思い出しました
日が沈んだところで訪れる、お風呂イベント。エロゲの世界で、純愛系と陵辱系を問わず、数多くのイベントが発生するこの場所は、避けては通れない茨の道。
しかもこの家のお風呂は、扉がない。廊下と隣接して、薄いカーテンで仕切られた、心もとない防御。窓は、小さくて人は入ってこれなそうだけど、覗くには十分。
知らない人が入ってきたり覗いてきたら、即投げつけられるよう、石をスタンバイしておく。そうしてボクは、服を脱ぎ捨ててお風呂場へ入った。
この世界には、勿論水道なんて物はない。その代わりに使用されているのが、魔法石というアイテム。輝く石に、魔力をつぎ込むと、その石に刻印された魔法が発動して、お水が出たり、火をおこしたりしてくれる。
ボクは、お風呂場の壁際に設置されている水道の魔法石に、早速指先を触れさせて、魔力を送ってみた。
すると、シャワーの先から暖かなお湯が出てきて、ボクの身体を濡らす。魔法はあんまり得意じゃないボクでも、この通り、簡単に使用できる。なんて、便利な道具なんだろう。
更に、こちらの魔法石に魔力を送ると……泡だった石鹸が、身体を包み込む。ボクはそれを、お湯で洗い流しながら、頭と身体を隅々まで洗っていく。おっぱいも、そして、股も、お尻も。その感触は、やっぱり男だった時のボクとは、全く違う。
「ん」
敏感な肌は、ちょっと変な所を触ると、すぐに身体がビクリとなって、声が漏れてしまう。でも、肌を触る感覚は凄く気持ちが良い。女の人の身体って、皆こうなのだろうか。
それにしても、文明的には勇者の時の世界と同じくらいのレベルなのに、便利な世界だ。勇者時代は、こんな道具なかったから、道行く人は臭い人が多かった。でも、この世界の人達はこの道具のおかげか、臭い人は今のところいない。そして、街中に便が溢れている事もなく、清潔で気持ちいい。勇者時代のような、野蛮な原始人ワールドとは、全く違う。案外良い世界じゃないか、モンスタフラッシュの世界。
「ネモお姉さま!」
「ひゃあああぁぁぁ!」
頭を洗って、油断していたところで、いつの間にかバスルームに進入していた素っ裸のユウリちゃんに、背後から抱きつかれた。背中に当たる、ユウリちゃんのおっぱいの感触。そして、泡だった石鹸で滑る肌の感触が、たまらない。
「私の身体で、洗って差し上げるので、どうぞ横になってください」
か、身体で洗うって、そういう事だよね。ゴクリと、ボクは唾を飲んだけど、そんな事ユウリちゃんにしてもらう訳にはいかないよ。
「ユウリちゃん、ちょっと寝てて!」
「はふっ!?へ……は……ふ……ぐぅ」
奴隷紋に命じると、ユウリちゃんは糸が切れたように、崩れ落ちた。ボクは、それを倒れないように支えてあげて、腕に抱く。その際に、ユウリちゃんのおっぱいや、大切な場所が目に入ってしまった。ボクは、それを見て、再びゴクリと唾を飲む。形の良いおっぱいに、キレイな肌。健やかな寝顔は、天使のよう。奴隷紋に命じたことにより、ユウリちゃんは今なら、何をされても起きない。
ボクは、邪な考えを吹き飛ばすように、首を振り回した。
ユウリちゃんは、廊下の床に寝かせてタオルを被せておく。ボクは、シャワーの続きを済ませ、着替え終わってから、ユウリちゃんに起きるように命令した。
「ふぇ。あれ……おはようございます、ネモお姉さま」
「お、おはよう、ユウリちゃん」
「え……あれ!?私、裸!?お、お姉さま……眠っている間に、だなんて、そんな……」
「ち、違うよ!?何も、してないからね!?」
そんな、乙女のような顔で恥らわれると、ボクも困ってしまう。というか、自分から色々やってきてるじゃないか。
「分かっていますよ。あーあ。また失敗です。あ、そのワンピースよくお似合いです。抱きついてもいいですか?」
ボクが今着ているのは、寝巻きにとユウリちゃんが用意した、白のワンピース。ボク達の服は、しばらく箪笥の中で眠っていたせいで、臭いもキツイ。なので、今日はもう着収めで、洗濯する事にしたのだ。
そして、可愛くお願いしてくるユウリちゃんに、ボクは首を横に振って応えた。
「ちぇ。私も、シャワー浴びてきますね」
「う、うん。いってらっしゃい」
浴室へと向かうユウリちゃんを見送って、ボクは、今日眠る予定の部屋を訪れた。2階の角部屋は、屋根が斜めになっていて、それに伴って天井も斜め。だけど、天窓が備え付けられていて、そこから見える星空は圧巻だ。部屋にはベッドと、箪笥や古い本等が飾られていて、ボク達が着ているこの服も、この部屋の箪笥から拝借したものだ。
ベッドの上には布団もあったんだけど、さすがに使い物にならなかった。もう、ホコリが凄すぎて、しかも何か汚いから、捨てることにした。
と、言う訳で、今日は床に雑魚寝かな。ボクは、床に寝そべって、天窓から見える星空を見上げる。その星空は、勇者の時に野宿して見上げた空と、そっくり。いつも一人のボクだったけど、寂しくなってこうやって夜空を見上げると、優しい声でボクの話し相手になってくれる人がいた。それが、イリスティリア様。イリスティリア様は、姿こそ見ることはできなかったけど、いつもボクの他愛ない話を聞いてくれて、優しくしてくれた。そのイリスティリア様は、もういない。今は天界を追放されたとかで、奴隷さんになって、ラメダさんのお店にいる。なんと、おいたわしい事か。
「あ」
ボクは、その事を思い出して、冷や汗を垂らしました。
「お姉さま!お風呂、上がりました!さぁ、私と一緒に、夜の営みを──」
「ユウリちゃん!」
「はひ!?」
ボクは、部屋を訪れたユウリちゃんの肩を掴み取り、ユウリちゃんに迫った。眼前、数センチの所に美少女の顔が迫るけど、今はそんな事を気にしている場合じゃないよ。
「い、イリスティリア様の事、忘れてた!」
「あ……」
ユウリちゃんも忘れていたようで、その額に汗を浮かべる。
「あの、エルフの女の子の事でしたね。どうしましょう。完全に忘れていました……」
ボク達は、1000万Gという大金を手に入れた。そして、この家を買った。家の値段は、890万G。残りは、110万G。そして、イリスティリア様の値段も、890万G。全く足りない。元々イリスティリア様を買うために用意したお金が、不思議な事に、今は手元にない現象がおきている。
「今、私達にできる事は……」
「う、うん」
「とりあえず、眠りましょう。考えても、仕方ないですし、疲れました」
「そ、そうだね!」
ボクとユウリちゃんは、もう疲労困憊。その案は、最高の提案だ。床に並んで寝そべって、簡単なタオルを被り、寝る体勢は整った。
「あ。寝てる間に、変な事はしないでね」
眠る前に、奴隷紋にそう命令。
「ちっ」
ユウリちゃんの舌打ちが聞こえてきた。何か企んでいたようだ。
ともあれ、コレで安心して眠れる。ボクは目を閉じて、疲れからか、あっと言う間に眠りについた。




