殺すのは、男だけ
さて、早くユウリちゃん達を追いかけないと。これで、生き残ってるディセンターは止まると思うけど、心配だからね。
「ぐ……!」
もう、戦闘は終わった。そう思ったんだけど、おじさんが立ち上がり、ボクを睨みつけてきた。HPは確認してなかったけど、勝手に死んだと思ってました。
ボクは、ステータス画面を開いて、ちゃんと確認してみる。HPの残りは、30。意外と、まだ残っていた。いや、それよりも、その時に一緒に見えた、名前が問題である。
名前:ブラッド・E・ヘンケル
Lv :99
種族:人間
職業:貴族
「ぶっ!」
この人、レンさんのお父さんだ。危うくボクは、レンさんのお父さんを殺してしまう所でした。危ない、危ない。でも、割と元気そうで何よりです。
「がはっ!め、女神様から授かったこの剣の力をもってしても、この老体では敵わぬか……」
「女神様から!?」
道理で、ボクの剣と似ていると思ったんだけど、そういう訳だったのか。
「悪魔め……殺すなら、殺せ。だが、この破壊は止まらぬぞ」
こ、殺す?どうしよう。レベルが99とか示してるし、また暴れられたら厄介そうな人だけど、レンさんのお父さんだもん。殺すわけには行かないよね……。
「ネモさん!」
「ひゃわー!」
突然、目の前に逆さになって姿を現した、半透明の少女……いや、少年?に驚き、ボクは腰を抜かして転んでしまった。前は我慢できたけど、今回は無理でした。
「ありゃ、ごめん」
現れたアンリちゃんは、大して悪びれる様子も見せていないけど、一応謝罪はしてきた。
「い、いいよ。ちょっと、ビックリしただけだから……あれ?」
なんとかすぐに立ち上がったけど、今までそこにいた、レンさんのお父さんの姿が消えてしまっている。逃げたのかな。でも、こんな一瞬でそんなに遠くには逃げられないはず。
「ま、待ってネモさん!ユウリさん達が、大変なんだ!」
「何かあったの!?」
「とにかく来て!急がないと間に合わないよ!」
「う、うん」
ぎゅーちゃんがついてるから平気だとは思うけど、さっきの、レンさんのお父さん。彼はレベルが99を示していた。他にも、同じような人がいても不思議ではない。そんなのと遭遇したら、ひとたまりもないだろう。
レンさんのお父さんの行方は気になるけど……でも、今はユウリちゃん達の方が心配だ。ボクは、アンリちゃんについて駆け出した。
アンリちゃんの足は、凄く速かった。といっても、実際走っている訳じゃなくて、空中を凄い速さで飛んでいる。なので、目的地まではあっという間だ。
「あそこだよ!」
建物の屋上に飛び移ったボクに、アンリちゃんが指差して方向を示した。そこには、元の大きな身体になっているぎゅーちゃんがいる。その後ろにユウリちゃん達もいて、とりあえず、無事みたいだけど、大勢の人たちがそんなぎゅーちゃん達を囲っていて、何やら雲行きが怪しそう。
「化物なんか引き連れやがって!」
「その化物を今すぐ殺せ!」
空を飛び、ぎゅーちゃんの前に降り立つ前に、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。
「ネモお姉さま!」
「ぎゅー!」
降り立ったボクに、素早く反応して抱きついてきたのは、ユウリちゃんだ。ボクの胸に顔をうずめ、両手でしっかりと抱きしめてくる。
「な、なんだ?あんた今、どこから来たんだ……?」
人々は、突然空から降ってきたボクに、戸惑いを隠せない。ちょっと慌ててたので、目立つ形となってしまいました。恥ずかしいので、ボクにだきついていたユウリちゃんを盾にして、身を潜めます。
「何か、あったの?」
「ここへ来る途中、あのディセンターとかっていう白いのに襲われてる彼らを発見したんですが、レンが助けると騒いで、仕方ないのでぎゅーちゃんが助けてあげたんです。ですが、助けられた彼らは、どうしてモンスターがいるんだと大騒ぎ。助けられた恩も忘れて、こうして化物を殺せと騒いでいるという訳です」
簡単に説明してくれたのはイリスだ。おかげで、なんとなく事情は分かった。
「きっと、こいつらのせいで町がこんな事になっちまったんだ!」
「女どもも、仲間だ!殺せ!」
口々に叫ぶ人々が、ボク達に向かって石を投げてきた。ぎゅーちゃんが、そんなボク等を庇ってくれるんだけど、おかしな話だ。助けてあげた人たちに、石を投げつけられるなんて……。
そういえば、昔ボクも同じような事があったな。転んで泣いてる女の子を助けてあげたら、次の日に他の子と一緒になって、ボクに石を投げつけてきた。転んだのは、ボクのせいだって言ってね。理不尽な話だと思ったけど、別に痛くも痒くもないので、放っておいたんだよね。そしたら、飽きてどこかへ行っちゃった。懐かしい思い出です。
「皆さん、もうやめてください!」
ぎゅーちゃんやボクに石が当たっても、痛みも感じず、なんともない。でも、レンさんに当たったら、タダでは済まない。
それなのにレンさんは、ぎゅーちゃんを庇うように立ちはだかり、その石を受け止めた。
「ぎゅ!?」
石は、レンさんの頭に命中してしまった。倒れそうになるレンさんを、ぎゅーちゃんが慌てて触手を伸ばして支えるけど、フードで隠れた額からは、血が流れているのが見える。
それを見て、ボクは怒りが吹き上がってくるのを感じた。というか、もう吹き上がりすぎて、爆発してるよ。
「レン様!」
すぐにネルさんが駆け寄るけど、投石は止まない。でも、ぎゅーちゃんが触手で2人を庇ってくれているので、とりあえずは平気だ。
「お、お姉さま!」
「……止めないで、ユウリちゃん」
「嫌です。止めます」
ユウリちゃんは、ボクの服の裾を軽く引っ張って、そう言った。どうして、そんなに必死に庇うのさ。目の前でレンさんが傷つけられたというのに……絶対に許せないよ。
「殺すのは、男だけ。女の子は、謝ったら許してあげてください。ちなみにレンさんに石をぶつけたのは、男です。私、バッチリ顔を覚えました。絶対に許しません」
「ひっ」
そう言うユウリちゃんの顔が凄く怖くて、ボクは軽く悲鳴をもらしてしまった。ボクと同じく、ユウリちゃんもレンさんが傷つけられて、爆発している。
……でも、分かったよ。ちょっと、止めさせてくるね。




