たまりません
レンさんが持って来てくれたお肉は、本当に良いお肉で、口の中でとろける上に、その味も極上だった。
一方で、野菜も凄く美味しい。下ネタは嫌だけど、コレだけの野菜を無料で手に入れられたのなら、ちょっとは報われた気分になれるくらいに。
あ、でも二度といきません。別に、胸が小さいとバカにされたから怒っている訳ではなく、セクハラが嫌なだけです。ユウリちゃんを邪な目で見てくるのも、許せない。だから、です。
「ごちそうさまでした。美味しかったですね、お姉さま」
「うん!ユウリちゃんも、美味しく料理してくれて、ありがとう」
「え、えへへ。どういたしまして。お礼は、身体で払っていただければ、それでいいですよ。今日は、お尻の気分なので、お尻を舐めさせてください」
それにしても、ユウリちゃんから受けるセクハラはそこまで嫌ではないのに、今日野菜を買ったおじさんや、エクスさんから受けるセクハラには深い嫌悪感を感じるのは、何故だろう。やっぱり、異性だからなのかな。元男としては、それでいいのかなと思うけど、所詮男の時も、男として扱われたこともなければ、童貞だったし、男としての尊厳も魅力も、全くなかったと言っても過言じゃない。……自分で言ってて、悲しくなってしまった。
だからという訳じゃないけど、男の自分にあまり未練がないから、受け入れちゃってるんだよね。今の、女の子になっちゃった自分を。
「ふわぁ。お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃった。お風呂、どうしよっか」
「す、スルーですか。やりますね、お姉さま……!」
「あ」
そういえば、セクハラ発言をされていたんだっけ。考え事をしていて、完全に忘れていた。まぁいいや。大した話じゃないしね。
「はぁ……前の世界の暮らしを、思い出す味でした。この世界にも、こんなに良いお肉が存在するんですね。毎日コレを食べたいです」
イリスは満足げに言っているけど、野菜がまだまだ残っている。というか、ほとんど手がつけられていない。
「イリスぅ?もし野菜を残したら、明日から一ヶ月間、野菜だけの生活が待っていますから、そのつもりで。ついでに、私の可愛いお人形さんになってもらいましょう。凄い目に合わせてあげますよ」
ユウリちゃんは、ニコやかに笑いかけながら、イリスにそう言った。
「た、食べますし。食べるつもりでしたし。……でも、さっき喉に詰まらせて、ちょっと気持ち悪いのがあって……これ以上は食べられないかなー、なんて」
「うん?何か言いましたか?」
「な、なんでもありません……」
あの後復活して、ばくばくとお肉を食べていたのに、それは通じないよ。ユウリちゃんに睨まれて、イリスは慌てて野菜にフォークを伸ばし、口に運ぶ。
イリスは別に、野菜が苦手な訳じゃない。食べられるんだけど、お肉の方が美味しいから、お肉を好むだけ。
ボクは、豪遊していたというイリスの前の生活が、心配になります。お金はあったみたいだから、お肉しか食べてなかったんじゃないのかなと思う。
「というか、それをどうにかしなくて、良いんですか」
イリスが、野菜をくわえながら顎で指したのは、レンさんだ。レンさんは、口には吐血の後を見せ、真っ白に燃え尽きている。
レンさんの特技の、ショックな事があると吐血するのを、久々に見れました。いや、そうじゃなくて、どうしてそうなっているのかと言うと、レンさんが集めていたという、ボクの髪の毛コレクション。それを、やめるようにお願いしたからだ。最初は渋っていたけど、ボクが心からお願いすると、分かってくれた。でも、中々踏ん切りがつかないようで、ひと悶着あったんだよね。最終的には、その髪の毛の入った瓶を、イリスが取り上げてゴミ箱に捨ててくれて、そのショックで血を吐いて、今に至ります。
「レンさん。いい加減に、元気出してください。せっかく、現物のお姉様が目の前にいるんですから、髪の毛なんてどうでもいいじゃないですか。匂い、嗅ぎ放題ですよ」
「ユウリさんは、良いじゃないですか。毎日ネモ様と過ごし、しかも夜は一緒に寝て、ほんっとうに羨ましい!私なんて、自分の家に戻ってネモ様と離れて暮らして、しかもどうせ今日も別のお部屋で、一人寂しく眠ることになるんでしょう?分かってるんですからね」
「じゃあ、今日はレンさんがお姉さまと一緒に寝ます?」
「え?」
「え」
ユウリちゃんの提案に、一番驚いたのはボクだ。何を、勝手な事言ってるの、ユウリちゃん。
「い、いいんですか……?私が、ネモ様と、一緒に?くんかくんか、し放題……いえ、それだけじゃありません。ネモ様の身体に密着して、ネモ様に包まれて眠ることが出来るなんて、なにそれ最高じゃないですか……!」
「それでは、私が一人で寝ますかね。交代って事で、構いませんよね?」
イリスが、野菜をくわえる口をニヤリと歪ませながら、そう言った。
初めの頃は、布団が一つしかないので、仕方なく3人で一緒に眠っていた感じだけど、なんとなくそれが今も続いている。ベッドはそれほど小さくないし、広さ的には余裕があるからね。それに、3人で眠っていると、幸せな気持ちになれるので、ボクは特に文句はない。
「い、いいんですか?一人で、ちゃんと眠れます?」
レンさんが、心配そうにイリスに尋ねた。そんな子供扱いをされたイリスが、フォークの先端をレンさんに向け、咀嚼していた野菜を飲み込んでから、口を開く。
「子供扱いは、よしなさい。今まで何回か、一人で眠ると訴えても、ユウリが引き止めてきたせいで、一緒に寝ていてあげただけです」
「だって、お姉さまの反対側に誰もいないと、お姉さまが寂しいじゃないですか」
そんな理由だったの?……でも確かに、眠る時に片方に誰かいない事を考えると、ちょっと寂しいかも。
それに、イリスは抱き心地が良いんだよね。大きさが丁度よくて、髪の毛はふわふわで気持ち良いし、耳がたまにぴこぴこ動いて、可愛らしい。勿論、ユウリちゃんも、抱き心地が良い。胸はふかふかで、全体的に柔らかくて、良い匂い。その寝顔は天使のようで、眺めているだけで、ボクを天国へと連れて行ってくれる。
2人共、ボクにとってはなくてはならない、寝具のようになりつつあるのかもしれない。慣れって、怖いです。
「では、遠慮せず、こ、今夜は、お邪魔させていただいても、良いでしょうか……」
「……ごく」
ボクは、顔を赤く染めながら、もじもじとするレンさんを見て、唾を飲み込んだ。レンさんの胸は、ユウリちゃんよりも大きく、ネルさんよりは小さいけど、ふくよかだ。ユウリちゃんの持つ、まだ子供っぽい部分を省いた、大人の色気を放っている。しかも、レンさんはボクが好きだと公言しているんだよ。
そんなレンさんが、ボクと一緒に眠る?正直言って、たまりません。
「は……はい……」
ボクは、自分の欲望に従い、そう答えた。




