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むがもがむが


 怒って、歯止めがきかなくなったのは、ユウリちゃんだけではなかった。塔の中の広間に、光が注いだと思った瞬間。空中にいくつもの紋章が現れたと思ったら、光の槍の雨が、紋章の中から地上に向かい、降り注いだ。


「──シャイニングレイン」


 光の槍は、ズーカウ達だけを容赦なく貫き、灰に帰した。一瞬にして、複数のズーカウを殲滅したのだけど、全滅とまではいかない。でも、シスターさん達を囲っていたズーカウの大部分はいなくなった。

 むしろ、転移魔法により、地上に降り立ち、シスターさん達を囲っていたズーカウを、魔法で打ち倒した聖女様の身の方が危険な状況になってしまった。

 聖女様が姿を現した瞬間、残ったズーカウは一斉に、聖女様に襲い掛かっていた。聖女様を殺す。そのために彼等は準備していたのだから、その動きに一切の迷いはない。ある者は、魔法を。ある者は、剣で斬りかかり、ある者は槍を構えて突撃をする。


「ライトエルダーン!」


 聖女様がつけている指輪が、光り輝いた。紋章が、襲い掛かるズーカウを挟み込むように現れ、眩い光が通り抜けると、それをくらったズーカウが跡形もなく吹き飛ばされた。

 でも、それができたのは正面から襲い掛かったズーカウだけ。背後からきたズーカウに、聖女様は対応しきれない。

 そんな、背後から襲いかかったズーカウ達を、いくつもの黒い触手が貫き、聖女様を守った。


「ぎゅー!」


 空から降ってきたぎゅーちゃんは、大きな体となり、そして聖女様を守るナイトのように、降り立った。

 実は、ズーカウが聖女様に襲い掛かる直前に、小さなな体のぎゅーちゃんを、ボクが聖女様に向かって投げつけていたのだ。

 一方でボクはと言うと、隠れていたズーカウや、魔法を放とうとしていたズーカウを、剣でなぎ払って回った。多分、彼等の目には一瞬の事で、ボクが通り過ぎた事にも気づいていないはず。

 そうして、一瞬でズーカウ達は全滅。何人かのシスターさんは怪我をしてしまったけど、ズーカウの言うとおり、多分すぐに治療を施せば平気なはずだ。


「メリウス!」


 騎士と共に、エクスさんも遅れて突撃してきた。エクスさんが真っ直ぐ向かったのは、メリウスさんの下だ。血がつくのもお構いなしに、床に倒れこんでいるメリウスさんを抱き起こし、安堵の表情を浮かべている。


「すぐに治療をしてくれ!他のシスター達もだ!」

「で、ですが部隊長殿!聖女様がモンスターに……!」


 聖女様は、ちょっと嫌がるぎゅーちゃんに、抱きついていた。傍から見れば、モンスターに襲われている美女。本当は逆なんだけど、事情を知らない騎士達が戸惑うのも、無理がありません。


「アレは、私のペットのぎゅーちゃんです!私の許可なしに、人に危害を加えないように調教してあるので、ご安心を」


 オルクルさんが作った話に乗っかり、遅れて突撃してきたユウリちゃんが、高らかにそう宣言した。


「その通りだ!あのモンスターは味方であり、敵ではない!だから治療を優先しろ!」


 エクスさんの指示もあり、騎士達はぎゅーちゃんよりも、倒れているシスターさんの治療に向けて動き出した。いくら致命傷ではないとはいえ、あふれ出ている血の量は、凄い事になっている。早く治療してあげないと、可愛そうだ。


「メリウスさん!」


 レンさんも、倒れているメリウスさんに駆けつけて、その身を案じている。ネルさんも、そんなレンさんに寄り添って、一緒にメリウスさんに駆け寄った。


「ネモ。この中にズーカウがいないのか、もう一度ちゃんと調べておいた方がいいですよ」


 そこへ、イリスがボクに近寄ってきて、そう警告をしてくれた。確かに、こんな状況で更にズーカウがいたら、厄介な事この上ない。

 ボクは、周囲の人たちを今一度ステータス画面を開いて確認して、ズーカウを探してみる。なるべく時間をかけて、一人一人、丁寧にね。でも、とりあえずいないみたいで、安心しました。


「ぎゅーちゃん、ありがとうございます。とても、カッコよかったです。もし貴方が望むのなら、この身を好きにしても良いのでございますよ」

「ぎゅー……」


 ぎゅーちゃんに頬ずりをし、キスまでしている聖女様に、騎士達は近寄り難い上に、話しかけ辛いようで、遠くで見守っている。近くで見ると、聖女様が全く嫌がっておらず、むしろ自分からぎゅーちゃんに近寄ってるとハッキリ分かるからね。


「せ、聖女様」


 ボクは、そんな騎士達の間を潜り抜けて、聖女様とぎゅーちゃんの下へと寄った。


「ぎゅ!」


 ぎゅーちゃんはボクの姿を見て、小さな体に戻ると、聖女様から逃げるように、ボクの肩に乗り移ってきた。


「ネモさん。……ありがとうございました。私の大切な人たちと、私を守っていただいて……これで、貴方に助けていただくのは、二度目でございますね。でも、あまりに多くの血が流れてしまいました。私がもっと早く行動に出ていれば、守れていた命もあったのに……」


 確かに、シスターさん達は無事かもしれないけど、町の人たちや、騎士の何名かは、この場で命を落としてしまった。聖女様は、その死を悔やんでいる。聖女様のせいなんかじゃ、ないのに。


「悔やむ必要は、ありません。彼等は、この町を守るための、尊い犠牲となったのです。もが」

「い、イリス……!」


 ボクは、イリスの口を、背後から塞いで喋れないようにした。


「それに!」


 でも、イリスはそんなボクの手を跳ね除けて、話を続ける。


「あの魔族がバラけた状態では、一編に倒すことなど不可能でした。ですが、貴女を殺すために集中したがために、一編に倒すことが出来て、犠牲は最小限で済んだのです。仮に貴女が早くに姿を見せたりしたら、余計に混乱してパニックになったり、貴女が殺されていたかもしれない。そうなれば、この町がどうなるか、貴女はよく知っているはずです」

「……分かっています」

「なら、自分の選択した事に、いちいち後悔をするのはよして、守った物と、守れなかった物に向き合いなさい」

「……はい」


 聖女様は、神妙な様子で、静かに頷いた。


「それにしても、本当にバカな聖女ですね。自らの身を危険に晒して降りてくるとか、頭がイカれてるんじゃないですか。貴女は上で、愚民どもが死のうが何をしようが──もがっ」


 ボクは、再びイリスの口を塞いだ。今度はちゃんと塞いだので、イリスは抵抗むなしく話を続けられなくなる。


「ご、ごめんなさい……」

「いいんですよ、分かっています。ですが、私は生きています。上手くいったので、ここは良しとしませんか、イリス」

「っ……!」


 イリスが、いきなり暴れだした。手を離せと訴えかけてくるけど、また余計な事を言いそうなので、ボクは無視して口を塞ぎ続ける。


「むがもがむが!」


 何を言っているのか、全く分からない。


「ネモさん!」

「ひゃああぁ!?」


 そこへ、突然眼前に、逆さ状態で現れたアンリちゃんに驚き、ボクはイリスの手を離し、その場に座り込んだ。


「ぷはっ。上手くいきすぎてる……!」

「大変だよ!」


 なんだか、ちょっと前にも同じような事があった気がする。今度は一体、何が大変なんだろうか。


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