表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/492

ははは


「「ごめんなさい……」」


 人が増えて、いつもより、ちょっと騒がしくなった食卓に、2人の謝罪の声が響き渡った。


「分かればいいわ。それからアンリ。食事の時に上を飛ぶのも、禁止。イスに座っておとなしくしていなさい」

「ぼ、ボク、幽霊だからイスに座るとかっていう概念は……」

「何?何か、文句あるの?あるなら言ってみなさい。聞いてあげるから」

「な、ないです。お行儀よく、します」


 ネルさんのあまりの迫力に、アンリちゃんまでもがおとなしくいう事を聞いてしまう。

 あんなにアンリちゃんを怖がっていたネルさんが、1日にして立場が逆転してしまっている。


「それにしても、この町に元魔王がいるとかは、にわかには信じられないけど、とにかく魔王が動き出したという事は分かったわ。これじゃあ、益々レン様の家の事どころじゃないわね……」

「それは、仕方ありません。父の事は気になりますが、この町を守る事の方が大切です」

「……はぁ。後から後から、色々な事がおこるわ。いきなり生贄にされたり、竜が襲撃してきたり、町の地下に潜ったり、家に幽霊が出たり、今度は魔王の軍勢が来るとか、ネタがつきないわね」


 ネルさんは、あきれたように、溜息をついて言った。でも、決して凄く嫌がっている訳ではなく、ちょっと笑っている。


「苦労をかけます。死んで、お詫びを……」

「レンさん。ジェノスさんのが、うつってます。あんなのの真似をしないでください」


 ユウリちゃんは、そう言いながらも、笑っていた。ちょっとウケたみたいで、可愛い笑顔が見られました。

 そうやって、魔王の軍勢の事も忘れて楽しいひと時が過ぎていくけど、1人足りない。夜には帰ると言っていたメルテさんは、夕飯が終わり、眠る時間になっても、帰ってこなかった。


「……」


 ボクはその日、夜中にふと、目が覚めた。

 両隣には、眠っているユウリちゃんと、イリスの姿。起こさないように、そっとベッドを抜け出したボクは、隣の部屋の扉を開き、覗き込む。決して、えっちな事を目的としている訳ではなく、メルテさんが帰ってきているかどうかの、確認をしているのだ。でも、暗くてよく見えない。

 ふと、1階から人の気配がした。もしかしたら、メルテさんが帰ってきてるのかなと思い、ボクは部屋を覗くのをやめて、1階へと向かった。すると、リビングを覗く、半透明の幽霊の姿があった。

 アンリちゃんだと分かってるから別に良いけど、コレって凄いホラーだよね。だって、幽霊が部屋を覗いてるんだよ?凄く怖い。


「あ、アンリちゃん……?」

「ああ、ネモさん」

「何してるの?メルテさん、帰ってきた?」

「ううん。そうじゃなくて、ネルさんが……」

「私が、何」

「わっ」


 リビングの扉を開け放ち、ネルさんが中から姿を現した。どうやら、気配の正体はネルさんだったようで、リビングにはメルテさんの姿はない。


「こそこそしてないで、入ってくればいいのに」

「お、お邪魔します」


 ネルさんに招かれる形となり、リビングに入ったボクに、ネルさんは温かいお茶をいれてくれた。

 イスに座り、温かいお茶をすすりながら、夜遅い時間を過ごす。


「ず、ずっと、起きてたんですか?」

「……まぁ、ちょっと、眠れなかったし」

「照れない、照れない。メルテさんが帰ってくるのを、健気に待ってたんでしょう?ボク、ずっと見てたから知ってるよ。玄関を開けて、外を覗いてみたり、戻ってきたと思ったらまた覗いて、落ち着かない様子だったよね」

「ぐ……見てたの。いいでしょ、別に。アイツが帰ってくるって言って、帰って来ないのって、本当に珍しい事なのよ。……心配にも、なるでしょ」


 目を伏せて、今にも泣き出してしまいそうなネルさんに、ボクとアンリちゃんは慌てた。

 ボクも、もしユウリちゃんが、帰ってくると言っていた時間に帰ってこなかったら、凄く心配になると思う。ボクの場合、たぶん家を飛び出してしまうだろう。あと、たぶん泣く。だから、気持ちは分かる。


「だ、大丈夫だよ。あのメルテさんの事だから、きっとすぐに、酔っ払って帰って来るよ。いやー、偶然良い酒が手に入って、飲んでたら気づいたらこんな時間だったよー、て言ってね」

「そ、そうですよ。だって、あのメルテさんですよ。だから、きっと平気です。すぐに、がははって笑って帰って来ます」

「そうね……。あの、メルテだもんね。ところで、目にゴミが入ったからちょっと洗ってくるわ」

「……」

「……」


 泣きそうだったんじゃなくて、ゴミが目に入っただけだったみたい。ボク達の慌てっぷりを、返して欲しいです。

 目を洗って戻ってきたネルさんは、イスに座ると、それでも元気なさそうに溜息をついた。


「メルテさんとは、付き合いは長いんですか?」

「……物心ついたときからの、幼馴染よ。小さな頃は、レン様とも一緒に遊んだりして、将来は冒険者になって、レン様の警護をするんだーって張り切ったものよ。その夢は叶って、レン様と、私と、メルテ。三人で、たまに無茶な事をしながら、頑張ってきた。特にメルテと私は一緒に暮らしていて、ほぼ毎日一緒にいるような仲だから、いないと落ち着かないのよ……たとえ、酔いつぶれて寝てるだけだとしても、ね」

「そ、そうなんですね」


 2人は、友達とか、親友というより、家族みたいなものなんだね。子供の頃からのお友達とか、ボクにはいないから、ちょっと羨ましい。……というか、友達といえる存在がそもそも、いなかった事を思い出して、ちょっとむなしい。


「いいなぁ。ボクもメルテさんみたいな、幼馴染欲しかったよ。それで、可愛いボクを守るために戦って欲しい!」

「お姫様を守る、ナイト役ってことね。確かに、あんな風貌だから、似合うかもしれないわ。そういえば、子供の頃からあんなだったから、学校の劇では、いつも男役をやらされてたわね。懐かしい」


 昔の事を思い出したのか、ネルさんは笑いながら語ってくれた。少しは元気が出たみたいで、安心する。


「アンリと、ネモは、子供の頃どんなだったの?」

「……」

「……」


 けど、ネルさんのそんな何気ない質問で、ボクとアンリちゃんは凍りついた。


「ぼ、ボクは……男なのに、何で女の格好してるんだーって、バカにされて、虐められて、学校には行ってたけど、行きたくなかったなー。ははは」

「ぼ、ボクは、両親が村の人から嫌われてたので、そのせいでボクも嫌われていて……ボクのせいでもあるんですけど、よく石投げの的にされたりしてました……人見知りなので、当然お友達もいませんでした。ははは」

「うん、分かった。聞いた私が、悪かった」


 ボクとアンリちゃんの、乾いた笑い声が重なり合い、空気が一気に重くなった。そんな時だった。

 町中に、けたたましい鐘の音が、鳴り響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ