表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/492

借金ができました


 ラメダさんのお店は、凄い賑わいを見せていた。お店の中は、この間来た時とは違って、大勢の客たちで賑わっている。奴隷さん達も、枷で繋がれた状態でありながらも、檻から出されて、外にズラリと並べられていて、自分を買ってもらおうとアピールをしている。

 これが、奴隷商館の日常……。まるで、別世界に来たような感覚に陥るけど、そもそもここは別世界だったので、別にそう感じても何も不思議な事ではなかった。


「いらっしゃいませー。お客様、本日はどのような御用でしょうかー」


 お店に入り、そんな光景を目の当たりにして突っ立っていると、お店の人に声を掛けられた。キレイな、茶髪の女性従業員さん。身なりは、ピッシリとしたスーツに、タイトスカート姿だけど、その首には、重厚な首輪がつけられている。この人も、奴隷さんなんだな……。

 ボクはそれだけ確認して、フードを深く被りなおし、ユウリちゃんの背後に隠れる。

 このフードのおかげで、こんなに人が多いのに、今のところ気持ち悪くない。凄いぞ、コレ。最高の発明品なんじゃないだろうか。


「すみません。エルフの女の子が、ここで売られていると思うんですけど……」


 と、ユウリちゃん。


「あー。はい、いますよー。どうぞ、こちらへ」


 女性従業員さんに付いて、ボクらはお店の奥へと案内された。一瞬、昨日の拘束具が並べられた部屋が思い浮かんだけど、そこはスルー。更に奥へと通されると、ちょっとだけ豪華な赤い絨毯で装飾された、廊下に辿り着いた。


「こちらですー」


 廊下の途中の、扉前で従業員さんは立ち止まる。そして、ニコニコしながら、扉を3度ノック。


「どうぞ」


 扉の中から、ラメダさんの声が聞こえた。

 許可を得た従業員さんが、扉を開き、ボクらを中に入るように促してくるので、部屋の中へと入る。

 そこには、机に向かうラメさんがいた。部屋の中は、さながら書斎。大きな机に、高そうなイスにどっかりと座るラメダさん。眼鏡をかけ、真面目な顔で書類に目を通している。

 その身なりは、昨日出会った時とは、全く違う。スーツを着こなし、髪の毛はポニーテールに纏め上げていて、正にできる女を体現したかのような姿だ。


「お客様を、お連れしました。例の、エルフの女の子をご所望です」

「ご苦労様。貴女は戻っていいわ」


 ラメダさんに言われ、案内してくれた従業員さんは、扉を閉じて部屋を去っていった。


「二人とも見違えたね。凄く、カワイイ」


 眼鏡を外しながら、そう言ってくれたラメダさんも、ボク達に可愛い笑顔を見せてくれた。

 サキュバス族は、人を魅了するだけの容姿を持っている。改めてみると、ラメダさんの容姿も、サキュバスに恥じない魅力を持っていた。赤みがかかった黒の髪の毛は、もふもふとしていて、羊のよう。その目は、見る者を吸い込むように、深く怪しげに光を放っている。全体的に、スリムな体系なのに、お尻と胸は、大きい。特に胸は、スーツがはち切れそうなくらい、その存在を強調していて、ラメダさんがちょっと動くたびに、よく動く。そして、その唇。本当に、柔らかそうで、肉厚でキレイなピンク色をしている。思わず吸い付きたくなりそうになるその唇に、ボクは吸い付かれた。思い出して、顔が赤くなるのを感じる。でも、このフードのおかげで、顔を伏せればバレる事はないだろう。


「さて。二人がここに来たという事は、お金が用意できたのかい?」

「そ、それなんですけど……」


 ユウリちゃんは、言いにくそうに、話を始める。それは、せっかくイリスティリア様を買うお金を用意したのに、そのお金を他の事に使ってしまった、悲劇の物語。


「あっはっはっはっはっは!!」


 話を聞き終わったラメダさんは、大声で笑った。


「あんた達、あの子を買うためにお金を用意したのに、家を買っちゃったんだ!?何で、家買ったし!」

「……私も、お姉さまも、あの子の事を忘れていたんです。ポロリと」

「あはははは!可愛そうに、忘れられてんだ、あの子!はぁ~、はぁ~……凄いね、あんた達。最高だよ」


 ラメダさんは、涙まで流して笑っていて、心底面白そうだった。それにつられて、ボクも笑ってしまうくらい。

 そんなボクの様子を見て、ユウリちゃんも、ちょっと困ったように笑った。


「ふぅ……それで、いくら残っているんだい?」


 息を整えて、ラメダさんはようやく落ち着きを取り戻してから、ボク達に聞いてきた。


「残りは、50万Gしかありません」


 あれ。確か、1000-890だから、確か110万G残っているはずだけど、ユウリちゃんは50万と言った。もしかして、計算を間違えてるのかな?


「ユウリちゃん。あと、110万Gだよ」

「いえ、50万です。お金の管理は私に任されているので、間違いありません。そうですよね、お姉さま」

「あ、うん……そうだった……」


 ボクの計算が間違っているとは、思えない。なのに、ユウリちゃんに笑顔で睨まれてしまった。何でか分からないけど、あまり余計な事は言わないほうがよさそうだ。ボクは、黙ることにした。


「ふーん。まぁ50万でも110万でも、どちらにしろそんな値段じゃあ、あの子を売る事はできないね」

「そこで、お願いがあってきました。お金を用意するので、それまで、あのエルフの女の子を店先に並ばせるのを、やめていただけませんか?」

「残念だけど、それはできない。貴方達が、どうやって家を買えるほどのお金を用意したのかは知らないけど、キッチリとお金を用意できるという保証もないのに、アレの買い手を捜すのを止める事は、こちらの利益にならない。お金を用意できるという保証があったとしても、それはこちらの顧客との信頼に関わる話。顧客が望めば、私は売るだけ」

「お金は……必ず用意します。そこで、交渉です。私自身を、担保として差し出します。お金が用意できなかった時は、私で損失分を補ってください」

「……貴女、意味分かってる?」


 コクリと頷くユウリちゃんだけど、ボクはよく分からない。まとめてみる。

 えっと……担保として、ユウリちゃんが差し出されるってことは、お金が用意できなかったら、ユウリちゃんは、ラメダさんの物?そして、奴隷として、誰かに売られちゃうの?あの、ユウリちゃんの元のご主人様みたいな人に?


「だ、ダメだよ、ユウリちゃん!ボクは、そんなのは認めない!」

「お金を用意できれば、問題ありません。私は、お姉さまを信じていますから」


 も、問題ありまくりだよ。ウルティマイト鉱石は、運よく手に入っただけだ。そんなに都合よく、またお金が手に入るとは思えない。


「その意気は、気に入った。だけど、それでも足りない。でも、ユウリちゃんじゃなくて、ネモちゃん。貴女が担保になるというのなら、考える」


 ラメダさんの声色が、変わった。それは、妖艶で、威圧的な、声。まるで、悪魔の囁きのよう。


「だ、ダメです!お姉さまに、そんな事を──」

「……分かりました」

「ネモお姉さま!?」

「ネモちゃんが担保になると言うのなら、あの子をあげる。お金は、分割でいいからちゃんと払ってね」

「本当ですか!?」

「ただし、支払期限は作らないけど、私が飽きたら、その時点で支払いが終わっていなければ貴女は私の奴隷」

「そんなの、滅茶苦茶です!契約したとたんに貴女が飽きたと言ったら、その時点でおしまいじゃないですか!」


 ラメダさんの提案に、ユウリちゃんが怒鳴るけど、ラメダさんは黙ってしまう。嫌なら、いいんだぞという事を、態度で示している。


「いいですよ」


 ボクは、そんなユウリちゃんをよそに、笑顔で答えた。

 ラメダさんは、信頼に値すると、ボクは思っている。ユウリちゃんが危惧しているような事を、する人じゃないだろう。


「絶対に、ダメですって!お姉さまが、他の人の奴隷になるなんて、私が許しません!認めません!」

「ぼ、ボクは、そうならないよ。ユウリちゃんは、さっきボクを信じるって、言ってくれたじゃないか。だから、信じて」

「た、確かに言ったけど……でも……!」

「はい、コレ、契約書。借金の890万Gと、支払期限と、条件も書いてあるわ。あとは、サインをするだけ。ちなみに魔法の契約書だから、絶対に破られることのない契約になるから、覚悟してね」


 ラメダさんに差し出された、契約書。重圧な紙に、魔法の紋章が刻まれていて、そこにはこの世界の文字で色々と書かれている。そして、赤色に光る文字で、ラメダさんの名前が書かれていて、その下にボクの名前を書く場所がある。

 ボクは、迷わずにそこに、渡されたペンで名前を書いた。


「あ、あああぁぁぁぁ……」


 その様子を、ユウリちゃんが、この世の終わりみたいな顔で見ているけど、気にしない。


「書けました」

「確かに。さて、それじゃあ、コレで貴女は私の物ね」


 ラメダさんは、ニコリと笑ってそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ