手でレンさんの手を掴むと、ボクとレンさんの手を繋がせて、握手させてくる。
どうやら、ボクとレンさんが、喧嘩していると勘違いさせてしまったみたいだ。決してそういう訳ではないんだけど、ロガフィさんはそれを心配して、仲介役を買って出てくれたようで、それはありがたい……んだけど、そんなえっちな恰好で手を掴まれて、しかも凄く近くて、色々な物がよく見えて、たまりません。
「ろ、ロガフィさん。私とネモ様は、決して喧嘩をしている訳ではないんです。ちょっと、恥ずかしいというか……その……」
「そ、そうだよ。ボクとレンさんは、仲良しだから、安心して」
「……誰か、いる」
ボクとレンさんがそう言うと、ロガフィさんは静かに頷いて、手を離してくれた。それから、服でごった返した方を指刺して、静かにそう呟きました。




