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お客さん


 ボク達が、家の中でそんな事をしている時だった。家の玄関がノックされて、来客を知らせている。


「ネモさん、ネモさん。お客さんだよ」

「う、うん……」


 ユウリちゃんは、壁に押し付けられた後、奴隷紋の命令を解除して、床に突っ伏したままだ。来客には対応できない。ここは、ボクが出るしかない訳だけど、勇気がいる。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。そうしていると、再びノックされて、早く出ろと急かしてきた。


「誰ですか」

「あ」


 ボクが出ようと思ったのに、イリスが扉を開けて、出てくれた。ボクは、内心ホッとしながらも、来客者の様子を、影から見守る事にする。

 悪い人だったら、イリスを守ってあげないといけないからね。


「う、げ」

「あら。元気そうね、奴隷のエルフちゃん」


 訪れたのは、スーツ姿の、眼鏡をかけた女性だった。ポニーテールにまとめられたもふもふの、赤みがかった黒色の髪の毛は、うなじが見えて色気を感じさせる。それに加えて、その大きな胸と、魅惑的で吸い込まれるような、キレイな唇。まさにセクシーな女の人を体現したような、キレイな女の人だ。


「な、何をしにきたんですか貴方は……!」

「何って、貴女のご主人様に用があってきたの。ここの所、支払いが滞っているみたいだけど、ちゃんとお金は稼げてるのかい?もし稼げてないなら、貴女も、貴女のご主人様も、私の奴隷として今日にでも連れ帰って、可愛がってあげる事になるけど、いいの?」


 その女の人は、ボクがイリスを買い取った、この町の奴隷商館の主。ラメダさんでした。相変わらず、凄い色気の持ち主だ。ボクは、そんなラメダさんに、唇を奪われた事がある。それはそれは、濃厚なキスをされて、その時は気を失ってしまった。そのキスは、ユウリちゃんを助けるための代金の代わりとして奪われた物で、当時のお金のないボクにとって、仕方のない事だったんです。

 更には、イリスを買い取る際に莫大な借金を負っていて、ボクにとってラメダさんは、ファーストキスの相手であり、債権者でもある。

 ちなみに、支払いは分割払いにしてもらってるけど、その支払いをここの所忙しくて、忘れていました。ボクは約束で、借金が払えなくなったらボク自身がラメダさんの奴隷になってしまう契約をしているので、けっこう大変な事です。


「ふ、ふん。貴女に支払うお金なんて、ありません。お金が欲しかったら、私達みたいな貧乏人の家からじゃなくて、どっかの金持ちの家から奪ったらどうですか?それとも、自分の身体を売って、稼いだらどうです?その身体なら、一晩で一万Gくらいいけますよ」

「……相変わらず、口の減らないガキエルフね。この私が、一晩で一万G?桁が違うわよ。やっぱり、ネモちゃんに売るのをやめて、どっかの拷問好きの金持ちにでも、売り払おうか」

「むがっ!」


 イリスが、ラメダさんに口を掴まれて、言葉を発することが出来なくなってしまった。

 ラメダさん、凄く怒ってるよ。イリスが、失礼な事を言うからだ。


「あ、あの、ラメダさん!」

「ネモちゃん。久しぶり。元気そうだね」


 ボクに笑顔を向けながらも、イリスを掴む手は離してくれない。ジタバタ暴れるイリスだけど、足が届かないほどに少し浮かんでいて、苦しそう。


「……イリスを、離してください」


 これ以上は、いくらラメダさんでも看過できない。ボクは、ラメダさんを睨みつけて、そう訴えた。


「はいよ」

「げほ、げほ!」


 すると、ラメダさんは思いのほか、あっさりとイリスを手放してくれて、イリスはその場に座り込み、咳をした。そんな、苦しげなイリスに駆け寄り、背中をさすってあげると、イリスはボクに身体を寄せ、服を掴んでくる。


「奴隷を大切にするのはいいけど、その口は躾けておくべきだよ。コレは、ご主人様仲間としての、警告。それと、今のはちょっと前に、貴女にやられた事の仕返しでもあるの。本気じゃなかったし、戯れだと思って許してね」


 ラメダさんはそう言って、ボクにウィンクを飛ばしてきた。

 確かにボクは、ユウリちゃんがピンチの時に、思わずラメダさんに暴力的になってしまった事がある。その事を今更、しかもイリスに返すのは、ちょっと性格が悪いんじゃないですか。まぁ仮にボクが同じ事をされたとしても、痛くも痒くもないので、ある意味で正しい選択と言えなくもないけどね。


「それで、お金の方は、どうなってるんだい?」


 ラメダさんは、そのまま家に上がり込むと、先ほどまでボクが座っていたイスに腰を下ろし、尋ねて来た。足を組んで、その仕草がまたセクシーで、思わず変な所に目が行ってしまった。

 慌てて目を逸らしたけど、ラメダさんはそんなボクの視線に気づいたのか、怪しく、優しく笑いかけてくる。


「ゆ、ユウリちゃん。起きて、ユウリちゃん」


 ボクは、助けを求めるように、イリスを腕に抱いて移動。床に突っ伏したままのユウリちゃんの身体を揺すり、起きるように促した。


「ふえ。どうかしましたか、お姉さま」

「ラメダさんが、お金はまだかって、来てるんだ」

「ラメダさんが!?」


 ユウリちゃんは、その名前を聞いて素早く起き上がると、イスに座っているラメダさんを確認。


「こんにちは、ユウリちゃん。元気そうだね」

「は、はい、おかげさまで……イリス、何をしてるんですか?」

「この女に、暴力を振られたんですよ!」


 イリスは、ボクが腕から降ろすと、まだちょっと苦しげに、自分の口を押さえてさすっている。そんなイリスにユウリちゃんがそう尋ねたら、イリスはラメダさんを指差して、ユウリちゃんに訴えかけた。


「どうせ、失礼な事を言ったんでしょう?」

「……」


 ユウリちゃんにそう言われて、イリスは反論できなくなりました。本当にその通りだからね。さすが、ユウリちゃん。イリスの事が、よく分かってる。


「そんな事より、支払いの事ですよね。すみません、遅れてしまって。払おうとは思っていたんですが、忙しくてサボってしまいました」

「……正直なのは良い事だけど、そういう事は、あまり正直に言う事でもないね」

「はい。ですが、ラメダさんは優しくてキレイな上、心の広い方のはずです。それくらい、許してくれますよね」

「口が上手いね、ユウリちゃんは。どこかのエルフとは、大違いだ」

「なん──もが」


 また余計な事を言いそうなので、ボクはイリスの口を塞いで、言葉を遮った。

 ボクにとって、ラメダさんは気分次第で、ボクを奴隷にできちゃう人なんだ。あんまり、失礼な態度は本当にやめてほしい。だからここは、全てユウリちゃんに任せよう。


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