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初めての朝食


「ふあぁ……」


 次の日の朝。ボクは、気持ちの良い日差しを感じて、起きた。床は固くて、あまり良い睡眠が取れたとは言えない。それでも、疲れは取れたかな。

 隣を見ると、そこにはユウリちゃんの姿がなかった。辺りを見てみるけど、やっぱりいない。その代わり、良い匂いが漂っている事に気がついた。

 匂いに誘われるがまま、ボクは部屋を出る。階段を下りて、1階のリビングへと足を運ぶと、そこに匂いの正体があった。


「あ、お姉さま。おはようございます」


 ユウリちゃんは、とびきりの笑顔と、美味しそうな朝食で、ボクを迎えてくれた。机の上には、オムレツに、ウィンナーとパン。それに、ブロッコリーやレタスの、野菜類。更には、コーンスープが並べられている。

 昨日、買っておいた食材たちが、見事に調理されてそこにある。


「簡単に、お食事を作ってみました。今、起こしに行こうとしていた所なんですよ」

「うわぁ~、凄いよ、ユウリちゃん!」


 ボクは、あまりの感激に、涙を流しそうだ。これで、ユウリちゃんが裸エプロンという訳の分からない格好をしていなければ、思わず抱きついていた所だろう。


「お口に合うといいのですが」

「絶対に合うよ!でもボク、他の人にご飯作ってもらうなんて初めてだから、ちょっと緊張するな」

「初めて?ご両親とかには、作ってもらえなかったんですか?」

「ご飯は、ボクが作る担当だったんだ。でも、上手く作れなかったときは、いらないって言って、全部ボクが食べる事になったりして、大変だったよ。あ、ボクは、ちゃんと全部食べるから、安心してね」

「……」


 ユウリちゃんは、ボクの話を聞いて、眉をひそめてちょっと怖い顔をした。

 なんでだろう?ボク、変な事言ったかな?


「ユウリちゃん……?」

「い、いえ、なんでもありません。私、ちょっと着替えてきますね。あ、お姉さまがご希望でしたら、このままで──」

「着替えてきて」


 ボクは、遮るようにそう言った。




 寝巻きで着ていた、ボクと同じような白のワンピースに着替えたユウリちゃんと並んで、食事を楽しむ。どれを食べても美味しくて、ボクの頬は、緩みっぱなし。人が作るご飯って、こんな味なんだ。調理方法はたぶん、あんまりボクと変わらない。でも、何故だか自分で作る物とは、味が全く違く感じるから、面白い。


「んー、んふぅ……美味しいよ~」

「そんなに幸せそうに食べていただけると、作った甲斐があります」

「だって、本当に美味しいよ!」

「あー、ケチャップがついてますよ。拭いてあげますね」


 隣に座るユウリちゃんが身を乗り出して、ボクの口元についたケチャップを拭いてくれた。ご飯に夢中でよく見てなかったけど、今の感触、何かおかしかった。

 ボクは不思議に思い、ユウリちゃんの方を見ると、すぐそこにユウリちゃんの顔がある。そして、ペロリと舌なめずりをする、ユウリちゃん。い、今のって、まさか……?


「ネモお姉さまの味、おいし」


 どうやら今のは、ユウリちゃんの舌の感触だったようだ。ユウリちゃんの可愛らしい舌が、ボクの口元のすぐ傍を、舐めた……想像しただけで、鼻血が出そう。というか、今現実にあったことだ。


「ゆ、ゆゆゆゆゆうりちゃん、今……!?」

「はい。いただきました。あ、オムレツ、美味しいですね。ふっくら柔らかくて、上手くできています。自分で言うのもなんですが」

「あ、うん。凄く、美味しいよ」

「良かったです。はい、どうぞ。ちょとこちらの方が大きいようなので、お裾分けです」

「わー、ありがとう!」


 ユウリちゃんが、ボクのお皿に自分のオムレツを半分に切って、移してくれた。ボクはもう食べ終わりそうだったオムレツが増えて、凄く嬉しい。だって、本当に絶品なんだよ。


「私、少しお姉さまの扱いに慣れてきました」

「うん?」

「何でもありません」


 おかしな事を言うユウリちゃんに、オムレツを頬張りながら目を向けて首を傾げるけど、笑顔でそう返されてしまった。なんだろう。ちょっと気になるな。でも、ご飯が美味しいから別にいいや。


「それにしても、件のエルフの女の子、どうしましょうか」

「……あ」


 危ない。また、忘れていた。


「また、忘れていたんですね……」

「う、うん。面目ない」

「別に大丈夫ですよ。むしろ、お姉さまらしさ全開で、可愛いです」


 それは、喜んでいいのだろうか。でも、男だった頃は可愛いと言われると、ちょっと気にくわなかったけど、今可愛いと言われると、ちょっと嬉しい。不思議な物である。


「で、でも、どうしよう……イリスティリア様、せっかくお金を用意したのに、お家を買っちゃったから、もうお金がありませんなんて聞いたら、絶対に怒るよ……」

「それなんですが、ネモお姉さまは、あのエルフの子を、何故助けたいと思うのですか?ハッキリ言って、あの子の言っている事は滅茶苦茶です。お姉さまが律儀に言う事を聞いて、助ける必要はないと思うのですが」


 確かに、今のイリスティリア様は、ボクを見るなり怒鳴りつけて、許さないだの、殺して解放しろだの、言っている事が怖い。でも、ボクはそんなイリスティリア様に、何度も励まされて、元気を貰った。あの優しかった頃のイリスティリア様を知っていて、恩を貰っているからこそ、見捨てるわけには行かないんだ。……忘れてたけど。


「それでもボクは、イリスティリア様を見捨てることは、できないよ。ご、ごめんね」

「何も、謝る必要はありません。お姉さまがそうしたいと言うのなら、私もそれに従うまでです。でも、現状ではあの子を購入するお金がありません。そこで、この後ラメダさんの所にいって、購入の意思を伝えて、一旦キープしてもらいましょう」

「う、うん。そうする」


 正直、昼間に人出の多いところに行くなんて、まっぴらごめんだけど仕方がない。

 朝食を済ませたボクとユウリちゃんは、身なりを整えて、家を出た。服は、昨日ユウリちゃんが選んだ服。ボクは、その服にくっついたフードを、深く被った格好。視線をカットできて、素晴らしい。

 ボク達は、その後をつける人物に気が付きもせず、ラメダさんの奴隷商館へ向かった。


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