品がない
お店には、他にも店員さんがいて、訪れているお客さんに対応している。おじさんのお店とは、全く違う。
でも、話すおじさん同士はとても仲が良さそうで、ライバル店の店主同士には見えない。
「それで?そっちの嬢さん方は、お前のなんだ。隠し子じゃないなら、お前の趣味か。金で買ったのか」
「だから、ちげぇよ!」
「大きな声を出すな。家の客がびびってんだろうが」
ハゲのおじさんは、そう言っておもむろに立ち上がった。
腰を痛めているのか、その動作がちょっと辛そう。腰をトントンと叩きながら、軽いストレッチをして、それからテントの柱に捕まって身体を支える。
「そうしてほしくないなら、オレを陥れるような事を言うな」
「ただの、挨拶代わりの冗談じゃねぇか。……それにしても、普段はもっとドギツイ下ネタを言い合う仲なのに、今日はやけに、おとなしいな」
「……」
ボク達は、おじさんを睨み付けた。特に、ユウリちゃんがキツイ眼差しをしている。
そんな視線に気付いて、おじさんのスキンヘッドの頭に、冷や汗が浮かび上がる。
「んで、そちらの嬢さん方に、野菜を売ればいいのか」
「あ、あぁ!そう、そうだ!キャリーとレイラが世話になってな。安く売ってやってくれ」
「なんで家が、お前の妻子の恩人に親切にせにゃいかん。自分の店のを安く売ってやればいいじゃねぇか」
「今日は、休みだ」
「あー……Gランクマスターの日か」
「ばっ、てめぇ、このバカが!」
おじさんが、慌ててハゲのおじさんの肩を叩いて止めたけど、ハッキリと聞こえた。Gランクマスターの日と。
別に、もう分かっているから、隠す必要もないし、驚く事でもない。
「すまん、口が滑った。だが、お前特徴ありすぎなんだよ。隠すなら、もっとちゃんと隠した方がいいぜ」
「バカ言うな。誰も気付いてない。オレの変装は完璧だ」
「そうかよ。まぁいいわ。むさ苦しいおっさんとのつまらん会話はこれくらいにしといて、うら若き嬢さん方のお相手としゃれこませてもらうぜ」
ハゲのおじさんは、おじさんを軽く押しのけて、ボク達の方へとやってきた。
「よう。話は、アルフから聞いた。家の野菜は、新鮮取れたてだ。食べてよし。挿れてよしの、美味くて気持ち良い野菜が勢ぞろいだぜ。え?どこに挿れるかって?それは、帰ったらかーちゃんにでも聞きな。ただし、オレの名前は出さないでくれよ!」
いきなりの、挨拶代わりのキツイ下ネタに、ボク達はドン引きした。
ユウリちゃんなんて、呻りながら殴りかかる構えを見せているので、ボクは慌てて止めました。
それにしても、イリスという幼女を前にしても、遠慮がない。この人、全員にこんな接客してるの?だとしたら、セクハラで訴えられるべきだと思います。
「品がない……」
「お。嬢ちゃん、オレの言ってる意味、分かるのかい?て、エルフか。エルフは、見た目以上に年いってるからな。嬢ちゃんもそんなナリで、実は相当年いってるな?おじさんの目は、誤魔化せないよ」
イリスに絡もうとするハゲのおじさんだけど、イリスは相手にする事なく、黙ってボクの後ろに隠れました。どうやら、本気で相手にしたくないみたい。
「はぁ……さっさと野菜を買って、帰りましょう」
ユウリちゃんは気ダルそうに、野菜を適当に選び始めるけど、そんなユウリちゃんの様子を、ハゲのおじさんがじっと見つめている。ニコやかに接客しているだけのようにも見えるけど、違う。その視線は、ユウリちゃんの脚や、胸やお尻を舌なめずりしながら眺めていて、気持ちが悪すぎる。
ボクは、そんな視線からユウリちゃんを守るように、立ちはだかった。
「……嬢ちゃんは、顔と下半身は良いんだが、おっぱいがなさすぎる」
誰も聞いていないのに、つまらなそうにボクの感想を述べてきた。思わず胸を隠して、恥ずかしくなってしまうけど、ここはどきません。ユウリちゃんの事を、気持ち悪い目で見るのは、許さない。
「すまん。グレイルは、こういうヤツなんだ。だが、安心してくれ。グレイルは、童貞だ。女に手を出す事は、絶対にない」
「ど、童貞じゃねぇしっ!適当言ってっと、オレがキャリーちゃんを嫁にもらっちまうぞ!」
「ああん!?誰が、キャリーを嫁にするってぇ!?」」
「……冗談だから。すんません、調子にのって。おとなしくするので、許して」
おじさんの片手に、頭を捕まれたハゲのおじさんが、宙に浮かびながら、そう訴えた。ギリギリと頭を締め付けられるハゲのおじさんに対して、おじさんは聞く耳をもたない。
「い、今の内だよ、ユウリちゃん」
「そうですね。筋肉。そのまま、それを掴んでいてください」
「任せろ」
ユウリちゃんは、その隙に袋いっぱいに野菜を詰め込んだ。それを確認してから、ようやくハゲのおじさんは解放され、地面に降り立った。心なしか、先ほどよりもハゲている気がするけど、どうでもいい。
「あー、けっこう買うね。まぁ、しめて1000Gでいいよ」
解放されたハゲのおじさんが告げた値段は、普通の値段の、半額くらいかな。かなり、お安い。
でも、ユウリちゃんは納得いかないようで、ムスッとしている。
「どうした。納得いかないのか。それじゃあ、パンツくれたら500Gにしてあげるよ」
「死ね。数々のセクハラをされているのに、1000Gじゃ高すぎます。もう半分……いえ、無料でいいんじゃないですか」
「そうは、いかねぇな。こっちも、商売なんだ。タダで物をくれてやるほど、世の中甘くはないんだぜ。……死ね?」
どこからか取り出した櫛で、乱れた髪の毛を整える、ハゲのおじさん。ユウリちゃんの発言が気になったようだけど、それを潰すように、ユウリちゃんが話を続ける。
「実を言うと私、貴族のヘンケル様や、聖女様に顔がきくんです。貴方の数々のセクハラ行為を訴えて、お店を潰すこともできたりします」
「……脅しか。悪いが、商売上そんな脅し、嫌と言うほど受けて来てんだ」
ハゲのおじさんは、新しいタバコを取り出すと、口にくわえて火をつけた。その所作は、ダンディでちょっぴりカッコイイんだけど、足が震えている。
そして、煙を吐き出して、こう言った。
「ふー……無料にするから、許してくんない?」
そういうハゲのおじさんは、何故かドヤ顔で、とても清々しい顔をしていました。




