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へいらっしゃい


 話を聞くと、ちょっと前にボクの家を、ヘイベスト旅団の人が襲ってきた時に、逃げ出したユウリちゃんを、偶然通りかかったこの子が助けてくれたらしい。この子によって、彼らはボコボコにされ、おかげでユウリちゃんは無事だったらしい。さすがは、強運のユウリちゃんだ。


「ゆ、ユウリちゃんを助けてくれて、ありがとうございます」


 ボクは、そんな彼女に向かって、お礼を言った。この子のおかげで、ユウリちゃんが助かったのは、凄く感謝すべき事だし、魔族がどうのとかは一旦置いておき、お礼は言うべきだ。


「……」


 少女は、ボクのお礼を受け入れてくれたのかどうか、全く分からない。だって、ずっと無表情なんだもの。特にリアクションを起こす訳でもなく、オマケに喋らない。

 も、もしかして、知らない内に、何か失礼な事でもしちゃったのかな。不安になり、ボクは自分の服をチェックしたり、顔を触ってみるけど、特に変わったところはない。


「落ち着いてください、お姉さま。前も、こんな感じでした。その時は私も、ちょっとだけ困ってしまいましたけどね」

「そ、そうなんだ……」

「あの時は、本当にありがとうございました。貴女が覚えていなくとも、私はハッキリと覚えています。オマケに、今回も悪漢に絡まれていた所、貴女が助けてくれたんですよね?重ね重ね、ありがとうございます」

「……」


 ユウリちゃんのお礼の言葉にも、やっぱりウェイトレスの少女は無言。そして、無表情。

 もしかして、耳が悪いとか、喋れないとかなのかな。だとしたら、どうやって伝えればいいのだろうか。


「助けていただいた上で厚かましいのですが、この地図の場所が分かりませんか?私達、ここに行きたくて迷子になってしまって……」

「……」


 レンさんから地図を受け取ったウェイトレスの少女は、黙ってその地図を見る。そしてすぐに、その地図をレンさんに返した。


「……」


 すると、無言のまま歩き出して、行ってしまう。


「あーあ。レンさんが厚かましいから、怒って行っちゃいました」

「あ、厚かましいって……そんなに怒ることですか?」

「じゃなければ、レンさんちょっと臭うから……」

「臭うってなんですか!私、臭くないですよ!臭くないですよね!?」


 言い争いをする2人だけど、ウェイトレスの少女は、少し行った所で振り返り、こちらを見ている。その行動が意味するのは、付いて来いという事だ。

 それに気づいたレンさんとユウリちゃんは、言い争いをやめ、顔を見合わせる。


「……こっち」


 消え入りそうな、か細い声だったけど、少女が初めて声を出してくれた。同時に、道の向こうを指差して、指し示してくれている。


「行きましょう!」

「ほ、ほら、私別に臭くなかったでしょう」

「はいはい」

「い、行くよ、イリス」

「私の魔法、しょぼすぎません……?魔法の杖、何のために手に入れたんです?」


 ボクは、未だに落ち込んで座り込んでしまっているイリスを手に抱いて、ウェイトレスさんを追いかけた。

 ウェイトレスさんは、ボク達が追いついたのを確認すると、1回だけ路地を曲がり、その先で立ち止まった。そこは、曲がる前の路地よりも、更に細い、人が2人、並んで通れるか、通れないかくらいの、非常に狭い道だ。だけど、左右の壁には扉があるので、一応ここら辺も家なのかな。どうして、こんなにぎゅうぎゅうに詰めて建物たてたのかな。不便そう。

 そんな扉の内中の1つを、ウェイトレスさんが開き、躊躇いも無く中へと入っていった。ボク達も、続いて中に入ったんだけど、その瞬間、鼻にいい匂いが通り抜けていった。


「へいらっしゃい。ご注文はなんにしやしょう」


 ウェイトレスの少女は、ボク達をそう言って、出迎えた。どこかで聞いたことのあるような台詞だけど、ウェイトレスさんの言うような台詞じゃないよ。

 あと、相変わらず無表情で、何の感情も感じさせない。


「お、お姉さま。コレって……」

「う、うん」


 ボク達が踏み入れた家。そこに広がる空間は、一言で言ってラーメン屋。カウンター席が並んだだけの、狭いお店だけど、間違いなくそうだ。カウンターの向こうでは、オーナーらしき男の人が、包丁を鳴らして何かを刻んでいる。テレビでしか見たことがないけど、絶対にラーメン屋だ。そして、良い匂いの正体は、ラーメンだったんだ。カップラーメンには何度もお世話になっていたので、分かります。


「ロガフィ様、お帰りですか。今日こそちゃんと、お店の宣伝をしてきて……」


 カウンターの奥で、包丁を鳴らしていた男の人が、ボク達の方をみた。男の人は、カウンターの上を沿うようにして天井から垂れ下がった壁に、顔が隠れてしまうくらい、背が大きい。なので、わざわざ腰を曲げて、覗き込むようにして見てきた。その頭は、タオルがぐるぐる巻きにされていて、覆い隠されている。


「い、いいいいい、いらっしゃいませえぇん!どうぞ、カウンターへ、どうぞ!」


 ボク達と目が合うと、男の人は、緊張した様子で、慌ててそう言って来た。慌てすぎて、言葉がちょっと変だ。

 でも、なんだろう。凄く、親近感がわいて、ちょっと嬉しくなってしまう。


「あの、すみません。私達、食べに来た訳ではなく、ある人に、この場所に行くように言われてきたんです」

「は、はぁ、そうなんですか……」


 男の人は、レンさんにそう言われて、何故かちょっと安心した様子を見せ、レンさんから地図を受け取った。


「こ、これ、うちですね」

「え」

「それから、この地図ってもしかして、聖女様が書かれた物では……?あ、違ってたらごめんなさい。死んでお詫びするので、許してください」

「そ、その通りです。ラクランシュ様が、私達にここに行くようにと、仰ったのです」

「それで、ご用件はなんでしょう。も、もしかして、聖女様の気が変わって、我々を殺しに来たのですか……?」


 男の人は、凄くビクビクとした様子で、レンさんにそう尋ねる。レンさんも、そんな男の人の様子に、できる限り柔らかな声を出して対応するんだけど、男の人には通じない。男の人は、今にも泣き出してしまいそうな、悲しげな表情を浮かべている。まるで、大きな男の人を、レンさんが苛めているかのような構図に見えてしまう。


「まるで、初めて会った時の、お姉さまみたいです。お姉さまは可愛かったんですが、男がコレだと……レンさん、やっちゃったらどうですか」

「ひぃ!」


 ユウリちゃんが、脅かすような事を言ったもんだから、男の人が小さな悲鳴をあげてしまった。

 ボク、こんなだったかな。もっと、ちゃんとしてた気がするんだけどな……。


「こ、殺したりなんか、しませんし、何もしません!ある事をお伝えするようにと、頼まれたのです」


 レンさんは、慌ててそう言って、怯える男の人に訴えた。


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