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行かないと


 現れた幽霊達が、一斉にズーカウに飛び掛った。


「な、何だ貴様ら!離さぬか!」


 暴れようとするズーカウだけど、多勢に無勢だ。幽霊達に取り込まれるようにして取り付かれて、あっという間に動きを封じられてしまう。


「この人達は、今回の君の行いによって死んじゃった人達だよ」

「アンリちゃん!?」


 そんな、現れた幽霊達の中に、一際明るく陽気なアンリちゃんがいた。

 てっきり、ライチェスの儀式剣から解放されて、もういなくなっちゃったのかと思っていました。


「魂だけになった君は、これからこの人たちの恨みを、一身に受けることになるんだ。期限なんてない。君が、この小さなナイフによって囚われ続けている限り、一生逃れる事のできない苦しみが襲い続ける」

「ふ、ふざけるなぁ……!我は、高貴なる魔族ズーカウであるぞ!このような下等な人間の魂ごときに、弄ばれてたまるか!」


 暴れようとするズーカウだけど、全身に纏わり付く死者の魂を、振りほどくことは出来ない。それどころか、ズルズルと、背後の薄暗い空間に引き摺られ、連れられていこうとしている。


「よせ……!は、離せ!そちらは、ダメだ……やめろ!やめてくれぇ!」

「知ってるんだ。そっちが、どんな所か。あそこは、あちらの世界への入り口。ギリギリこの世界だけど、まぁほとんどあの世みたいなものだけどね。でも大丈夫、案外楽しい所だよ。ただ、大きな恨みを持った人にとっては、地獄か、地獄以上だと思うけど」

「ひぃ!」

「……」


 そんな、引き摺られていくズーカウに、ロガフィさんが近づいて、その前に立った。

 幽霊達が、怖くないのかな。自分から近づくなんて、ボクは絶対に嫌です。


「貴様、生きていたのか!?もしや、人間に寝返ったのか!?仮にも魔族である上に、元魔王である貴様が、人間などと言う下等生物についたのいうのか!?」

「下等なんかじゃない。皆、同じ」

「この、腑抜けたメスガキめぇ!もう一度、拷問し痛めつけてやる!あの時以上に、死にたくなるような目に合わせ、その済ました顔を苦痛で染めてやる!それから殺す!殺してやる!」

「あはは。残念ながら、それは無理かな。君はこれから、魂が浄化される事もなく、死者達の恨みをこれから先、ずーっと受け続ける事になるんだから」

「なん……ん、んー!んー!」


 ズーカウの口が、幽霊達によって塞がれ、ズーカウが口をきけなくなってしまった。いくつもの手が、そこら中から伸びてきて、更に拘束が厳重になってしまう。


「……ライチェスの儀式剣によって囚われた者に、相応しい最後でございますね」

「そうだね。コレが、いつの日か別の命を奪って、魂が交代しない限り、君は一生、あっちで苦しむ事になる。解放されるのは、果たしていつになるのかな」

「んー!」


 ズーカウが、暗い、暗い……死者達の世界へと、引きずり込まれていった。目を覆いたくなるような、苦しげな表情の人たち。彼等によって、ズーカウは苦しみ続ける事になる。

 やがて、幽霊達も、ズーカウも、霧のように晴れていなくなった。最後には、涙を流していたズーカウだけど、誰も彼に同情したり、ましてや助けようと思う者はいない。


「……」


 はずだったんだけど、ロガフィさんだけが、じっと、引きずり込まれていくズーカウを見ていた。

 無表情で分かり難いけど、たぶんロガフィさんは、ズーカウに同情しているんだと思う。一瞬、ズーカウに駆け寄ろうとして、それを聖女様に止められていた。

 あんな事を言われて尚も助けようとするなんて、本当に優しい人なんだと思う。だけど、ズーカウは助けちゃダメだ。助けたら、本当に、さっき言った事を実行してくると思うから。


「さて。それじゃあボクも、そろそろ行かないと」


 ズーカウを見送ったアンリちゃんが、明るくそう言った。


「……」

「そんな顔しないでよ、ネモさん。ボクは、次は可愛い女の子に生まれてみせるから、平気だよ」

「うん……ありがとう、メルテさんを助けてくれて。それから、皆のピンチを教えてくれて、凄く助かったよ」

「にゅふ。どういたしまして」


 アンリちゃんは、照れ臭そうに笑い、涙を流した。


「行く……とは、どういう意味ですか?」


 事情をまだ知らないレンさんが、アンリちゃんにそう尋ねる。


「ボクの魂と、さっきの気持ちの悪い魔族の魂が、入れ替わったんだ。ボクはもうこの世に囚われていないから、じきにいなくなっちゃう。だから、お別れなんだ」

「そんな……せっかくお知り合いになれたのに……」

「ありがとう、レンさん。でも、これもメルテさんを助けるため。仕方のない事だったんだ。あれ……」


 アンリちゃんの体が、少しずつ消えていくのが分かる。その事に気づいて、アンリちゃんが自分の手をじっと見つめる。それから、覚悟を決めたかのような笑顔で、ボク達に手を振ってきた。


「……アンリ君!」

「ユウリさん?」

「悔しいですが……貴方は、本当に可愛い男の子でした。だから、認めます。貴方は可愛いです。私達と一緒に暮らすのを、許可してあげてもいいです」

「……ありがとう、ユウリさん。ユウリさんにそう認めてもらえたのなら、ボクはもう思い残す事はないよ!」


 アンリちゃんは、最後に飛び切りの笑顔を見せて、そして消えて行く。霧のように、何もなかったかのように……でも、アンリちゃんはきっと、ボク達の心の中で生き続けるんだ。だってアンリちゃんはもう、かけがえのない、ボク達の大切な人なんだから。


「止めればいいんですか?」

「あれ」

「へ」

「え」

「ゆ、幽霊……怖い……」

「もうのめないよぉ……」


 普通に、アンリちゃんの腕をイリスが掴むと、アンリちゃんの消えかかっていた体が、また浮かび上がった。幽霊を掴めた事も驚きだけど、それまで消えていきそうだったアンリちゃんが、復活した事も驚きだ。

 ちなみに後半変な声が聞こえたけど、すぐ近くで寝ているメルテさんと、気絶したネルさんの寝言です。


「あ、あれ……どうして?消えそうだったのに、それに、イリスさんの手、凄くあったかい」

「魂を繋ぎとめる事くらい、簡単です。特に貴方の魂は凄く強いので、尚更ですね」


 イリスは当然のようにそう言って、ボク達は呆気にとられました。


「魂が強い?よく分からないけど、ボク消えなくて良いの?」

「少なくとも、私の近くにいる限りは平気ですね。消えたければ消してあげますけど」

「う、ううん。じゃあ、消えない。もうしばらく、皆と一緒にいたい!」


 イリスは、笑顔のアンリちゃんに纏わりつかれながら、ボクの方を見てきた。それでいいのかって言う事だと思うので、ボクは笑顔でイリスに応えた。


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