ただの可愛い幽霊さん
ロガフィさんは、だぼだぼのシャツに、色気のないボロいズボン。そして、お馴染みの猫耳帽子をかぶった姿だった。
ロガフィさんの体系は、ちょっとボクに似ている。全体的にほっそりとしていて、凹凸が少ない。ただ、ちょっとか細すぎる気がする。一方で、銀色の髪はショートカットにしていて、前髪も短め。目にかからない程度に切られている。髪で隠されていないその瞳は、赤い。まるで獣のようなその瞳は、彼女が人ならざる存在ということを示している。見る人が見たら、分かっちゃうかもしれない。彼女もまた、ジェノスさんと同じ魔族なんです。ただ、ジェノスさんと違う所があって、元魔王という肩書を持っている。
「ロガフィさん!」
食事を中断したユウリちゃんが、そんなロガフィさんの姿を見て、飛びついた。
ジェノスさんに対する態度とは、全く違う。ロガフィさんを抱きしめて歓迎したユウリちゃんの姿を、ボク達は呆然と見守る。
「へー、もしかして、この子が噂の元魔王さん?」
「う、うん。そうだよ」
アンリちゃんは、2人とは初対面だ。ロガフィさんの事は話した事はあるけど、その時は信じてくれなかったんだけどね。元魔王なんかが、この町にいる訳ないじゃんと、笑い飛ばされたっけ。
「へー、ふーん、ほー」
ユウリちゃんに抱きしめられているロガフィさんを、アンリちゃんが四方から観察して、うんうん頷いている。
「こちらの方は、アンデッドですか」
「ボク?違うよ。ボクは、ただの可愛い幽霊さん。名前は、アンリだよ。よろしくね」
「わ、私はジェノスと申します」
「うん。ジェノスさんね。そして、こっちが、ロガフィさん。あは。やっぱり、元魔王なんて、嘘だよね。こんなに可愛いのに、魔王なんてそんな訳ないじゃん。みんな嘘下手すぎだよ」
笑い飛ばすアンリちゃんだけど、ロガフィさんの強さはともかく、ジェノスさんの強さは本物だ。たった一人で、この町に迫っていた魔王の軍勢を、追い返しちゃう程に、強い。
また、ロガフィさんはロガフィさんで、ボクが見ることのできるステータス表記で、レベルが???と表示されている。他に???表記だったのは、オカマの竜だけだ。それと同等の力を持っているのだとすれば、相当強い事になる。
「失礼ですよ、アンリさん!」
「そ、そうだよ、アンリちゃん」
レンさんが、そんなアンリちゃんをしかった。
ロガフィさんは、色々と苦労して、この町に辿り着いた事を、アンリちゃん以外は知っている。だから、ボクもレンさんに同調した。
「えー……だって、コレだよ?信じられる訳ないよ。ねぇ、ぎゅーちゃんもそう思うよね?」
アンリちゃんが、小ばかにしたような顔で、ユウリちゃんに抱きしめられているロガフィさんを見てから、机の上にいるぎゅーちゃんに目を向け、同調を求めた。前も、ぎゅーちゃんと一緒に信じていなかったから、今回も仲間に引き入れるつもりらしい。
でも、アンリちゃんが向いた先。そこに、ぎゅーちゃんの姿はなかった。
「あ、あれ?」
辺りを見渡すと、ぎゅーちゃんの姿を発見。天井の角の所に張り付き、ロガフィさんとジェノスさんを、見下ろしていた。
「ぎゅ、ぎゅぶる……」
ぎゅーちゃんが、怖がっている時の鳴き声だ。どうやら、2人を見て震えて怖がっているみたいで、警戒している。
「え、え?ぎゅーちゃん、この人たちが、怖いの?」
「多分、野生の勘というヤツではないでしょうか。ぎゅーちゃんさんには、お二人の強さが、分かるんですよね」
「ぎゅ、ぎゅ……」
レンさんの問いに、ぎゅーちゃんは返事をして、尚も天井で怯える。
「ぎゅーちゃん。二人は大丈夫だから、おいで」
「……ぎゅ」
そんなぎゅーちゃんに手を伸ばすと、震えながらも、ボクの手に乗り移ったぎゅーちゃん。ボクは、ぎゅーちゃんを、寝ぼけながらもご飯を食べているイリスの頭の上に乗せて、ついでにイリスの頬についた食べかすを、ハンカチで拭き取ってあげた。
それにしても、ぎゅーちゃん。ジェノスさんとロガフィさんの強さは分かるのに、ボクの事は分からないんだね。初めて会った時、襲われたことを思い出しちゃったよ。
「え。何?本当に、凄い人たちなの?」
そんなぎゅーちゃんの反応を見て、アンリちゃんが戸惑っている。まぁ確かに、ジェノスさんはともかくとして、ロガフィさんはしょうがないよね。とても、可愛らしい人だから、元魔王だなんて信じられない。
でも、たぶん本当だ。
「も、モルモルガーターですか。お噂には聞いています。なんでも、漆黒の調教師と呼ばれる少女が、従わせているとか……」
ジェノスさんが、そう言いながら、ユウリちゃんへと目を向けた。
「……まぁ、成り行きでそういう事になっていますが、ぎゅーちゃんは友達です」
漆黒の調教師……やっぱり、その通り名で流行っちゃっているようだ。ユウリちゃんは、望まぬ通り名をつけられてしまい、ちょっとげんなりとした様子です。




