いつも通りの朝でした
とはいえ、眠れるわけがない。両腕を、2人の美少女に掴まれて、胸を押し当てられている上に、顔が近くて、2人の寝息がかかってくすぐったい。常に、興奮状態で、眠れるような状況にない。しかも、ガッチリと掴まれているので、逃げる事も叶わない。
どうして、2人はこんな状況で、すやすやと眠れるの?ボクはとてもじゃないけど、眠れる気がしないよ。
眠ることを諦めたボクは、目を開き、ベッドの上の天窓から空を見上げ、お星様を眺める。この世界は、夜の光が少ないおかげで、星空が凄くキレイに見えるんだよね。でも、元の世界とは全く違う星空なので、見覚えのある星座が見当たらないのが、ちょっと残念。そもそも、星座にはあまり詳しくないので、見たって分からないけどね。でも、星空は嫌いじゃないです。勇者だった時も、眠れない夜はこうやって、一人でボーっとして、星空を眺めていたっけ。
「お姉さま、愛してます……」
「私だって、愛してますぅ……」
左右の2人が、そう寝言を呟いた。
今は、1人じゃない。起きてるのはボクだけだけど、この世界に来て、ユウリちゃんやレンさんという、こんなボクの事を好きだと公言してくれる人がいて、ボクも大切に思う人と一緒の時間を過ごし、星空を見上げている。
思えば、この世界に来てから色々な事があって、最初は嫌だったけど、友達がたくさんできて、今は凄く幸せだ。この世界に、来て良かった。そう思っている自分がいる。
そんな幸せを堪能しながら、星空を眺めている時だった。部屋の扉が、静かに開かれて、部屋に入ってくる人物がいた。
「……イリス?」
「っ……!」
その名前を静かに呼ぶと、イリスは枕を抱きかかえ、ワンピースの肩紐をずらした状態で、ベッドへと黙って歩み寄ってくる。
天窓から差し込んだ星空の光に照らされたイリスの金色の髪の毛が、輝くようでキレイだ。
「お、起きてたんですか……」
イリスも、小さな声でそう言いながら、ボク達が寝ているベッドに、腰かけて来る。ユウリちゃんの傍に腰掛けたイリスの様子は、どこか様子が変だ。そもそも、別室でゆうゆうと寝ているはずのイリスが、どうしてここに来たんだろう。
「どうしたの?」
「いえ、その……ちょっと、眠れなくて……」
ボクに背を向け、顔を見えないようにしてそう言うイリスだけど、尖った耳は、後ろからも見る事ができる。その耳が、先端まで赤く染まっていて、とても恥ずかしそう。
つまり、一人で眠れないから、ここへ来たっていう事だね。なにそれ、凄く可愛いんだけど。
できる事なら、今すぐにでも布団の中に引き入れて、一緒に寝てあげたい。だけど、それはできない。何故なら、ボクは両腕を、2人によって押さえつけられているから。
「か、環境が変わって、落ち着かないだけです。眠くなったら、すぐに戻って眠るつもりです。なので、私の事は気にしないでください」
気にするなと言われても、気にしない訳にはいかない。あの、いつでもどこでも寝てしまうようなイリスが、眠れないと言っているんだ。これは、よっぽどの大事件だよ。
「ぼ、ボクも、イリスがいなくて、寝付けなかったんだ。だから……一緒に、寝よう?」
「……ですが、さすがに四人で眠るのは、無理ですよ。それに、寝付けないのは、ユウリとレンに囲まれて、興奮しているからでしょう?どうですか、二人の胸の感触は。でもてっきり、欲望にまみれた事になってると思っていましたが、残念です」
確かに、ベッドは3人でほぼ満杯で、イリスの入る隙間がない。でも、もうちょっと詰めれば、なんとか一緒に眠れそうな気がする。
それと、欲望にまみれた事をしていると期待してたのに、ここに来たって事は、イリスも混ざりたかったという事になっちゃうよ。やらしい幼女です。お望み通り、抱きしめて、思い切り匂いをかいで、なでなでして、その可愛らしく動く尖った耳を、甘噛みしてあげよう。
……というのは、軽い冗談です。本当です。ボクは、メイヤさんやユウリちゃんのような、イリスのような幼女に手を出すような、変態じゃありません。
「ん……イリス?寝ぼけて、ベッドから出ちゃったんですか?しょうがないですね……」
「え。わっ」
突然起きたユウリちゃんが、寝ぼけているのか、そんな事を言って、イリスを背後から抱きしめて、ベッドに引き入れた。イリスは、ボクとユウリちゃんに挟まれる形で、密着。否応なしに、ボクの胸横の辺りに顔をくっつけてくるイリスを、ボクも受け入れざるを得ない。
というか、2人でそんなに押されると、反対側のレンさんが……あ、危ない。落ちる。レンさんが、落ちちゃうよ。
ボクは、慌ててレンさんを抱き寄せて、密着して押さえた。腕を身体の下に潜らせて、腰の辺りを押さえて抱いているような格好だ。あとちょっと下にいけば、レンさんのお尻がそこにある。でも、気にしてられません。離したら、落ちちゃうし。
安心するのもつかの間で、反対側のユウリちゃんも、ちょっと危うい。ボクは、レンさんと同じように、ユウリちゃんの身体の下にも腕を滑らせて、抱き寄せる。体格や、位置の関係で、ユウリちゃんの方は、完全にお尻の辺りに手がいってしまった。でも、こちらも気にする余裕がない。離したら、落ちちゃうし。
「ゆ、ユウリちゃん、イリス。さすがに、四人はちょっと、厳しいみたいだけど……」
「すやぁ」
「ぐぅ……」
「あ、あれ。二人とも、寝ちゃった?嘘だよね?寝たふりだよね?」
声を掛けるけど、反応がない。イリスはボクの胸横に顔を埋めて幸せそうだし、ユウリちゃんは、そんなイリスの頭に顔を埋めて、幸せそう。
「ゆ、ユウリちゃん……」
「あっ」
ユウリちゃんに起きてもらおうと、声を掛けながら、ユウリちゃんのお尻を触っている手に力を篭めたら、ユウリちゃんが高い声をあげた。ボクは、心臓が跳ね上がり、手の力を緩める。
「イリス……は、起きる訳ないね」
「ネモ様ぁ……」
レンさんは、相変わらず、幸せそうな寝顔で寝ている。
ボクは、3人の健やかな寝息を聞きながら、悟った。今日は、徹夜コースだな、と。
そう思っていたんだけど、ボクは、いつの間にか眠ってしまったらしい。目を開くと、天窓から青空が覗いていて、朝だという事を示している。
ふと気付いたんだけど、圧迫感がない。左右を見ると、イリスはボクの胸横にだきついたまま眠っていて、ユウリちゃんとレンさんの姿がなかった。
もしかして、下に落ちちゃったのかと思ってベッドの下を見たけど、2人の姿はない。どうやら、もう起きているようだ。良い匂いがしてるのは、2人が料理をしているからなのかな。
「むにゅぅ」
ボクに抱きついたままのイリスが、ボクがいきなり激しく動いたものだから、ぐずった声をあげた。
そんなイリスを抱いたまま、ベッドに寝なおす。イリスの頬をつついたり、耳をいじくったりして朝のひと時を過ごし、結局は、いつも通りの朝でした。




