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三択


 ボクは、ディセンターに向かい、石を投げつけた。石は、ツボの赤い目玉に当たり、そのまま貫通。空を突き破り、飛び去って、見えなくなってしまった。どこまで行ったのかな。

 それは分からないけど、壊れたツボは、空中でそのまま爆発。周囲に破片を飛び散らせ、それがボク達に襲い掛かってくる。


「えいっ」


 ボクが繰り出した蹴りにより、すさまじい風が巻き起こった。その風により、爆発で散らばろうとしていた破片は、その威力を弱め、地面に落ちていく。

 そういえば、ゲームでもちょっとだけHPを残すと、自爆して大変な事になってたな。次は、もっとちゃんと、倒さないとね。


「さ、さすがネモ……ディセンターも、ネモにかかったら瞬殺なのね……」


 そういうネルさんは、レンさんと、ユウリちゃんを背に庇っていた。その小さな身を挺して、爆発から2人を守ろうとしてくれたみたい。

 イリスは……余裕で腕を組んで離れているので、届かなかったようだ。放置されて、ちょっと可愛そうだけど、そんな所でボケっと突っ立ってたから、仕方がない。


「ネモ様、あちらの通りの方の人たちも、助けないと……!」


 レンさんが言っているのは、先程ボク達が通ってきた通りの事だ。凄い悲鳴が聞こえるから、あちらは大変な事になっているだろうと、予想できる。


「放っておけばいいです」

「イリスさん、酷いです!人でなしです!鬼です!悪魔です!」


 冷たく言ったイリスに、レンさんが珍しく怒り、イリスの胸倉を掴んで揺らした。


「誰が悪魔ですか!というか、離しなさい頭が揺れる!」


 よく、頭を揺らされるな、イリスは。いつか、首の骨が折れちゃうんじゃないだろうか。そう思ってしまうくらい、激しく揺さぶられている。


「待ってください、レンさん」


 それを止めたのは、ユウリちゃんだった。レンさんの手を掴み、止めさせた。


「イリスが言いたいのは、聖女様の下へ急ごうという意味です。お姉さまが傍にいれば、聖女様の身は確実に守られるでしょう。ですが、今ここで全ての人々を助けていたら、聖女様の下に辿り着くまで、長い時間がかかってしまいます。そして、聖女様がもし倒れる事になれば、それこそ皆が死ぬことに繋がりかねません」


 イリスが、そんな事を考えていたなんて……。

 ボクには、全く分からなかった。分からずに、レンさんに加勢して頭を叩こうとしていたよ。ごめんね、イリス。


「……では、目の前で死に至りそうな人々を、見捨てろと言うのですか!?私は、嫌です!」

「嫌で通るほど、この世界は甘くないんですよ……。選びなさい。聖女か、目の前の大衆の人々の命か」

「っ……!」

「レン様……」


 ボクは、顔を伏せたまま、選べずに拳を震わせるレンさんの頭の上に、手を置いた。

 普通、命と命を選べと言われたら、選べないよね。当たり前の事だ。ボクだって、選べない。だから、こういう時は、したいようにすれば良いんじゃないかなと思う。


「二択じゃないよ。三択だよ。両方助ければ、いいだけだから」


 ボクはそう言って、アイテムストレージから、名前のない剣を取り出した。白い鞘に収まった、イリスから渡された、名剣だ。


「すぐに、追いつく。だから、皆は聖女様の所に急いで」

「ネモ様……!」


 ようやく顔をあげてくれたレンさんが、涙目でボクの顔を見つめてきた。その頬は赤く染まり、どこか色っぽい。

 思わず見とれてしまうけど、すぐに恥ずかしくて目を逸らした。普段はユウリちゃんと似て変態発言の多いレンさんだけど、ユウリちゃんとは可愛い所まで似ていて、こういう不意をつかれると強制的に思い出される。レンさんも、凄く美人で、ボクはこんな人から、好きだと言ってもらえている事を。


「何をカッコつけてるんですか、貴方は。カッコつけるのはいいけど、できるんですか。もし、そんな事をしていて、聖女が死んでしまったら、どう責任をとるつもりですか。今は、一般人よりも、あのいかれた聖女を優先すべき時なんですよ」

「カッコつけてるわけじゃないよ。だってボクは、勇者だもん。この世界に来てから、イリスにそう認めてもらったんだから、勇者らしく、皆を助けられる存在でいたいなって、思ったんだ」

「はぁ……それが、カッコつけてるって言ってるんです。……急いでくださいよ。あまり離れると、私たちの身も危ないんですから」


 イリスは、呆れたようにしながらも、笑っていたような気がした。顔はすぐに背けちゃったから、確証はないけどね。


「わ、分かってるよ。ごめんね、我侭言って。ユウリちゃんも──」

「お姉さま、カッコ良すぎて、ユウリは感激です!い、今すぐ、今すぐベッドインしたいくらい、感動しています!」


 それは、感動じゃなくて、興奮じゃないのかな。目を充血させた上に、鼻息を荒くして、本当に今にも襲い掛かってきそうで怖いです。


「行きますよ、ユウリ!」

「あ、ああー……お姉さま、お気をつけてぇ!」


 ユウリちゃんは、イリスに背中を押されて去っていった。


「ご、ごめんなさい、ネモ様。私が、我侭を言ったばかりに……」

「我侭なんかじゃ、ないです。人を助けたいと思うのは、全然そんなんじゃなくて……凄く、良い事だと思います」

「ネモ様……私も今すぐ、ネモ様とベッドインしたくなってきました!」

「ネモと、レン様がベッドイン、ですって……!?」


 レンさんは、ユウリちゃんと同じく、血走った目でそう言って来た。なんか、全部台無しになってしまった気がするけど、これぞレンさんという感じで、安心してしまう。

 一方で、そんなレンさんを止めるべき存在のネルさんは、鼻血を噴き出し、嬉々としています。

 こうしている間にも、大勢の人の叫び声と、爆発音が聞こえてきているというのに、呑気な物だ。


「と、とにかく、先に中央教会に、向かっていてください。ぎゅーちゃん、皆を守ってあげてね」

「ぎゅ!」


 レンさんのポケットから伸びてきた触手が、先端を丸めて拳を作り、任せろと言っている。ぎゅーちゃんがついていれば、とりあえずは平気だろう。


「レン!ネル!早く来なさい、急ぎますよ!」


 追いかけてこないレンさんとネルさんに、イリスが立ち止まって手を振って、声を掛けてきた。


「い、今行くわ!レン様」

「はい。ネモ様、どうかお気をつけて」

「う、うん」


 そうして皆が去っていき、1人になったボクは、皆とは逆方向に目を向けた。それから、ゆっくりと剣を抜き、深呼吸をしてから、地を蹴り、空高く舞い上がった。


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