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カギ


 人質のメリウスさんには、茶髪の女の人型のズーカウが、ピッタリとナイフを突きつけている。これじゃあ、何かの拍子にメリウスさんが傷ついてしまうし、更にその他のシスターさん達を同時に助けるなど、不可能に近い。


「メリウスを離せ、卑怯者!」

「おい。口を慎めよ。我の手が滑ったら、この女の血が噴き出すことになるぞ」

「くっ……!」

「あんのクソ魔族、メリウスさんや、他のシスターさんまで……!」


 ユウリちゃんが、凄い形相で、ズーカウ達を睨みつけていた。もしかしたら、エクスさん以上に取り乱しているのかもしれない。


「構いませんよ、ネモ。彼女達には、尊い犠牲となってもらい、敵を殲滅しましょう」


 イリスは、相変わらず人の命を軽んじる所があるから、困る。本当に、女神ですか。


「だ、ダメだよ。皆、助けないと……。ぎゅーちゃん、協力してくれる?」

「ぎゅ!」


 レンさんのポケットに忍び込んでいたぎゅーちゃんが、返事をしてレンさんの肩へと飛び移った。ぎゅーちゃんにも協力してもらえれば、どうにかなるかもしれない。

 そう思ったんだけど、ボクの肩を、メルテさんが叩いてきた。


「ダメだ。ここは、おとなしく従うフリをして、スキを伺おう」

「ネモが出来ると言うなら、やればいいと思いますよ」

「そんな危険な賭けに出て、もし誰かが死んじまったら、あたしはあんたを許さない。それでもやるというなら、やりな」

「ちょ、ちょっと、メルテ。どうしたのよ、あんたらしくもない」

「あたしは、当たり前の事を言ってるだけだよ。何も、おとなしく従うって言ってるんじゃない。スキを見て、確実に行こうっていう話さ」

「……」


 そのメルテさんの回答が、ネルさんは何かが気に入らないようで、納得がいかないみたい。目を丸くして、不安げな表情を見せている。


「そ、そうですね。今は従いましょう。幸い、ヤツはおとなしくしていれば、何もしないと言っていますし……」


 エクスさんは、悔しげながらも、メルテさんに同意した。下手に動いて、大切な人を失ってしまうかもしれないという場面だからね。


「あんたの言うとおり。今は急ぐ場面じゃない。だって、どうせ聖女様には手が出せないんだ。無駄に暴れて、無駄に血を流すべきじゃないよ」

「……分かった。それでいい」


 ネルさんも、渋々と言った様子で、それに同意した。でも、やっぱり何かが納得いかないみたいで、本当に渋い顔をしていたのが印象的だ。


「分かった!お前に従うから、人質には手を出すな!それから、殺戮もやめろ!」

「賢明だな」


 エクスさんが叫ぶと、暴れていたズーカウ達が、一斉に静まり返り、おとなしくなった。


「全員、戦闘中止!敵に手を出すな!」


 エクスさんの指示に従い、騎士達も戦闘をやめた。

 双方が戦闘を止めた事により、辺りは偽者の平和に包まれる事になった。一番安心したのは、非戦闘員の一般の人たちで、彼等はこの隙に、安全に走って逃げていく。それを止める人は、いなかった。

 念のため、何名かの騎士が護衛について、どこかへと先導していく。近くに、別の避難場所でも作って、そこで匿うのかな。怪我人も、手を貸しあって、皆と同じ方に連れられていった。懸念されるのは、その中にズーカウがいるという事だけど、全員を確認する事は、さすがに時間がかかりすぎる。簡単に見た限りではいなかったから、後は騎士達に任せておこう。


「それにしても、人質を取って、私達にいやらしい事でも要求してくるのかと思ったんですが、何も言ってきませんね」

「そ、そうだね……」


 ズーカウ達は、塔の前で何人か立って見張ってはいるけど、近づかない限り、何も言ってこない。中の様子は、大きな扉が開いているので丸見えなんだけど、別段変わった事はないようだ。シスターさん達は、特に怪我もなく、ズーカウに囲まれているだけで、拘束もされていない。ただ、メリウスさんを始めとした何人かは、ナイフを喉元に突きつけられている状態で、それが彼女達が逃げられず、ボク達が手を出せない理由となっている。

 だけど、何も要求して来ないので、騎士達は態勢を整え、いつでも戦える準備はできている。囲まれているズーカウ達に、逃げ場はない。


「我は、人間の肉体には興味ない。興味があるのは、人間がもがき苦しむ様だ。お前は、どんな声で泣くのかな。ひひひひひ」

「……」


 現在、ボクの目の前には、茶髪のもじゃ髪の女の人がいる。先ほど、メリウスさんにナイフを突きつけていたズーカウだ。ズーカウはボクをとても警戒しているみたいで、至近距離で監視されている。これじゃあ、作戦会議もできません。


「こんな事をしたって、無駄ですよ。ラクランシュ様の所に行くことは、不可能です。早く人質を解放し、この地を去りなさい」


 レンさんが、監視されているボクとズーカウとの間に立って、ズーカウに訴えかけた。正直、凄く見られていて落ち着かなかったボクは、そのままレンさんの背中を掴み、盾にするようにして様子を伺う事にする。


「無駄ではないさ。我々は、カギを手に入れた」

「カギ……?」

「忘れたのか?我は数ヶ月間、聖女の下で護衛をしていたのだぞ。塔の事も、聖女の事も、知り尽くしている。故に、上への道の封印の解き方も、知っている」

「そんな方法はない!聖女様が封印を解かない限り、絶対に上に行くことはできないはずだ!」


 エクスさんがそう言うけど、ズーカウはただ、不気味に笑うだけだった。

 その時、赤い液体が、塔の中のシスターさん達から噴きあがったのを、ボクは見た。その中には、メリウスさんもいて、一斉に吹き出した血が、辺りを赤く染めていく。

 ナイフを突きつけていた何人かのズーカウが、シスターさんの喉元を切りつけたのだ。


「いやあああぁぁぁぁ!」


 人質に取られているシスターさん達が、叫び声をあげた。それに気づき、皆が塔の方へと注目して、状況に気がついた。


「メリウス……メリウスー!」

「待て。全員動くな。動いたら、人質が死ぬ事になるぞ」

「き、貴様ぁ!手を出さないと言ったのに、何故手を出したああぁぁ!」


 ズーカウに掴みかかるエクスさんに、ズーカウは相変わらず、不気味に笑いながら答える。


「安心しろ。全員、致命傷ではない。10分以内に治療をすれば、助かるはずだ。だが、治療をする事は許さん。治療をしたければ、聖女を呼べ。聖女と引き換えに、治療を許そう。さぁ、どうする?」

「なんて、卑怯な……!」

「……」


 歯噛みするレンさんをよそに、ユウリちゃんが、ボク達を監視していたズーカウに、斬りかかった。 ユウリちゃんは、完全にキレている。怒りに染まったユウリちゃんの理性は飛び、歯止めがきかなくなっているみたいです。


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