絶対に守ります
「皆さん、空気を読まない私も許してください」
アンリちゃんが消えずに済み、喜び合うボク達に、聖女様がそう切り出してきた。その顔は真剣そのもので、ボク達は思わず息を呑んで萎縮してしまう。
「結界が破れてしまった以上、この町は最早、風前の灯でございます。一刻も早く、住人の避難を開始なければ、先ほど消えた魔族の言うとおり、私達は皆殺しにされるでしょう。悔しいですが、私達は負けたのです」
そういえば、そうでした。大切な、結界を張るための魔力大結晶が壊れてしまい、今この町は、大ピンチに陥っている。
でも、ズーカウの話によると、魔王の軍勢1万がこの町に迫っているらしいので、それをなんとかすればボク達の敗北が一転、勝利となるはず。
「バカな聖女ですね。この町にはまだ、最強の守りがあるじゃないですか」
「イリス……?」
「女神からのお告げがなければ、人間とはこうまで思考が停止するものなんですか?貴女の味方には、ネモと、この元女神様であるイリス様がいるんですよ?魔力大結晶が壊れたくらいで、騒ぐ程の物じゃありません。そうですよね、ネモ」
「……聖女様」
ボクは、イリスに話を振られて、聖女様の顔を、真っ直ぐ見据えた。
「はい」
「ボクが、絶対に守ります。皆殺しになんか、させません。聖女様が、レンさんが守ろうとした人たちを、守って見せます。だから、安心してください」
「……貴女はもしや、勇者様なのですか?」
「……はい!」
ボクは、聖女様の問いに、ハッキリとそう答えた。だって、間違いじゃない。元だけど、ね。
「ですが、勇者様と呼ぶには、聖女の加護の力が反応しないので、やはり違うようです」
「そ、そうなんですか……」
聖女様はすぐにそう言い直してきて、イエスと答えてしまった自分が、凄く恥ずかしくなってしまいました。穴があったら入りたいです。
「あ、ああ、いえ。ですが、私自身が、そう感じたのです。貴女から感じるのは、勇者様の気迫と言いますか……加護で感じずとも、直感がそう感じさせるのです。貴女は、勇者様なのではないかと」
聖女様は、恥ずかしくて狼狽するボクをフォローするように、言って来た。後付みたいに聞こえるけど、多分嘘ではないと思います。思いたいです。じゃないと、恥ずかしくてやってられません。
「腐っても、聖女は聖女ですね。ですが、聖女の言うとおり、ネモは貴方達にとっての、勇者と呼ばれるような存在ではありません」
「ですが、私にとってネモ様は、勇者様のような存在ですよ」
「私も、お姉さまは勇者様だと思います」
「ぎゅ」
レンさんと、ユウリちゃんが、ボクの肩を叩いて、隣に立ちながらそう言った。ぎゅーちゃんも、小さな体に戻って、ボクの頭の上に乗ってきて、たぶんそう言ってくれている。
おかげで、恥ずかしかったのが大分緩和されました。
「……盛り上がっている所、恐縮だが」
話すボク達をよそに、馬に乗った男の人が駆けつけて来て、メイヤさんに耳打ちをした直後だった。メイヤさんが、手を挙げて発言した。
「どうかいたしましたか?」
「この町に迫っていた魔王の軍勢は、撤退したようだ。なので、戦う必要はない」
「本当でございますか!?」
メイヤさんの情報に、ボク達一同は驚いた。
「待ちなさい。また、さっきの魔族が流した、偽情報の可能性があります。ネモ」
そ、そうか。ボクは、イリスに促されて、今馬に乗ってきた男の人のステータスを開いてみる。でも、名前はズーカウじゃない。特別怪しい所もないので、この人は普通の人で間違いない。
ボクは、その事を皆に伝えると、一旦は安心だ。
「ですが、だとしたらどうして撤退を?せっかく、結界を破ることに成功しましたのに……」
「……」
聖女様の問い掛けに答えるように、ロガフィさんが、空を指差した。その方向から、空を駆けて降ってくる人物がいる。
空から降ってきたその人は、ボク達の近くに着地した。その人は着地した地面を破壊し、大きな音をたて、その騒々しい登場の仕方に、それが誰なのか分かっていても、思わず剣を構えて敵意を向けてしまった。
「皆さん、ご無事ですか!?お怪我は……あ、あぁ、ですがその前に、地面を壊してしまいました。死んで、お詫びを申し上げます!」
それは、頭にタオルを巻いた、魔族のジェノスさんでした。腰元にエプロンをつけた、ラーメン屋さんの姿のまま、出て来たみたい。
相変わらず、落ち着きのない人で、皆の注目を浴びてしまって慌てている。オマケに、その体中は血まみれで、ジェノスさんの物ではない血と、ジェノスさんの血が混じりあい、酷い見た目になっている。
でも、ジェノスさん自身はそんなの気にする様子もない。ハッキリ言って、怖いです。
「ジェノスさん!?その怪我はどうしたのですか!?」
「え、あの……この町に迫っていた魔王の軍勢を、追い返してきた所です。も、申し訳ありません、勝手な事をして……死にましょうか?」
「……味方、という事で良さそうだな」
ボクと同じく、剣を構えていたメイヤさんが、ジェノスさんや聖女様の様子を見て、安心して刀から手を離した。本当に、一歩間違えれば敵だと思って、斬っちゃう登場の仕方です。
「貴方が、この町に迫る魔王の軍勢を、たった一人で追い返したと言うのですか」
「は、はい。聖女様に受けたご恩を返すため、このジェノス死に物狂いで戦いました」
「ロガフィさんを一人残して、ですか?可愛そうに。一人で寂しかったんじゃないですか?」
ユウリちゃんは、ジェノスさんに非難の目を向けながら、ロガフィさんを抱きしめて言った。ユウリちゃんにとっては、この町の人たちよりも、可愛い女の子優先だからね。
「も、申し訳ございません、ロガフィ様!このジェノスが離れて、寂しかったのですね!?死んで、お詫び申し上げます!」
「……別に。寂しくは、ない」
ジェノスさんの声が大きくて、ロガフィさんの小さな声はかき消されてしまっているけど、ロガフィさんは寂しくはなかったみたい。でも、それをジェノスさんにわざわざ伝えるのは、無粋という物だ。




