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おつかれさまでした


 激しい爆発が、衝撃で周囲の建物のガラスを割り、地響きを起こした。どうやら、自ら爆発すると、爆発力が上がるみたいで、その爆発は破壊されたあとの爆発よりも、倍くらいの威力があったと思います。

 でも、当然ボクは無事だ。こんな爆発くらいじゃ、傷一つつかないよ。でも、服が破けると嫌なので、剣を振り、斬撃でおきた衝撃で、迫る爆発を防がせてもらった。だから、ボクが立っている周囲は、地面も削れていない。一方で、まともに爆発をくらった地面は大きく削られて、大穴が開いている。


「ふぅ」


 残ったディセンターは、数えられる程に減っていた。あとは、楽勝かな。早く片付けて、ユウリちゃん達を追わないとね。

 そう思った時だった。突然、残っていたディセンターの目玉が砕かれ、そして細切れにされた。そこまで細かくされては、爆発などする余裕もない。ディセンターは全滅した。

 それをしたのは、ボクではない。闇夜に現れた、男の人がそうさせた。


「驚いた。ディセンターを、こうも容易く倒すことのできる者がいたとは……。ヘイベスト旅団のギルドマスターである、レイ・ヘイベスト以上の、力量が垣間見える」

「……」


 現れたのは、初老の男の人。白髪と黒髪が交じり合った頭で、顔はシワが目立ち始めている。目の下の大きなクマが特徴で、何かに取り付かれているんじゃないかと思わせるような、虚ろな目をしている。姿勢がとてもよくて、背中は真っ直ぐに張っている上に、その服装は立派な制服姿で、偉い人なのかなと予想できる。

 ディセンターを倒してくれたから、味方、なのかな……でも、何か変だよこの人。知らない男の人が目の前に現れたものだから、警戒せざるをえないけど、それ以外にもこの人を警戒する要素がある。この人、人なんだけど、気配が異質だ。普通の人の気配がシチューなら、この人の気配は納豆みたい。

 何よりも、その手に持っている剣。たった今、ディセンターを細切れにしたその剣は、どこかボクが手にしている武器に似ている気がする。形は全然違うんだよ。彼の持っている剣は、細いレイピア型の剣で、ボクの剣とは形も扱い方も、全く異なる。


「こ、こんばんは……」

「……」


 とりあえず、刺激しないよう、しっかりと挨拶をしてみた。でも、睨まれるだけで、無視されてしまいました。声が小さすぎて、聞こえなかったのかな……。


「ああ……分かったぞ。そういう事か」


 何が?と思った瞬間だった。ボクの目の前に、レイピアの先端が迫っていた。ボクはそれを、顔を背けて回避した。


「な、なな、何で攻撃を……するんですかっ」


 剣をボクが回避したから、勢いそのままに横を通り過ぎていったおじさんに、ボクは尋ねた。すると、おじさんはゆっくりとこちらを向き直り、口を開く。


「全ては、世界のため……。この町に巣食う悪魔を駆除し、平和をもたらすための、行動だ」

「よ、よく分かりません……」

「教えてやろう。女神様が、私にこう仰ったのだ。この町に、悪魔が忍び込んでいる。その悪魔を殺した上で、穢れたこの地を壊滅させよと」


 め、女神様が、この地を壊滅?そんな事、言うかな……。いや、でも、アスラ様ならもしかしたら、言うかもしれない。という事は、この人はアスラ様にそう言われて、それを実行しているの?だとしたら、その悪魔っていうのは、ボクやイリスの事を指している可能性が高い。だから、ボクを殺そうという訳か。


「もしかして……ディセンターを操って、町の人たちを襲わせてるのは……」


 ボクは、そう思い当たった。彼はボクの目の前でディセンターを倒したけど、それは単に、ボクと話をするのに邪魔だっただけで、本当は犯人なんじゃないかと。


「私だ。地下水道を守るディセンター達に細工をし、私に使役するように仕組ませてもらった」

「お、大勢の人が、死んでしまいました。こんな事、今すぐやめてくださいっ!」

「それが、目的だ。女神様の言いつけ通り、この地は壊滅する。もうじき、邪魔な聖女は死に、そして魔王の軍勢が攻め入ってくる事になるだろう。……ズーカウの奴が失敗したのは、想定外だったがな」


 ズーカウって、死の呪いを聖女様にかけようとした人の事だっけ。ボクが聖女様を庇ったので、聖女様は呪われずに済んだんだよね。その人を知っているという事は……。


「貴方は、魔王の味方なんですか……?」

「違う。私は、女神様の味方だ」


 女神様の味方という事は、ボク達の敵と言えるのかもしれない。アスラ様は、ボクを殺そうと竜を送り込む程に、熱心だから。そもそも、こんなに大勢の人を、無差別に殺そうとするような人は、敵以外の何者でもないです。


「……分かりました。それじゃあ、貴方を倒して、こんな事止めさせます」

「出来るのなら、やってみるがいい。引退したとはいえ、剣には少々自信がある。悪魔を目の前にして、引き下がる身ではないぞ」

「……」

「……」


 少しのにらみ合いの後、動いたのはおじさんの方だった。先ほどと同じように、レイピアの細い剣先が、ボクの眼前に向かって迫ってくる。でも、それはフェイントだ。攻撃を直前で止めると、おじさんはボクの背後に回りこみ、いくつもの突きを繰り出して来た。それは、まるで同時に繰り出されたかのように見えるけど、早すぎてそう見えるだけだ。こんなの、まともな人がまともにくらったら、一瞬にして穴だらけになっちゃうよ。


「ぬぅ!?」


 ボクは、既にそこにはいない。逆におじさんの背後に回りこんでいて、おじさんが繰り出した突きは全て、空を斬った。

 そして、そんなおじさんに向かい、ボクは剣を振り下ろす。意外だけど、おじさんはそれを、受け止めてみせた。ボクに背を向けたままの体勢で、後ろを見る事無く、その細い剣で受け止めたのだ。器用にも、そのまま剣を受け流し、素早くボクから距離をとった。

 たぶん、体勢を整えようとしたんだろうけど、ボクは追撃している。おじさんとの間合いを一瞬で詰めたボクは、もう一度、同じように剣を振りぬいた。

 今度は、受け流す余裕がなかったようで、剣と剣がぶつかり合い、大きな音と衝撃が起こった。押し合いで、ボクが負けるはずもなく、おじさんはすぐに押し負けて、剣が迫る事になる


「アイスブレイク……!」


 突然、おじさんの剣が氷に包まれ、ボクの剣まで凍りついた。魔法剣の使い手だったんだね。氷は更に、ボクの手まで侵食してくるけど、関係ないのでそのまま振りぬきます。氷はあっけなく砕け散り、意味がなかったね。


「っ!?」


 振りぬいた剣は、おじさんの身体を引き裂いた。でも、傷は思ったよりも浅い。押し負けると分かった瞬間に、一歩引き下がって最小限の傷で済むようにしたのだ。この人、戦い慣れているみたいで、咄嗟の判断と動きが、的確で早い。

 でも、そこへ更にボクが繰り出した蹴りにより、吹っ飛んで建物の壁にぶつかり、壁にヒビをいれてから地面に倒れこんだ。

 戦闘終了だね。おつかれさまでした。


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