誤魔化せませんよ
ラメダさんは、サキュバス。人を魅了し、自分の意のままに操る力を持っている。勇者の時に対峙したサキュバスも、凄くキレイで、凄くえっちで、魔法で人の頭を狂わせたりする事ができていた。
ただ、そういった類の魔法は、全体的にボクには効かない。ラメダさんも、たった今魅了の魔法をボクにかけようとしてきた訳だけど、なんだか攻撃された気分です。
「今、ボクに魔法をかけようとしました?」
「……やっぱり、きかないか。冗談よ、冗談。ちょっとした、実験のつもりだったの」
冗談で、魅了されたりしたらたまりません。
「お姉さま?何か、されたんですか?」
「う、うん……」
「魅了の、魔法ですね。淫魔が得意とする、人を惑わす魔法です。しかしネモには、状態異常の魔法は効きません。残念でしたね、色情魔」
イリスは、ボクを盾にして、ラメダさんの悪口を言いながら、ユウリちゃんに説明してくれた。
怖いなら、わざわざ喧嘩を売るような事を言わなければいいのに。でも、それを言っちゃうのがイリスだよね。
「……はぁ。ちなみに、今魅了は、三人共にかけたつもりだったんだけど、どうしてネモちゃんどころか、ユウリちゃんとイリスにもきかないの。私って、そんなに魅力ない?ちょっと、自信なくしちゃうんだけど」
「いいえ、ラメダさんはとても魅力的な女性です。胸は揉みごたえがありますし、お尻はきゅっと引き締まり、触り心地は抜群です。しゃぶりつきたくなるような、美しい唇は、見ていてたまりません。貴女が言葉を発するたびに、異様な色香を放っています。更に、その瞳は吸い込まれるようで、その目に捉われると、ゾクゾクするような魅力があります。でも、男もイケルと聞いて、引っかかります。と、言う事は、男性経験もあると言う事ですよね?」
「ま、まぁ、それなりに言い寄られて、ベッドで最後までする事はあるね……」
ラメダさんは、ユウリちゃんの冷たい視線に、たじろいでいる。先ほどまで、あんなにラメダさんとイチャイチャしてたのに、この変わりよう。
原因は、今の質問で分かった。
「なら、もう貴女に興味はありません。魅了?される訳ないです。興味ありませんので」
ユウリちゃん的に、男の人が好きな女の子も、嫌みたい。そういえば、前の世界では男の人を好きになった女の子に対して、急に冷めたとか言ってたね。
メリウスさんに対しても、エクスさんと付き合ってると聞いたときから、その態度が冷たくなってたっけ。
「ど、どうしたのさ、急に。この態度の変わりようは、さすがに怖いよ。ほら、ユウリちゃん。ユウリちゃんが好きな、おっぱいだよ」
ラメダさんが、服の前のボタンをはずし、胸の谷間を強調しながら、ユウリちゃんに向けて手を広げた。
とても魅力的で、飛び込みたくなる谷間が、そこにある。ボクだったら、誰もいなければダイブしちゃったかもしれない。
「ひゃ」
だけどユウリちゃんは、そんなラメダさんの胸には目も向けず、ボクの胸に飛び込んできました。
「やっぱり、お姉さまの胸の中が、一番です。この胸に勝てる胸は、この世に存在しません。お姉さまは最高です」
ボクの胸は、決して大きくない。むしろ、ユウリちゃんよりも小さくて、イリス並みにぺったんこだ。どう考えても、ラメダさんの胸の方が、気持ち良いと思うんだけどな。
だけど、そんなボクの胸に顔をこすり付けているユウリちゃんは、本当に幸せそうで、悪い気分ではない。むしろ、勝った気分です。ボクは、ユウリちゃんの頭を撫でながら、ラメダさんに向かい、思わずドヤ顔を決めてしまった。
「くっ……」
すると、ラメダさんは悔しげに歯を食いしばり、外したボタンを元通りにかけ直してから、ユウリちゃんが先ほど淹れてくれたお茶を一気飲みして、ふてくされたように机に突っ伏した。
「イリスにも、魅了はきかないんだね……」
「そのようですね。どうやら、精神系の攻撃には耐性があるようです。それとも、ただあの淫魔を美しいと感じないから、効かないんですかね。私にとって、元の私以外はゴミみたいにしか思えないので、それでかもしれません」
「そ、そう……」
確かに、元のイリス……イリスティリア様の姿は、凄く魅力的で、キレイだ。けども、決して他の人達全てに勝てるような美しさじゃない。ユウリちゃんだって、とても可愛くて、魅力的だし、今のイリスには今のイリスでの魅力がある。だから、ゴミなんて言わないで欲しい。
「ぼ、ボクは……今のイリスも、ユウリちゃんも……とても可愛いと思うし、好きだよ?」
「まさか、ネモ。貴方もメイヤのような性癖に目覚めたんじゃないでしょうね?」
ボクの言葉を聞いたイリスが、ボクから離れ、自分の身を守るように、身構えた。
「め、目覚めてないよ!」
ボクは、エロゲの中では黒髪ロング清楚系の女の子が好きな、王道ヒロイン派だ。とはいえ、勿論金髪ツインテールも攻略してきたし、陵辱系のエロゲではもうぐちょぐちょの、とろとろな目に合わせてきたんだけど……でも決して、メイヤさんのような変態行為に走る事はないので、安心して欲しい。
「イリスは照れてるんですよ。お姉さまに褒められて、嬉しかったんでしょう?それを誤魔化してるんです」
「……そんな訳ないでしょう。でも確かに、元の私とまでは行かずとも、私は可愛いです。それは、訂正して認めておきます」
イリスは、ユウリちゃんに反論して、ボクに背を向けてしまった。
まさかそんな、イリスが照れるなんて、そんなわけないよ。そう思ったんだけど、よく見たらこちらに背を向けたイリスの尖った耳が、赤く染まっている。
それを見た瞬間、ボクの胸に何かが突き刺さった気がした。いつもは口が悪くて、喋らなければ可愛いとは思っていたけど、口を開けば偉そうで可愛げのないのがイリスだ。そんなイリスがこんな可愛い一面をいきなり見せてきたら、困惑してしまいます。コレが噂に聞く、ギャップ萌えというヤツだろうか。アニメとかで見たことがあります。
「イリスもなんやかんや言って、ネモお姉さまの事が段々と、好きになっていってますからね。私の目は、誤魔化せませんよ」
「で、出鱈目を言うのは止しなさい。もう、この話はおしまいです!」
イリスは否定したけど、もしそうなら、嬉しいな。イリスと、ユウリちゃんと仲良く暮らす事ができれば、ボクにとってそれが何よりの幸せだからね。
「私は一体、何を見せられてるのやら……つまんないから、帰る」
そんなボク達のやり取りを見ていたラメダさんが、立ち上がると玄関に向かって歩き出したんだけど、扉を開ける直前で振り返ると、思い出したかのように話し始める。
「ああ、そうだ。私が今日来たのは、借金の取り立てもあるけど、一つ伝えておく事があって来たの。今この町に、ゲットル商会っていう、たちの悪い奴隷商が来てるんだけど、先日その商会の幹部が、この町の近くで死体で見つかったみたい。その調査で、この町を探ってるから、身に覚えがあるのなら、気をつけるように。じゃあね」
「さ、さよなら」
ラメダさんは、最後にユウリちゃんに目を向けて、あっけなく家を出て行ってしまった。
ボクは、そんなラメダさんに軽く手を振って見送り、とりあえず、未だに胸に抱きついたままのユウリちゃんを、どうやって引き剥がそうかと考える事にします。




