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天変地異です


 どういうつもりかと聞かれても、ボクには何の事だか分からない。


「……?」

「っ……!」


 首を傾けると、更に憤りが増したようで、首が強く締め付けられた。別に苦しかったり、痛かったりする訳じゃないけど、いい気分ではない。それに、服が伸びちゃうので、やめてほしい。


「やめてください!」

「やめられる訳がない……!この女は、あの人々を殺そうとしたんだぞ!」

「とにかく、手を離して!」


 レンさんとネルさんが止めに入ってくれるけど、この人の力の方が相当強く、ビクともしないみたい。


「──汚い手で、お姉さまに触るな」

「っ!?」


 レンさんとネルさんが言っても止めなかったのに、ユウリちゃんがそう言っただけで、オルクルさんはボクから手を離してくれた。その額には、何故か冷や汗を浮かべている。確かに怒ったユウリちゃんは怖いけど、そんなに怖いの?こんなに、可愛いのに……。


「す、すみません。少々取り乱しました」


 解放されたボクは、素早くユウリちゃんの背後に移動。その背中に隠れて、様子を伺う事にした。


「あんな連中を殺そうとしたから、何なんですか。助けられておいて、お礼も言えない上に、レンさんを傷つけた連中ですよ」

「だからと言って、殺してもいい理由にはならない」

「彼等は途中から発情し、私たちをただのメスとしか見ていませんでした。あのままおとなしくしていたら、全員犯されて挙句に殺されていましたよ。それなのに、殺す理由にはならないと、貴方は言うのですか」

「そんなおきてもいない出来事を、引き合いに出さないでください。私が言っているのは、罪もない人々を殺すなという事です。彼等は、罪人でも兵士でもない。そんな彼等を殺すと言う事は、この世界の法に背く、重罪行為だ」


 火花を散らす、2人の言い合いに、ボクが入る余地はなかった。でも、双方の言い分は、両方合っているなと思う。おとなしくしていたら、ボク達はこの世界の運命上において、ユウリちゃんが言うような事になっていただろう。でも、あの人達は一応まだそうする前で、ボク達に本当に手を出そうとしていたかは分からない。ボク達が、そういう運命にいるから、勝手にそう思ってしまっただけかもしれないからね。だけど、レンさんに怪我をさせた事は、許せない。ボクだって、それさえなければ別になんとも思わなかったからね。逃げればいいだけだし。


「おきてもいない出来事を引き合いに出すなと言うなら、ネモ様だって、誰も殺していません。おきた事をまとめると、ぎゅーちゃんさんがあの方々を、ディセンターから守ったという事だけです」

「……ええ、途中から拝見しました。にわかには信じがたい光景でしたが」


 レンさんの言葉に、オルクルさんは喧嘩腰だった態度をゆるめた。眼鏡をクイっとかけなおし、それからレンさんの方へと振り返ると、キレイに跪き、頭を下げるという行動に出た。


「レンファエル様、ですね。行方不明と聞いていましたが、よくぞご無事で」


 あ、バレちゃった。フードを脱いで、顔を晒しちゃってるからね。怪我のせいだから、仕方ないけど……。


「頭をお上げください。訳あって、今はこの方々と行動を共にする身。この事に関して今は、不問でお願い致します」

「……分かりました。しかしどういう経緯があれば、モルモルガーダーなどという化物を手懐ける事ができるんですか。そいつは、正真正銘の化物だぞ」

「ぎゅー」


 オルクルさんに睨まれて、ユウリちゃんの肩の上にのっているぎゅーちゃんは、呻った。怒ってるのか、悲しんでいるのか、分からないけど、化物よわばりされて、気持ちの良い物じゃないよね。

 そんなオルクルさんの強気な態度に、また喧嘩が始まっちゃうよ。そう思ったけど、そうはならなかった。


「ぎゅーちゃんは、私たちの友達です。何度か危ない所を助けていただいた事もあります。……なので、忘れないうちに、お礼は言っておきます。ぎゅーちゃんの事、誤魔化して助けていただき、ありがとうございました」


 あ、あのユウリちゃんが、男の人に頭を下げ、お礼を言った。驚天動地。天変地異です。


「あ、ありがとうございました……!」


 ボクも、慌ててユウリちゃんの背中から出て、続いてお礼を言う。


「私が助けたのは、あの人々の方です。あのままでは、そこの化物に殺されていたからな」


 オルクルさんは、ボクの方を睨みながらそう言った。


「そうはなりませんでしたよ。ネモ様は、私の想いを理解してくれましたから。ね、ネモ様」

「……う、うん」


 あの時、確かにボクはレンさんを見て、彼等に怒りをぶつけるのは止めようと思った。だから、別にオルクルさんが現れなくても、あの人達は無事だったはずだ。……たぶんね。


「それと今、ネモ様を化物よわばりしました……?」

「っ……!?」

「しましたね。間違いなく、しました」

「ひ……!?」


 オルクルさんは、額から血を流すレンさんと、ユウリちゃんに挟まれて、悲鳴を漏らすまでに至った。2人の表情は、怒りに満ちていて、瞳孔が開いている。そんな2人に囲まれては、そりゃあ怖いよね。特にユウリちゃんは、懐から剣を半分程抜いてるからね。


「くだらない言い合いはそこまでにしておいて、今この町で起きている事を教えなさい」


 そんな修羅場に、何事もないように割って入ったのは、イリスだ。助かったと言わんばかりに、オルクルさんはレンさんとユウリちゃんから距離をとり、イリスの質問に答える。


「倒したディセンターを調べてみましたが、ディセンターの基幹部分である魔力の結晶に、別の魔力が干渉した形跡が見られました。何者かが、ディセンターに細工をし、暴走させているとみて間違いないです」

「あ」


 ボクは、それを聞いて声を出して思い出した。


「なんですか、ネモ」

「ぼ、ボク、その犯人とさっき、戦いました」

「本当ですか!?教えてください!犯人は誰ですか!?」


 オルクルさんに迫られるボクだけど、よく考えたら言ってもいいものか、迷う。レンさんの方を見て、ボクは黙り込むことになりました。


「……もしかして、犯人は私の父ですか?」

「そ、そそ、そうだったかなー……」

「お姉さま。分かりやすすぎます。でも、そんな素直な所も、可愛くてステキです」

「ひゃ!?」


 不意に、ユウリちゃんにお尻を軽く撫でられて、ボクは悲鳴をあげました。


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