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パラダイスです


 レンさんのお父さんが目を閉じた直後、上の方から大きな爆発音が聞こえてきた。若干塔が揺れるけど、でも塔自体はなんともない。この塔自体も、アスラ様の像と同じように、もの凄く硬い物で作られているようなので、そう簡単には崩れなそうだ。


「爆発!?」

「もしかして、メルテが魔力大結晶を壊しちゃったとか……!?」

「……いえ、大丈夫です。結界は、張られたままでございます」

「追っ手撃退用の、罠が発動したのだ。それが発動したという事は、上に行った騎士達は全滅だろうな」


 答えてくれたのは、レンさんのお父さんだ。てっきり死んでしまったと思ったけど、生きていた。


「ち、父上!?平気なのですか!?」


 未だに涙を流していたレンさんが、呆気に取られている。レンさんも、お父さんが死んでしまったと思っていたからね。皆で騙されてしまいました。


「……急所が、奇跡的に外されているようだ。しかし、ここまで見事に急所を外されるなど、通常考えられん。人間業ではないな」


 ボク達は、レンさんのお父さんの視線の先を見た。そこにいるのは、ユウリちゃん。


「……偶然ですよ。偶然、奇跡的に、私の剣が、貴方の傷ついてはいけない場所を、貫かなかっただけです。私自身は、貴方を殺すつもりでいきましたからね。ですが、いくら急所が外れているとはいえ、血は止めないと、死んでしまいますよ」

「誰か!ヘンケル様の、治療をお願いします!」


 聖女様が声をかけ、すぐに騎士達が集まり、レンさんのお父さんの傷を抑え、止血を始める。


「幸運の加護、ですか。レンが悲しむのが、そんなに嫌だったんですか?」

「当然です。可愛い女の子が涙する姿なんて、見たくもありませんから。それに、あのままではお姉さまが傷つきかねませんでしたし、だから、私が止めるしか──」

「ユウリちゃん!」

「お、お姉さま!?な、何ですか!?ご褒美ですか!?」


 ボクは、思わずユウリちゃんを抱きしめていた。だって、ユウリちゃんが本当は、レンさんのお父さんを殺してなんかいなくて、嬉しかったから。やっぱりユウリちゃんは、最高だ。可愛い上に最高です。ずっと一緒にいたいです。


「──どうして私達が上に行くのを、止めたりしたんですか。今起きた爆発に巻き込んでおけば、皆まとめて始末できたのかもしれないのに」

「さぁ、分かりません……」


 レンさんのお父さんは、イリスにそう答えて、目を閉じて眠りに付いた。死んでしまった訳じゃないです。本当に、ただ眠りに付いただけです。その寝顔は、どこか力が抜け、安心したような、安らかな寝顔だった。


「ネモ!今度こそメルテを追うわよ。レン様は、ここでヘンケル様についてあげてて」

「はい……!」

「ぎゅーちゃんは、聖女様についててあげてくれる?」

「ぎゅ、ぎゅー……」


 ネルさんに頼まれて、ぎゅーちゃんは渋々了解した。そして、喜ぶ聖女様の掌の上に乗り、聖女様から頬ずりを受ける事となる。


「あ、あのユウリちゃん。ひぅ!そ、そろそろ、手を離してくれる?」

「で、でへへ。お姉さまの、小さなおっぱい。可愛い。良い匂い」


 ボクの胸の中には、未だにユウリちゃんがいた。ボクの胸に顔を擦りつけ、手がお尻や腿を撫でてきて、とてもくすぐったくて変な声が出てしまう。ここまでは、嬉しさのあまり我慢していたけど、これ以上は我慢できそうにありません。


「いいな、いいな、ユウリさんばっかり。ネモ様、父上は騎士の方々にお任せするので、私にもお願いします!」


 レンさんが、お父さんから離れてボクに迫ってきた。先ほどまで、あんなに心配そうにして、泣いていたのに、信じられません。


「し、しません。いいから、ユウリちゃん、離れて!」

「らめでしゅ。私、ここで暮らすことを、決めました。ここは楽園。パラダイスです」


 この子は一体、何を言っているんだろう。


「は、離れて、ユウリちゃん」


 ボクは、奴隷紋に命じ、ユウリちゃんはボクから離れて、見えない力で床に押しつぶされる形となった。いつもの、だね。

 この時、相変わらずユウリちゃんは、嬉しそうに笑っていました。潰されているのに……。


「ほら、遊んでないで行くわよ」

「は、はい!」

「転移魔法は、こちらでございます」


 ボクは、ネルさんと聖女様に促されて、転移魔法のある場所に立った。一見、何もないけれど、見えない魔法陣が描かれているこの場所が、上へと繋がっている。そこは、女神様の像の前で、この前聖女様が上から降りてきた場所だ。

 そんなボクに、倒れていたユウリちゃんが、慌てて駆け寄ってきて、腕に抱きついてきた。イリスも駆け寄ってきて、ボクの服の裾を握ってくる。2人共、一緒に行く気満々です。


「騎士達も共に──」

「いえ、大丈夫です。メルテは、私達にお任せください」


 ネルさんが、聖女様の言葉を遮って言い切った。ボクも、その方がいいな。知らない人と、あんまり行動したくないし……。


「……分かりました。この町の命運、託します」

「皆さん、どうかお気をつけて」


 ボクは、聖女様とレンさんに見守られながら、転移魔法を発動させた。それは、家の中で使う、火をおこしたり、水を出したりする魔法石と、同じようなシステムみたいで、少しだけ魔力を篭めただけで、発動しました。白い光に包まれたボク達は、次の瞬間には別の空間へとやってきていた。あっという間の出来事だけど、コレが転移魔法と言うやつだ。

 ボク達が出現したその場所は、狭めの部屋だった。壁の色は、やっぱり白くて、ここが塔の中だという事は分かるんだけど、窓がないのでイマイチ実感がわかない。


「あっちね」


 奥へと繋がる通路があり、ネルさんがそちらの方へ走り出した。道はそれしかないので、迷うことはなさそう。その通路をしばらく進むと、階段が出現した。階段は、円を描くように上に続いていて、転移魔法の転移先を、どうして階段の上に作らなかったのかと、心の中で文句を言わせて貰う。仕方がないので、しばらく進むと、通路にコゲ跡があって、明らかに何かが爆発したような跡に遭遇する。


「さっきの爆発は、コレね……」


 道がこれしかない分、罠も張りやすい。だから騎士の人達は、罠に引っかかっちゃったのかな。それが、どんな罠なのかは分からないけどね。


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