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一番怖い人


 諸々の事情と結果を汲み取って、イリスティリア様は名前を改めて、イリスという名前になった。確か、もう一人の女神である、えーと……名前なんだったかな。まぁいいや。露出狂の行き遅れ風ファッション眼鏡おばさんは、イリスティリア様を略して、イリスと呼んでいたから、そこからヒントを得た。ラメダさんも、ユウリちゃんも、それならと納得してくれて、イリスティリア様改め、イリスという事で決定。


「よかったね、イリス。変な名前にならなくて」


 イリスティ──じゃなくて、イリスに向かって、笑いながらそういうラメダさんを、まだ喋れないイリスは、思い切り睨みつけて返す。


「……本当は、分割払いなんてやってないんだけどねぇ……コレは、貸しだよ」

「は、はい。ありがとう、ございます……」

「珍しいですね。ラメダ様が、こんなに親切にするなんて。貴女は、よっぽどラメダ様に気に入られているみたいです」


 イリスの首輪の手綱を引いている従業員さんが、笑顔でそう言った。その顔は、ちょっとだけイジワルそうな笑顔で、ラメダさんは顔をしかめている。


「余計な事は、言わないの。貴女も、もう戻りなさい」

「はーい」


 軽く返事をすると、ボクにイリスの手綱を渡して、颯爽とした足取りで、部屋を出て行こうとする従業員さん。別れ際に、ボクに手を振ってきたので、思わず軽く手を振って返すと、最後に片目を閉じて、ウィンクをして去っていった。


「……なんだか、奴隷とは思えないような、関係ですね」

「んー?まぁ私は、身分にそんなに拘らないからね。そこは、人によると思うよ。というか、ユウリちゃんにだけは、言われたくないわ。そだ。なんだったら、本物の主人と奴隷を、私のところで体験してみる?可愛がってあげるよ」

「……じゅる。はっ!いえ、ですから、私はネモお姉さま一筋です!」


 楽しげに話す、ユウリちゃんとラメダさん。なんだか、この二人って、実を言うと似ているんじゃないかと思う。


「残念。ふられちゃったわ」


 そんな楽しげな二人をよそに、ボクの袖がくいくいと引っ張られた。引っ張ってきたのは、イリス。自分の口を指差して、ぱくぱくと口を動かしている。その目は、涙目。

 ちょっと可愛そうなので、口をきけなくした命令を解いてあげる事にした。


「あ、あー……あー。しゃ、喋れる……!貴女ねぇ、女神である私にこんな命令をして、どういうつもりですか!?」

「そ、そんな事を言われても……」

「女神の力を取り戻したら、絶対に殺してやる……!お前も、お前も!お前もだ!全員殺してやる!」

「黙れ、奴隷風情が」


 ラメダさんが、ドスを聞かせた声で睨みつけるけど、イリスは睨み返すだけ。ラメダさんの声と目の迫力は、凄いの一言に尽きる。ユウリちゃんが、普段のボクとは逆に、ボクの後ろに隠れてしまうほど。そんな目を向けられて全く怯まず睨み返すなんて、イリスは凄いなぁ、と思いました。


「はぁ……」


 やがて、折れたのはラメダさん。ため息交じりで、にらみ合いを降りた。無駄だと判断したみたい。大人だなぁ。

 そして、ボクの方へと目を向けてくる。


「もしお金を稼ぎたいなら、一番手っ取り早いのはギルドに所属して、クエストをこなしながらお宝をゲットする事ね。ネモちゃんなら、多分すぐに稼げるようになるでしょ」

「あ……それは、お姉さまが……」


 そういえば昨日、ユウリちゃんには冒険者になるのは嫌だと伝えたんだっけ。確かに嫌なんだけど……状況が状況だ。もし、お金を返せなければ、ボクはラメダさんの奴隷。ユウリちゃんに信じてと大口を叩いておいて、それはない。ユウリちゃんに、失望されたくないよ。


「わ、わかり、ました。ギルドに、いってみます。ボク、頑張ってお金を返します」

「お姉さま……私も、微力ながらお手伝いします!」

「それじゃあ、紹介状を書いてあげよう。ギルド、キャロットファミリーに、知り合いがいるんだ。そこに、行くといい。あ、あと、間違ってもヘイベスト旅団の所に行っちゃダメよ。あそこ、クズのたまり場だから」


 ヘイベスト旅団?どこかで聞いた事があるけど、まぁいいや。

 ラメダさんは、すぐに手紙を書き上げてくれて、それを封にしまって手渡してくれる。


「あ、ありがとうございます」


 それを受け取って、懐にしまった。

 ギルドかぁ。嫌だなぁ。筋肉もりもりの男の人が、たくさんいるんだろうなぁ。考えただけで、吐きそう。だけど、ユウリちゃんのためにも、頑張らないといけないよね。

 ボクは、拳を作って気合を入れる。その拳を、ユウリちゃんが握ってきたので、ボクは拳をといて、その手を握り返した。


「頑張りましょう、お姉さま。三人で!」

「はぁ!?」


 ユウリちゃんは、ボクの手を握った反対側の手で、イリスの手を握ってそう宣言。抵抗しようとするイリスだけど、その手は振りほどけずにぶんぶんと振り回すだけ。


「もし、あまりにもこの子が言う事を聞かないようなら、その身体で稼がせればいいんです。可愛いから、先程のように口だけきけなくすれば、それなりに売れると思います。どうでしょうか」

「ふざけるんじゃない!私は、女神よ!それに、あんたにそんな事を決める権限はない!でしょ、勇者!?」

「う、うん。でも、ユウリちゃんがそういうなら……イリス、怖いし……」

「勇者あああぁぁぁぁ!ふがっ!?」


 ボクを睨んでくるイリスの口を、ユウリちゃんが掴んだ。そんなに大した力じゃないとは思うけど、その顔がひょっとこのように歪んで、醜い顔になる。

 今思うと、ボクはコレと同じ事を、ボクはラメダさんにしてるんだよな。あの時は余裕がなかったとはいえ、申し訳ない。心の中で、謝っておくよ。


「いい加減、理解してください。貴女はもう、お姉さまの奴隷なんです。汚い言葉遣いや、反抗するような態度や言動は、私が許しません」

「ふぉ、ふぉ……」

「分かったら、返事を。分からないのなら、人目のつかない所にいきましょう。そこで、分かってもらえるまで、二人きりで話し合い、語らおうじゃないですか」


 イリスに囁くユウリちゃんの声は、直接頭に響いてくるような、まとわりつく声だ。

 そんなユウリちゃんの様子を見て思ったんだけど、もしかして、先ほどのラメダさんよりも怖いんじゃないかな……?いや、もしかしてもなにもない。絶対にユウリちゃんの方が怖いよ。


「ふぉ……ふぉ」


 わずかに頷いたイリスを、ユウリちゃんは解放した。解放されたイリスは、涙を流してその場に突っ伏す。

 

「分かっていただけて、嬉しいです。それじゃあ改めて、三人で頑張りましょう!おー!」

「お、おー」


 ユウリちゃんを真似て、拳を天に突き出すボク。


「あれれ?」


 イリスはついて来れず、地面に突っ伏したまま。それを、ユウリちゃんが覗き込むように首を傾げると、イリスは慌てて顔を上げた。


「お、おー!」


 イリスは、半ばヤケになって、ボク達と同じように拳を突き上げた。


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