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ズーカウ


「ぎゅーちゃん!」

「ぎゅ、ぎゅー……!」


 ぎゅーちゃんが、触手で皆を巻きつけて、必死にその場に留まろうとしている。聖女様を始めとして、ユウリちゃんとネルさんに、メルテさんや、メイヤさんとイリスを庇っているぎゅーちゃんにも、限界はある。

 ぎゅーちゃんをも吹き飛ばす風だ。人が飛ばされたら、ひとたまりもないよ。

 ボクも、一人だったらなんとでもなるけど、これだけ強烈な風の中で、できる事は少ない。ここは、ぎゅーちゃんに踏ん張ってもらわないと……!

 ボクは、ぎゅーちゃんの背後に回りこむと、その背中を押して、ぎゅーちゃんが踏ん張れるように手伝った。


「ぎゅーちゃん、頑張って……!」

「ぎゅぎゅー!」

「……」


 そんなボクを真似して、ロガフィさんも、ぎゅーちゃんの背中を押してくれた。それで大分楽になったのか、ぎゅーちゃんは態勢を立て直す事に成功する。だけど、こんなのいつまでも耐えられる訳じゃない。

 ふと見ると、白くぽっかりと空いた穴が、少しずつ、ガラスに石をぶつけて割った映像の、逆再生のように、破片が集まって塞がれていく。穴が塞がれていくのに伴い、風も段々と弱まっていくのを感じた。

 やがて、風が収まると、開いていた穴はキレイに塞がり、そこには元通り、空間に食い込んでいる魔力大結晶だけが残っていた。


「お、収まった……」


 皆安心して息を吐き、互いの無事を確かめ合う。

 凄い魔法だったけど、魔力大結晶は無事だ。塔は壊れちゃったけど……仕方ないよね。

 それにしても、登ってきた日が、魔力大結晶を照らして、凄くキレイだ。光を反射して、白く光り輝くそれが、この町を守っているんだなと思うと、凄く感慨深いです。


「大丈夫か、イリス。自分から私に掴みかかってきて、必死だったようだが。なんだったら、ずっとくっついていて良いのだぞ。更になんだったら、裸でくっついてくれても良いのだぞ」

「……もういいから、離してください」

「ふ。ダメだ」

「……」


 イリスは、メイヤさんが大切に抱きしめていて、無事だ。ぎゅーちゃんの触手に捕まり、イリスを片手に守ってくれていたメイヤさんには、感謝しないといけない。だから、お礼にイリスを少しの間だけ、預けておこう。


「ぎゅーちゃん、お疲れ様。皆を守ってくれて、ありがとう」

「ぎゅー」


 ボクがお礼を言いながら大きなぎゅーちゃんを撫でると、ぎゅーちゃんは嬉しそうに触手をくねくねと躍らせた。


「……ネモさん」

「は、はい」


 それまでぎゅーちゃんに抱きついていた聖女様が、いきなりぎゅーちゃんに抱きつくのをやめて、真剣な目でボクの名前を呼んできた。


「──結界が、消えました」


 聖女様が、震える声でそう言った。直後に、宙に浮いていた魔力大結晶が、空間にめり込んでいる部分と、そこからはみ出ている部分とで、真っ二つに分かれて割れてしまった。

 割れた結晶が、空から降ってくる。もう一方の結晶は、穴の中に引きずり込まれるように消えて行き、その穴が先程出現した穴のように、キレイに塞がれる。


「ひひひひひひひ!」


 聞き覚えのある笑い声が、響いた。それは、異様に背が高くて、異様に細く、頭に2本の角の生えた、醜い化物から発せられた。黒いローブを羽織ったそれは、顔がしわくちゃで、髪の毛が生えていない。顔には目玉は4つあって、ギョロギョロとしている。


「ズーカウ……!」


 これが、本当のズーカウの姿のようだ。


「どうやら、ライチェスの儀式剣により、束縛されてしまったようだ。しかし、なかなか悪くない気分だよ」


 半透明なのは、そのせいか。つまり今のズーカウは、アンリちゃんと同じって事だね。


「ズーカウとは、実体のない、ズーカウという精神体のようですね。だから、複数人が同時にズーカウと名乗り、同時に乗っ取ることもできた。違いますか?」


 イリスが、ここぞとばかりに、メイヤさんから逃れて尋ねた。

 直後に、空から降ってきていた魔力大結晶が、地上にぶつかって大きな音が響き渡る。半分程の高さになった塔の頂上に落ちたそれは、見た目以上に大きな音と、地響きを伴った。どうやら、重さも、硬さも、見た目以上にあるみたい。


「……ご名答だ、女神イリスティリア。我は、千年前に魔王様に仕えし者。当時の魔王様のご意向により、その精神体だけを抽出され、ズーカウという人格だけが、残った。ライチェスの儀式剣のように、魂だけを残す訳ではない。人格だけを引っ張り出し、その人格を閉じ込めた特殊な魔道具にて、精神を対象に注入すれば、それは我となる。乗り移れるのは、人間だけではない。様々な魔法生物に乗り移る事も、可能だ」

「もしかして、ディセンターを暴走させたのは……!」

「その通りだ。あの人間の貴族を使い、我を乗り移らせた。アレは、いい駒だったよ」


 尋ねたレンさんを、挑発するように、ズーカウは答えた。


「父上は──!」

「──本来であれば、精神体である貴方が生き物から剥がれた時、その精神は消えてなくなるはず。ですが、貴方はまだ残っていて、そこにいる。さて、残った貴方はなんなんでしょう」


 イリスは、激昂するレンさんを遮り、話を続ける。レンさんは悔しげながらも、反論の機会を奪われた。そんなイリスの頭を、可愛らしく、背後から叩いて抗議をするけど、イリスは意に介さない。


「何が言いたい」

「今の貴方は、間違いなく魂そのものです。結局は、精神体などと言っても、魂という本体がなければ、生き物に乗り移る事はできません。貴方の魂は、貴方の各分身に少しずつ分け与えられ、削られている状態にあった。それが、例のナイフによって魂を捕えられたことにより、全ての魂が集結して、今の貴方がいる。そんな貴方が死ねば、魂を分ける事ができなくなり、ズーカウという精神体を生むことは、今後できなくなるんじゃないでしょうか」

「我は不死身だ。我の精神を閉じ込めた魔道具がある限り、我は生まれ続ける。戯言はここまでにしよう、女神イリスティリア。町を守る結界は、破られた。じきに、我が魔王軍一万が、町へと攻め込む。皆殺しだ。死にたいと思うような目にあわせてから、皆殺しだ。ひひ、ひひひひひひ!」


 その時ボク達は、ズーカウの背後に、人が立っているのを見ていた。一人じゃない。何人も、何人も……たくさんの人が、立っている。でも、アンリちゃんのように皆半透明で、しかも、死んでいるとすぐに分かるような、大怪我を負っている。

 そこだけ、空気が暗くて、光をも吸収するような、闇に包まれています。


「……」

「ネルさん!?」


 それを見て、ネルさんが気絶しました。ユウリちゃんが慌てて抱きとめて、倒れずには済んだけど、凄い光景だ。気持ちは分かります。レンさんも怖がって、さっきまで頭を叩いていたイリスを抱きしめて震え出している。


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