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来ますよ


 イリスを腕に抱いた状態で、建物から建物へと飛び移りながら、ボクは上から見下ろす形で、女の子を捜した。だけど、該当する子は見つからなくて、周辺にいるのはガラの悪そうな人ばかり。小さな女の子が、本当にこんな所に迷い込んだのだとしたら、大変な事だよ。早く、見つけてあげないと。


「あ」


 そんな時、イリスが下を見て、声を出した。釣られてボクもそちらを見ると、先程の3人組が、何やら別の人達と、言い争っているみたい。

 ああいうのとは関わりたくないんだけど、3人組と対峙している人の雰囲気が、凄く怪しく感じる。そう思って少し見ていると、次の瞬間、3人組の小太りの男の人が、言い争っている人に剣で腕を刺され、膝をついて倒れこんだ。剣は腕に刺さったままで、それをしている人が容赦なく肉を抉り、小太りの男の人は叫び声をあげようとしたんだけど、その顔面を殴られ、気を失ってしまった。残りの2人はそれを止めようとしたんだけど、あっという間にねじ伏せられて、地面に押さえつけられる事になってしまっている。

 更に、何やら話しながら、小太りの男の人に対する暴力が続く。彼はもう気を失っているのに、このままではもしかしたら、死んじゃうかもしれない。

 以前のボクなら、なんとも思わなかったと思う。彼等はあんまり良い人じゃなさそうだし、多分今されている事と、同じような事を自分たちもやってきているはずだ。だから、関わらない。放っておけばいい。

 ……でも、何故か見過ごすことができなかった。


「ちょ、ちょっと、ネモ!?」


 ボクは、蹴られている小太り男の人を庇うように、建物の屋上から飛び降りて、立ちはだかった。いきなり現れたボクの姿に、皆が戸惑う。


「あ、あんたは……」

「……」


 やっぱり、3人組に絡んでいる人達は、ただ者じゃないよ。帽子を被り、長めのローブを着込んだお揃いの格好で、全員放っている空気が、普通じゃない。常に殺意をむき出しにした、下手糞な暗殺者みたいだ。そんな人が、5人いる。

 いきなり現れたボクに、彼等は冷静にボクとの距離を取ると、ボクの観察を始める。足元から、顔まで、くまなく観察されて、ちょっと気持ちが悪いです。


「こんな連中、助ける義理ないでしょう……」

「な、ないけど……見過ごせなくて……」

「段々と、レンに似てきましたね。あの時、止めなければよかったです」


 イリスに呆れられちゃったけど、ボクは後悔していない。それに、優しいレンさんに似てきたと言われるなら、それは褒め言葉であって、むしろ誇らしく思う。

 ……似たくない部分も、あるけど。


「……下がっていてください、お嬢さん。我々は、この男達に無礼な振る舞いをされ、憤っているだけです。それとも、この方々の代わりに、貴女が謝罪をしていただけるのですか?」

「し、しません。ボクとこの人達は、全く関係のない、他人以下の関係なので、しません。でも、これ以上は、この人が死んじゃいます。だから、止めてください」


 そう訴えながら、ボクは彼等のステータスを開いてみた。レベルは、全員30を示していて、職業は傭兵。


「我々にも、プライドと言う物があります。黙って見逃すわけには、いかないのです」

「はっ。そのプライドと言う物は、こんな安っぽい命で晴らされる物なんですか。随分と安いプライドで、安物同士で仲が良いですね」

「……」


 ボクが腕に抱いているイリスが、何故か双方に喧嘩を売って、睨まれた。まぁ3人組の方は、1人は気絶しているし、2人は地面に押さえつけられたままだから、何もできないんだけど。


「こ、この子の言う事は、気にしないでください。とにかくもう、暴力はやめてください」

「……分かりました」


 ボクの訴えが、届いた。代表者の1人がそう言うと、押さえつけられていた2人は解放され、5人でボクの正面に並び、引き下がっていく。

 凄い。やっぱり、言葉で訴えることって、大切なんだね。こんなに簡単にやめてくれるなんて……。いや、普通はこんなに上手くいかないよ。もしかして、ボクって交渉の才能があるんじゃないかな。自分の才能が怖いです。


「お姉さま!」


 そこへ、ユウリちゃんとレイラさんが、道の向こうから駆けつけてきた。騒ぎに気づいて、駆けつけてきたみたい。

 そんな2人が来たことにより、空気が変わった。帽子の5人組は、レイラさんを凝視し、何やら話し合いを始める。そんな事に気がつかないユウリちゃんとレイラさんが、帽子の人たちの前を通り過ぎて、ボクに合流。


「この人達は、先程の……」

「──そちらのお方は、お怪我を?だ、大丈夫ですか?」


 地面に倒れている小太りの男の人を、ユウリちゃんはゴミを見下ろすような目で見下して、レイラさんは心配そうに傍に座り、怪我の具合を見てあげる。凄く、対照的な対応だね。


「お、おい、しっかりしろ……!」

「ちくしょう……ひでぇ怪我だ……」


 先ほど、ユウリちゃんにお腹を殴られて気絶していた男の人は、意識が戻っている。と思ったら、次は小太りの人の方が気絶だ。しかも、こちらはけっこうな怪我を負わされている。顔面からは鼻血が流れ出していて、目元は腫れ始め、口の中が切れているのか、口からも血が出ている。更には、お腹のあたりも何度も蹴られているので、いくら脂肪で守られている場所とはいえ、そちらも心配だね。

 でも、今はそれよりも、帽子の5人組の方だ。レイラさんを見てから、彼等の狙いが、明らかにレイラさんに絞られている。


「……来ますよ」

「うん。分かってる」


 イリスも、それに気づいていて、ボクに警告をしてきた。

 その直後に、帽子の5人組の内の1人が、4人を影にして筒状の物を取り出すと、それをくわえて息を吐き、吹き矢を放ってきた。それは、小太りの男の人の傍に座り込んでいる、レイラさんに向けられて放たれた。

 ボクはその吹き矢を、デコピンで弾き返しました。キレイに弾かれたそれは、吹き矢を放ってきた本人の頭に当たり、彼はふらふらっとする仕草を見せて、そして仰向けに倒れました。

 ステータスで確認してみると、麻痺状態とある。殺傷能力のない、動きを止めさせる目的の物みたいだ。

 どうして、彼等がそんな物をレイラさんに向かって放ってきたのかは分からないけど、レイラさんを狙っているのは、間違いない。


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